構成要件の機能と罪刑法定主義|刑法の基本原理
構成要件の機能と罪刑法定主義を解説。派生原則、構成要件の概念と機能、客観的・主観的構成要件要素の区別を体系的に整理します。
この記事のポイント
構成要件とは、犯罪行為を類型的に記述した刑罰法規の定型のことをいい、犯罪個別化機能・違法推定機能・故意規制機能の3つの機能を持つ。罪刑法定主義は「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」とする近代刑法の根幹原理であり、構成要件はこの原理を条文の形で具体化したものである。構成要件該当性は、構成要件・違法性・責任という犯罪成立要件の第一段階に位置づけられる。
「構成要件の機能とは何か」「罪刑法定主義とはどういう原則か」「構成要件該当性はどう判断するのか」という3つの問いに、この記事は冒頭から順に正面から答える。以下では、まず各概念の端的な定義を示し、続いて要件・論点・判例・あてはめ・答案での書き方へと展開する。
まず結論:3つのキーワードを一言で
詳しい議論に入る前に、検索意図に直接対応する3つの定義を先に置く。
- 構成要件の機能とは:構成要件が犯罪論の中で果たす役割のことで、①どの犯罪かを区別する犯罪個別化機能、②該当すれば原則として違法と推定される違法推定機能、③故意の認識対象を画する故意規制機能の3つを指す。
- 罪刑法定主義とは:何が犯罪となり、どのような刑罰が科されるかは、行為以前に法律であらかじめ定められていなければならないとする原則。国家の刑罰権を縛り、国民の予測可能性と自由を保障する。
- 構成要件該当性とは:問題となる具体的事実が、刑罰法規に定められた構成要件に当てはまるかどうかの判断。犯罪成立要件(構成要件該当性→違法性→責任)の出発点をなす第一段階である。
この3者は別個のテーマではなく、一本の線でつながっている。罪刑法定主義(原理)が「犯罪は法律で類型化せよ」と要求し、その要求に応えて条文に書かれた類型が構成要件(道具)であり、その類型に事実を当てはめる作業が構成要件該当性(適用)である。検索でこれらの語にたどり着いた読者の多くは「言葉の意味」と「相互の関係」の両方を知りたいはずなので、本記事ではまず各語を独立に定義したうえで、最後に必ず関係を一望できるよう整理している。
構成要件とは何か
定義
構成要件とは、刑罰を科すべき行為を類型的・抽象的に記述した、各刑罰法規の定型をいう。例えば刑法199条の「人を殺した者」、235条の「他人の財物を窃取した者」が、それぞれ殺人罪・窃盗罪の構成要件である。
立法者は、社会に存在する無数の行為のうち、処罰に値する違法・有責な行為を抽出し、共通する特徴を抜き出して「型」として条文に固定する。この「型」が構成要件であり、現実の事件はこの型に照らして犯罪か否かが判定される。
なお、刑法各則の各本条(199条、235条など)が「個々の犯罪の構成要件」を定めているのに対し、未遂(43条)・共犯(60条以下)などの総則規定は、各本条の構成要件を修正・拡張する役割を持つ。前者を基本的構成要件、後者によって作られる類型を修正された構成要件と呼ぶことがある。いずれにしても、何が処罰されるかは構成要件の形で法定されていなければならず、ここに罪刑法定主義との不可分の結びつきがある。
構成要件論の展開
構成要件を犯罪論体系のどこに位置づけ、違法性・有責性とどう関係づけるかは、ドイツ刑法学以来の大きな論争点であった。
学者 構成要件の位置づけ ベーリング 純粋に記述的・没価値的な行為類型(違法性・有責性と無関係) マイヤー 違法性の認識根拠(違法性の徴表) メツガー 違法類型(違法性と一体的に把握) 小野清一郎 違法有責類型(違法かつ有責な行為の類型)ベーリングは当初、構成要件を価値判断を含まない没価値的な記述と捉えた。しかし「わいせつ」「名誉」のような規範的要素や、不法領得の意思のような主観的要素の発見により、構成要件を純粋に記述的なものと見ることには無理が生じた。そこで構成要件を違法性と結びつけて理解する見解(違法類型説)が有力となり、日本では小野清一郎が責任との結びつきも加えた違法有責類型説を唱えた。
