共犯処罰の根拠論
共犯処罰の根拠論を体系的に解説。責任共犯論・違法共犯論・因果的共犯論の対比、純粋惹起説・修正惹起説・混合惹起説の内容と帰結を整理します。
この記事のポイント
共犯(教唆犯・幇助犯)はなぜ処罰されるのか。この問いに対する回答が共犯処罰の根拠論であり、共犯論全体の理論的基盤をなす。責任共犯論・違法共犯論・因果的共犯論(惹起説)の3つの基本的立場があり、現在は因果的共犯論が通説的地位にある。因果的共犯論の中でも、純粋惹起説・修正惹起説・混合惹起説の3つの見解が対立し、具体的事案での帰結に差異が生じる。
共犯処罰の根拠論の3つの立場
総論的対比
学説 処罰根拠 共犯の本質 責任共犯論 正犯を犯罪に陥らせたこと(堕落させたこと) 正犯者への影響 違法共犯論 正犯に違法行為を行わせたこと 正犯の違法行為への関与 因果的共犯論(惹起説) 共犯行為が法益侵害を惹起したこと 法益侵害への因果的寄与責任共犯論
内容
- 共犯の処罰根拠は、正犯者を犯罪に陥れた点(堕落させた点)にある
- 共犯は、正犯者の「堕落」に対する責任を問われる
- 教唆犯は正犯を犯罪に誘引したこと、幇助犯は犯罪を容易にしたことが処罰根拠
帰結
- 正犯者が有責でなければ共犯は処罰されない(極端従属性説と結びつく)
- 是非弁別能力のない者を利用した場合: 教唆犯ではなく間接正犯
- 正犯者が適法行為を行った場合: 共犯は不成立
批判
- 法益保護の観点から処罰根拠を説明していない
- 「堕落」という概念が不明確
- 正犯者が責任無能力の場合の処理が困難
- 現在ではほとんど支持されていない
違法共犯論
内容
- 共犯の処罰根拠は、正犯者に違法な行為を行わせたことにある
- 正犯の違法行為を媒介として、法益侵害に関与した点に処罰根拠を求める
- 正犯の行為が違法であることが共犯成立の前提(制限従属性説と親和的)
帰結
- 正犯者の行為が違法であれば、正犯者に責任がなくても共犯は成立する
- 正犯者の行為が適法であれば(正当防衛等)、共犯は成立しない
- 共犯の処罰は正犯の違法性に従属する
批判
- 正犯の「違法」行為への関与だけでは、処罰根拠としてなお不十分
- 共犯独自の不法内容が明確でない
- 因果的共犯論の方が法益保護の観点からより適切に処罰根拠を説明できる
因果的共犯論(惹起説)
内容
- 共犯の処罰根拠は、共犯行為が正犯行為を通じて法益侵害(結果)を惹起した点にある
- 共犯も正犯と同様に、法益侵害に対する因果的寄与を根拠として処罰される
- 現在の通説的見解
基本的な考え方
- 刑法の目的は法益保護である
- 正犯が法益侵害を直接的に惹起するのに対し、共犯は間接的に惹起する
- 間接的であっても法益侵害への因果的寄与がある以上、処罰は正当化される
- 共犯の処罰根拠は共犯自身の法益侵害惹起にある
因果的共犯論の3つの見解
純粋惹起説
内容
- 共犯は、自己の行為が法益侵害を惹起したことを根拠に処罰される
- 共犯の不法は正犯の不法から完全に独立して判断される
- 正犯の行為が適法であっても、共犯独自の不法が認められれば処罰可能
帰結
場面 純粋惹起説の結論 適法行為への教唆 法益侵害があれば共犯成立の余地あり 正当防衛者への教唆 共犯が成立しうる 自傷行為への教唆 法益侵害があれば共犯成立しうる 被害者の同意がある場合 共犯独自の不法判断批判
- 正犯なき共犯を認めることになり、共犯の従属性の原則に反する
- 処罰範囲が広すぎる
- 適法行為への関与を処罰することの正当化が困難
修正惹起説
内容
- 共犯は、正犯の違法な行為を通じて法益侵害を惹起したことを根拠に処罰される
- 正犯の行為が違法であることが共犯成立の前提
- 正犯の違法性と共犯の違法性は連帯する
帰結