現在の日本の通説は、構成要件を違法有責類型と解している。すなわち、構成要件は単なる外形の記述ではなく、違法かつ有責な行為の類型であって、構成要件に該当することは違法性・有責性を一応推定させる、と考える。
構成要件の機能(最重要)
検索意図の中心である「構成要件 機能」に正面から答える。構成要件は犯罪論の中で次の3つの機能を担う。これは答案でも頻出のため、定義を正確に押さえたい。
犯罪個別化機能(罪刑法定機能)
犯罪個別化機能とは、各犯罪を相互に区別し、何が処罰対象かを画定する機能をいう。
例えば「他人の財物を奪う」行為でも、暴行・脅迫を用いれば強盗罪(236条)、用いなければ窃盗罪(235条)、欺いて交付させれば詐欺罪(246条)と、構成要件の違いによって罪名と法定刑が振り分けられる。構成要件がなければ「悪い行為」を漠然と処罰することになりかねず、罪刑法定主義の要請とも直結する。この機能は、構成要件が罪刑法定主義を具体化する装置であることを示すため、罪刑法定機能とも呼ばれる。
違法推定機能
違法推定機能とは、ある行為が構成要件に該当すれば、その行為は原則として違法であると推定される、という機能をいう。
殺人の構成要件に該当する「人を殺す」行為は、通常それ自体で違法である。ただしこの推定はあくまで「一応の」推定であり、正当防衛(36条)や緊急避難(37条)などの違法性阻却事由が認められれば、違法性は否定される。つまり構成要件該当性は違法性の徴表(しるし)であって、確定ではない。違法性阻却事由は例外として位置づけられ、その不存在をいちいち積極的に立証しなくても、構成要件該当によって違法性が事実上推定される点に実務上の意義がある。
故意規制機能
故意規制機能とは、故意の認識対象(何を認識していれば故意があるといえるか)を構成要件が画定する機能をいう。
故意(38条1項)が認められるには、行為者が構成要件に該当する客観的事実を認識・認容していたことを要する。殺人罪なら「相手が人であること」「自分の行為で死ぬかもしれないこと」の認識が必要であり、相手を案山子だと誤信していれば(事実の錯誤)殺人の故意は阻却される。このように、何を認識していれば故意ありとなるかの範囲を構成要件が枠づけるため、故意規制機能と呼ばれる。
機能 内容 関連条文・概念 犯罪個別化機能 各犯罪を相互に区別する(窃盗罪と強盗罪の区別等) 罪刑法定主義 違法推定機能 構成要件に該当する行為は原則として違法と推定される 違法性阻却事由(36条・37条) 故意規制機能 故意の認識対象は構成要件該当事実であり、構成要件が故意の内容を規定する 故意(38条1項)・事実の錯誤罪刑法定主義とは
意義と沿革
罪刑法定主義とは、いかなる行為が犯罪となり、いかなる刑罰が科せられるかは、あらかじめ法律で定められていなければならないとする原則である。「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし(nullum crimen, nulla poena sine lege)」という標語で表現される。
その思想的基盤は、①国家の恣意的な刑罰権行使から国民の自由を守るという自由主義と、②国民の代表機関である議会が刑罰を定めるべきだとする民主主義(権力分立)にある。歴史的には、フォイエルバッハの心理強制説(あらかじめ刑罰を予告することで犯罪を抑止する)にも理論的根拠が求められてきた。国民は事前に「何をすれば罰せられるか」を知ることで、安心して行動の自由を享受できる。
憲法上の根拠
罪刑法定主義は、憲法の次の規定にその根拠を持つとされる。
- 憲法31条(適正手続の保障):刑罰を科すには法律の定める手続によることを要するとし、罪刑法定主義の総則的根拠とされる。
- 憲法39条前段(遡及処罰の禁止):実行の時に適法であった行為について刑事責任を問われないとし、事後法の禁止を保障する。
- 憲法73条6号ただし書(政令への罰則委任の制限):政令には法律の委任がなければ罰則を設けられないとし、法律主義を支える。
派生原則
罪刑法定主義からは、次の5つの派生原則(または内容)が導かれる。
派生原則 内容 法律主義 犯罪と刑罰は国会の制定する法律で規定しなければならない 事後法の禁止(遡及処罰の禁止) 行為時に犯罪でなかった行為を事後に制定された法律で処罰してはならない 類推解釈の禁止 刑罰法規を被告人に不利益な方向に類推適用してはならない 明確性の原則 構成要件は一般人が理解可能な程度に明確でなければならない 内容の適正の原則 犯罪と刑罰の内容自体が適正でなければならない(過度に広範な処罰の禁止等)法律主義からは、慣習刑法の排除(慣習法を直接の処罰根拠とできない)や、白地刑罰法規における委任の限界が問題となる。事後法の禁止からは、行為後に刑が重くなった場合は軽い旧法が適用される(刑の変更につき軽い方の適用)という帰結が導かれる。
類推解釈と拡張解釈の区別
類推解釈は禁止されるが、拡張解釈は許容される。両者の区別は、法文の可能な語義の範囲内か否かによる。
- 拡張解釈:法文の語義の可能な範囲内で、その意味を広げて解釈すること(許容)。
- 類推解釈:法文の語義の枠を超えて、類似の事案に規定を当てはめること(被告人に不利益な場合は禁止)。
例えば、「電気」を窃盗罪の「財物」に含めることは拡張解釈か類推解釈かが議論された。判例(大判明治36年5月21日)は電気の窃盗を肯定したが、その後の刑法245条で「電気は、財物とみなす」と明文化され、立法的に解決された。被告人に有利な類推(違法性阻却・責任阻却の方向)は、罪刑法定主義の趣旨(国民の自由保障)に反しないため、許容されると解されている。
明確性の原則と判例
明確性の原則は、構成要件が不明確であれば国民が予測できず、罪刑法定主義の趣旨が没却される、という考えに基づく。リーディングケースは徳島市公安条例事件(最大判昭和50年9月10日)である。
最高裁は、ある刑罰法規が明確性を欠き憲法31条に違反するか否かは、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうか」によって決すべきとした。本件の「交通秩序を維持すること」という文言については、不明確とまではいえず合憲とした。この判断基準は明確性の原則を論じる際の出発点となる。
構成要件該当性とは
定義と位置づけ
構成要件該当性とは、現実に問題となっている具体的事実が、刑罰法規の定める構成要件に当てはまるかどうかの判断をいう。犯罪が成立するためには、まず行為が構成要件に該当しなければならない。構成要件該当性は、犯罪成立要件の第一段階であり、違法性・責任の審査はその後に続く。
構成要件に該当しない行為は、いかに反道徳的・反社会的であっても犯罪とはならない。これは罪刑法定主義の当然の帰結であり、構成要件該当性が「処罰の入口」を画する役割を果たすことを意味する。
構成要件要素
構成要件該当性を判断するには、その構成要件がどのような要素から成るかを分析する必要がある。構成要件を分解した個々の要素を構成要件要素という。
客観的構成要件要素と主観的構成要件要素
分類 内容 具体例 客観的構成要件要素 行為・結果・因果関係など外形的な要素 殺人罪の「人を殺す」行為、死亡結果、行為と結果の因果関係 主観的構成要件要素 故意・過失、特別な目的・動機 窃盗罪の「不法領得の意思」、通貨偽造罪の「行使の目的」伝統的には、客観面を構成要件・違法性で、主観面を責任で扱うと整理されたが(古典的体系)、不法領得の意思や目的犯における目的のように、客観的要素では説明できない主観的要素が構成要件段階で必要となる場合が発見された。これを主観的構成要件要素と呼ぶ。