場面 修正惹起説の結論 適法行為への教唆 共犯不成立 違法行為への教唆 共犯成立 自殺教唆 自殺が違法であれば共犯成立 被害者の自傷への教唆 自傷が違法であれば共犯成立批判
- 正犯の違法と共犯の不法の関係が明確でない
- 自殺関与罪(202条)の説明が困難(自殺が不可罰であるのに共犯が処罰される理由)
- 共犯独自の不法が十分に考慮されていない
混合惹起説(通説)
内容
- 共犯は、正犯の違法な行為を通じて法益侵害を惹起したことと、共犯自身の不法の両面から処罰される
- 正犯の不法と共犯独自の不法の混合に処罰根拠を求める
- 制限従属性説と結びつく
帰結
場面 混合惹起説の結論 適法行為への教唆 共犯不成立(正犯の違法性がない) 違法行為への教唆 共犯成立 真正身分犯への関与(非身分者) 65条1項により共犯成立 消極的身分犯への関与 共犯独自の不法判断も加味 被害者の同意ある場合 正犯の違法性と共犯固有の不法の両面から判断理由付け
- 純粋惹起説の「処罰範囲の拡大」という問題を回避
- 修正惹起説の「共犯独自の不法の欠落」という問題を克服
- 共犯の従属性と独自性のバランスが取れている
- 判例の立場とも整合的
具体的事案への適用
正当防衛者への教唆
AがBに「Cがお前を殴りに来るから反撃しろ」と教唆し、Bが正当防衛としてCを殴った場合。
学説 Aの罪責 純粋惹起説 Cへの傷害の教唆犯が成立しうる 修正惹起説 Bの行為が適法(正当防衛)なので教唆犯不成立 混合惹起説 Bの行為が適法なので教唆犯不成立必要的共犯と共犯処罰
被害者的立場にある者(対向犯の一方当事者)が処罰されない場合。
学説 説明 純粋惹起説 法益侵害の惹起があるが、立法者意思により不処罰 修正惹起説 正犯の違法行為を通じた法益侵害だが、立法政策上の不処罰 混合惹起説 共犯独自の不法が欠けるため不処罰と説明可能自殺関与罪(202条)の説明
学説 説明 純粋惹起説 共犯独自の法益侵害惹起として説明可能 修正惹起説 自殺が違法でないなら202条の説明が困難 混合惹起説 202条は独立の犯罪類型であり、共犯の処罰根拠論とは別に説明判例の立場
判例は、共犯処罰の根拠論について正面から論じた判決は少ないが、以下の点から因果的共犯論(混合惹起説に親和的)の立場にあると評価されている。
- 制限従属性説を前提とした判断が多い(正犯の有責性を要しない)
- 共犯の因果的寄与を重視した判断がなされている
- 正犯の違法性が阻却される場合に共犯の成立を否定する帰結は混合惹起説と整合
試験対策での位置づけ
共犯処罰の根拠論は、共犯論の全体を支える基礎理論であり、以下の論点に直結する。
- 共犯の従属性の程度: 極端従属性説・制限従属性説・最小限従属性説の選択
- 共犯と身分: 65条1項・2項の解釈
- 必要的共犯の処罰範囲: 対向犯の一方当事者の不処罰の根拠
- 承継的共同正犯: 途中参加者の帰責範囲
- 論文試験では、根拠論の抽象的展開よりも、具体的事案への適用を通じた理解が問われる
関連判例
- 最判昭25.7.11: 教唆犯の成立に正犯の有責性を要しないとした判例(制限従属性説)
- 最決昭43.12.24: 共犯の因果的寄与に関する判断を示した判例
- 最決平4.6.5: 共謀共同正犯の成立要件に関する判例
- 練馬事件(最大判昭33.5.28): 共謀共同正犯の理論的根拠に関するリーディングケース
まとめ
共犯処罰の根拠論は、責任共犯論・違法共犯論・因果的共犯論の3つの立場に大別され、現在は因果的共犯論(惹起説)が通説である。惹起説の中でも、純粋惹起説・修正惹起説・混合惹起説が対立し、混合惹起説が最も支持を集めている。混合惹起説は、正犯の違法行為を通じた法益侵害の惹起と共犯独自の不法の両面から処罰根拠を説明し、共犯の従属性と独自性のバランスを取る立場である。この根拠論の理解は、共犯の従属性、身分犯の共犯、必要的共犯等の個別論点の解決に不可欠な基盤となる。