記述的構成要件要素と規範的構成要件要素
分類 内容 具体例 記述的構成要件要素 感覚的・知覚的に認識可能な要素 「人」「物」「殺す」 規範的構成要件要素 裁判官の価値判断・評価を必要とする要素 「わいせつ」「公然」「名誉」規範的構成要件要素については、評価が裁判官の判断に委ねられるため、明確性の原則との緊張関係が生じうる。もっとも、抽象的な文言であっても解釈によって基準が読み取れる限り、直ちに違憲とはならない(前掲・徳島市公安条例事件の基準)。
構成要件該当性の判断構造
構成要件該当性は、おおむね次の順序で検討する。
- 実行行為:構成要件に該当する行為(法益侵害の現実的危険を有する行為)があるか。
- 結果:構成要件が結果を要求する場合(結果犯)、その結果が発生したか。
- 因果関係:実行行為と結果との間に刑法上の因果関係があるか。
- 構成要件的故意(または過失):客観的構成要件該当事実の認識・認容があるか。
このうち因果関係の判断基準については、条件説・相当因果関係説・危険の現実化(客観的帰属論)など学説の対立があり、判例は近年、行為の危険が結果へと現実化したかという観点(危険の現実化)を重視する傾向にある。
実行行為の意義
実行行為とは、構成要件に該当する行為、すなわち法益侵害の現実的危険性を有する行為をいう。単なる準備行為や、危険が抽象的にとどまる行為は実行行為にあたらず、これが未遂と予備を分ける基準にもなる。例えば殺人の場合、被害者に向けて拳銃を構え発砲しようとする行為は実行行為だが、凶器を購入する段階は予備にとどまる。実行行為性が認められて初めて、構成要件該当性の検討が本格的に動き出す。
実行行為は作為が典型だが、不作為によっても構成要件該当性が認められる場合がある(不真正不作為犯)。この場合、結果発生を防止すべき作為義務と、作為が可能であったこと(作為可能性)が要件として加わり、作為犯と同視できる程度の構成要件該当性が求められる。
構成要件的故意の位置づけ
故意を構成要件要素と捉えるか、責任要素と捉えるかは体系上の争点である。古典的体系は故意を責任要素のみと捉えたが、目的的行為論以降、故意を構成要件的故意として構成要件段階に位置づける見解が有力となった。通説(違法有責類型説)も、故意規制機能を説明する前提として、客観的構成要件該当事実の認識・認容を構成要件的故意として構成要件該当性の中で扱うことが多い。
この理解によれば、客体を案山子と誤信した先述の事例のように、客観的構成要件該当事実の認識を欠く場合(事実の錯誤)には、構成要件段階で故意が阻却されることになる。これは故意規制機能の具体的な現れである。
具体例とあてはめ
抽象論を、簡単な事例で当てはめてみる。
事例:AがBを殴り死なせた場合
Aは、口論の末にBの顔面を殴打したところ、Bは転倒して頭を強く打ち、死亡した。
構成要件該当性から検討する。傷害致死罪(205条)の構成要件は「身体を傷害し、よって人を死亡させた」ことである。①Aの殴打は身体への有形力の行使(実行行為)にあたり、②Bは死亡し(結果)、③殴打により転倒・頭部強打を経て死亡しており、殴打の危険が死亡結果に現実化している(因果関係)。④Aには殴打の認識があり傷害の故意も認められる。よって傷害致死罪の構成要件に該当する(殺意があれば殺人罪を検討する)。
次に違法性。正当防衛などの違法性阻却事由が問題となる事情がなければ、違法推定機能により違法性が肯定される。最後に責任。Aに責任能力があり、責任阻却事由がなければ、傷害致死罪が成立する。
この検討順序こそが、構成要件→違法性→責任という三段階審査であり、構成要件該当性がその起点であることが分かる。
事例:犯罪個別化機能の働く場面
Aは、Bが寝ている隙にBの財布を持ち去ろうとした。ところがBが目を覚まして抵抗したため、Aは突き飛ばして財布を奪い逃走した。
当初の「寝ている隙に持ち去る」行為だけなら窃盗罪(235条)の構成要件に該当する。しかし、Bの抵抗を排除するため突き飛ばす暴行を加えて財物を奪った点を捉えれば、暴行・脅迫を手段とする強盗罪(236条)の構成要件該当性が問題となる(窃盗の機会に暴行を加えて財物の取還を防ぐなどした場合は事後強盗罪〔238条〕も検討対象となる)。同じ「他人の財物を取る」行為でも、暴行・脅迫の有無という構成要件要素の違いで罪名と法定刑が大きく変わる。これが犯罪個別化機能の典型的な現れである。罪名選択を誤れば法定刑も処理も変わるため、まずどの構成要件に当てはまるかを慎重に画定する必要がある。
事例:罪刑法定主義(類推解釈の禁止)の働く場面
ある条文が「車馬の通行」を禁じているとき、自動車をこれに含めて処罰できるか。
「車馬」という文言の通常の語義に自動車が含まれると評価できれば拡張解釈として許容されるが、語義の枠を超えて「交通機関一般」へと押し広げるなら類推解釈となり、被告人に不利益な方向では禁止される。条文の文言を出発点に、可能な語義の範囲内かを慎重に画定する——この思考が罪刑法定主義(類推解釈の禁止)の実践である。なお明確性が問われる場面では、前掲・徳島市公安条例事件の基準に立ち返ることになる。
事例:故意規制機能の働く場面
Aは暗がりで人影に向けて発砲したが、それは実は案山子(かかし)であった。
殺人罪(199条)の故意には「客体が人であること」の認識が必要である(故意規制機能)。Aは人だと誤信していたが客体は案山子なので、客観的には殺人の構成要件該当事実(人の死)が存在せず、かつ人を殺す危険のある行為と評価できれば殺人未遂が問題となる。逆に、人を案山子と誤信して撃った場合(人がいるのに人と認識していない場合)は、故意規制機能により殺人の故意が阻却され、過失致死等の問題となる。構成要件が故意の認識対象を画していることが、結論を左右する。
罪刑法定主義の各派生原則を掘り下げる
派生原則は、それぞれが具体的な論点を抱えている。試験でも頻出のため、内容を一段深く整理しておく。
法律主義と委任立法
法律主義は、犯罪と刑罰を国会の制定する法律で定めることを要求する。もっとも、現代では専門的・技術的事項を行政の命令(政令・省令・条例)に委ねる必要があり、白地刑罰法規(処罰の要件の一部を他の法令や行政処分に委ねる規定)や委任立法が広く存在する。
ここで問題となるのが委任の限界である。憲法73条6号ただし書が示すとおり、政令に罰則を設けるには法律の委任が必要であり、しかも一般的・包括的な白紙委任は許されない。委任する法律自体が、処罰の対象・刑の種類と程度について、ある程度具体的な基準を示していなければならないと解されている。条例による罰則についても、地方自治法・憲法94条の枠内で、相当程度具体的な委任があれば許容されると理解されている。
事後法の禁止(遡及処罰の禁止)
行為時に適法であった行為を、後から作った法律で処罰してはならない(憲法39条前段)。この原則は刑罰法規の遡及適用を禁じるものであり、国民の予測可能性を守る中核的保障である。
派生的に、行為後に法律が変更され刑が軽くなった場合には軽い刑が適用される(刑の変更につき被告人に有利な扱い)。逆に行為後に刑が重くなっても、重い新法を遡及適用することは許されない。なお、判例変更によって従来は不可罰とされていた行為が処罰されることになった場合に、これが事後法の禁止に反するかという論点があるが、判例は判例変更による不利益な遡及適用を直ちに違憲とはしていない(最判平成8年11月18日参照)。
類推解釈の禁止が守るもの
類推解釈の禁止は、裁判官が条文の文言を超えて処罰範囲を広げることを防ぎ、立法者でなく裁判官が事実上「犯罪を創造する」事態を阻止する。ここで禁止されるのはあくまで被告人に不利益な類推であり、利益類推(責任阻却・違法性阻却の方向への類推)は許される点に注意したい。
明確性の原則と適正の原則
明確性の原則は、構成要件が漠然不明確であってはならないとする手続的・形式的な要請であり、内容の適正の原則は、処罰範囲が過度に広汎であってはならない・刑罰が残虐であってはならないといった実体的な要請である。両者は実体的デュー・プロセス論として、憲法31条が単なる手続保障にとどまらず実体の適正をも要求すると理解する立場から導かれる。
構成要件・違法性・責任の相互関係をどう捉えるか
構成要件をどう位置づけるかによって、違法性・責任との関係の説明が変わる。代表的な理解を整理する。
立場 構成要件の性格 違法性阻却事由の扱い 行為類型説 没価値的な行為の記述 構成要件該当は違法性と無関係。違法性は別個に積極認定 違法類型説 違法な行為の類型 構成要件該当により違法性が推定され、阻却事由が例外 違法有責類型説(通説) 違法かつ有責な行為の類型 違法性も責任も一応推定され、各阻却事由が例外として働く通説の違法有責類型説に立つと、構成要件該当性が認められれば違法性・責任が一応推定されるため、答案でも「構成要件に該当する以上、特段の事情がない限り違法・有責である」とつなげやすい。もっとも、この推定は反証可能な一応の推定にすぎず、阻却事由の存否は独立に検討する必要がある。
なお、消極的構成要件要素の理論(違法性阻却事由の不存在を構成要件の消極的要素と捉える立場)は、構成要件と違法性を一体化させる見解として知られるが、日本の通説は三段階審査を維持しこれを採らない。三段階を維持することで、構成要件該当性という客観的・類型的判断と、違法性・責任という個別的・実質的判断とを切り分けられる利点がある。
犯罪論の体系(三段階審査)
日本の通説的犯罪論は、以下の三段階で犯罪の成否を判断する。
- 構成要件該当性:行為が構成要件に該当するか。
- 違法性:違法性阻却事由(正当防衛・緊急避難等)がないか。
- 有責性(責任):責任阻却事由(責任能力の欠如・期待可能性の不存在等)がないか。
構成要件に該当し、違法性阻却事由も責任阻却事由もない場合に、はじめて犯罪が成立する。
各キーワードの関係を一望する
キーワード 性質 役割 罪刑法定主義 原理・原則 「犯罪と刑罰は法律であらかじめ定めよ」と要求する基本原理 構成要件 制度・道具 罪刑法定主義の要請に応えて条文化された犯罪の類型 構成要件の機能 構成要件の働き 個別化・違法推定・故意規制という3つの役割 構成要件該当性 適用・判断 具体的事実を構成要件に当てはめる第一段階の審査このように、罪刑法定主義という大原理を出発点に、構成要件という道具が生まれ、その機能と当てはめ(構成要件該当性)が犯罪論を動かしている、という流れで理解すると全体像がつかみやすい。
答案での書き方
論文式試験で構成要件・罪刑法定主義を論じる際のポイントを整理する。
- 構成要件該当性は必ず最初に書く。違法性・責任の検討に入る前に、「①実行行為→②結果→③因果関係→④故意」の順で淡々と当てはめる。問題となる要素だけを厚く、争いのない要素は端的に認定する。
- 罪刑法定主義(特に類推解釈の禁止・明確性の原則)は、文言解釈が争点となる場面で持ち出す。条文の文言をどこまで広げて解釈できるかが問われたとき、「拡張解釈は可、類推解釈は不可」という規範を示し、可能な語義の範囲内かを論じる。
- 明確性が問われたら、徳島市公安条例事件の基準(通常の判断能力を有する一般人の理解において適用の有無を判断できる基準が読み取れるか)を引用する。
- 構成要件の機能は、論点の理由づけに使う。例えば故意の認識対象を論じる際に「構成要件の故意規制機能から、認識対象は構成要件該当事実である」と書くと、論証に厚みが出る。
- 違法性阻却事由を論じる前に「構成要件該当性が認められる以上、違法性が推定される(違法推定機能)。もっとも、本件では正当防衛が問題となる」とつなぐと、体系的な流れが示せる。
- 罪名選択に迷う事案では、犯罪個別化機能を意識し「いずれの構成要件に該当するか」を最初に確定する。構成要件要素の有無(暴行の有無、欺罔の有無など)の認定が罪名を決める鍵になる。
よくある質問
Q1: 構成要件の機能は結局いくつ覚えればよいですか
中心となるのは犯罪個別化機能・違法推定機能・故意規制機能の3つである。犯罪個別化機能は罪刑法定主義との関係を強調して「罪刑法定機能」と呼ばれることもあるが、内容は同じと考えてよい。まずこの3つを定義とセットで正確に言えるようにするのが先決である。
Q2: 罪刑法定主義は慣習刑法を禁止しますか
法律主義の帰結として、慣習法を犯罪・刑罰の直接の根拠とすることは禁止される。ただし、被告人に有利な慣習法(違法性阻却の慣習等)については、罪刑法定主義の趣旨(国民の自由保障)に反しないため認められるとする見解がある。
Q3: 構成要件該当性と違法性の関係はどうなっていますか
構成要件が違法(有責)類型であるとする通説的立場によれば、構成要件に該当する行為は原則として違法と推定される(違法推定機能)。違法性阻却事由の存在が認められる場合にのみ、例外的に違法性が否定される。
Q4: 「不法領得の意思」は構成要件要素ですか
判例・通説は、窃盗罪の成立に不法領得の意思(権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思)を必要とし、これを主観的構成要件要素と位置づけている。客観的要素では説明できない主観的要素の代表例である。
Q5: 拡張解釈と類推解釈はどう区別するのですか
法文の可能な語義の範囲内で意味を広げるのが拡張解釈(許容)、語義の枠を超えて類似事案に及ぼすのが類推解釈(被告人に不利益な場合は禁止)である。境界は条文の文言の通常の意味をどう画するかにかかっており、一義的な公式はない。電気と財物の関係のように、最終的に立法で解決された例もある。
Q6: 構成要件該当性が認められれば犯罪は成立しますか
成立しない。構成要件該当性はあくまで第一段階であり、違法性阻却事由(正当防衛・緊急避難など)と責任阻却事由(責任能力の欠如・期待可能性の不存在など)がいずれも存在しないことが確認されて、はじめて犯罪が成立する。構成要件該当性は「犯罪の入口」を画するにすぎない点に注意が必要である。
Q7: 構成要件と罪刑法定主義はどう関係しますか
罪刑法定主義は「犯罪と刑罰は法律であらかじめ類型化して定めよ」と要求する原理であり、その要求に応えて条文の形で類型化された犯罪の型が構成要件である。したがって構成要件の存在自体が罪刑法定主義の具体化であり、構成要件の犯罪個別化機能(罪刑法定機能)は、まさにこの原理を担保するものといえる。
関連条文
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
― 日本国憲法 第31条
何人も、実行の時に適法であつた行為……については、刑事上の責任を問はれない。
― 日本国憲法 第39条前段
まとめ
- 構成要件の機能は、犯罪個別化機能・違法推定機能・故意規制機能の3つ。どの犯罪かを区別し、該当すれば違法を推定し、故意の認識対象を画する。
- 罪刑法定主義は「法律なければ犯罪なし、法律なければ刑罰なし」の近代刑法の根幹原理で、憲法31条・39条前段・73条6号ただし書を根拠とし、法律主義・事後法の禁止・類推解釈の禁止・明確性の原則・内容の適正の原則を派生原則とする。
- 構成要件該当性は、具体的事実を構成要件に当てはめる犯罪成立要件の第一段階であり、実行行為・結果・因果関係・故意の順で検討する。
罪刑法定主義(原理)が構成要件(道具)を生み、構成要件の機能と構成要件該当性(適用)が犯罪論を動かす——この一本の流れを押さえれば、3つのキーワードは一体のものとして理解できる。
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