刑法の答案の書き方|犯罪論の体系に沿った検討フレーム
司法試験の刑法答案の書き方を解説。犯罪論の体系に沿った検討順序、共犯処理のフレームワーク、罪数の処理方法を具体例とともに整理します。
この記事のポイント
刑法の答案の書き方とは、犯罪論の体系に沿って「構成要件該当性→違法性→責任→(未遂・共犯)→罪数」の順に各犯罪の成否を検討し、各論点を「問題提起→規範定立→当てはめ→結論」の型で記述する作法のことである。 この体系と型を崩さないことが、答案の説得力と読みやすさを決定し、ひいては高評価につながる。
本記事では、まず「刑法の答案の書き方」の全体像を示したうえで、受験生の多くがつまずく共同正犯の答案の書き方を独立した章で詳しく解説する。検討の順序、論点ごとの論証例、具体的なあてはめ、よくある誤解までを通して、答案用紙の上で何をどの順に書けばよいかを具体的に示す。
刑法の答案の書き方とは
定義:体系に沿った犯罪成立要件の検討
刑法の答案の書き方とは、問題文中の各人の各行為について、その行為が犯罪として成立するか否かを、犯罪論の体系(構成要件該当性・違法性・責任)に沿って順番に検討し、結論に至るまでの過程を論理的に記述することをいう。
刑法は「ある行為に刑罰を科してよいか」を判断する法分野であり、その判断枠組みが犯罪論の体系である。答案は、この枠組みに事案の事実を当てはめていく作業を、読み手(採点者)が追えるように文章化したものにほかならない。したがって、答案の良し悪しは、
- 検討すべき犯罪・行為を漏れなく拾えているか(網羅性)
- 体系の順序を崩していないか(論理性)
- 問題となる要件に紙幅を割き、争いのない要件は簡潔に処理できているか(メリハリ)
- 規範と当てはめが対応しているか(論証の精度)
の4点でほぼ決まる。
犯罪論の体系(検討の大枠)
犯罪が成立するためには、以下の3つの要件をすべて充足する必要がある。答案でも必ずこの順に検討する。
段階 内容 主な検討事項 構成要件該当性 法律が定める犯罪類型に当てはまるか 実行行為・結果・因果関係(客観面)/故意・過失(主観面) 違法性 行為が法的に許されないか 正当防衛・緊急避難・正当行為などの違法性阻却事由の不存在 責任 行為者を非難できるか 責任能力・故意責任・期待可能性などの責任阻却事由の不存在構成要件は「違法・有責な行為の類型」であるから、原則として構成要件に該当すれば違法・有責が推定される。そこで答案では、構成要件該当性を積極的に認定したうえで、違法性・責任は「阻却事由があるか」という形で消極的に検討するのが基本となる。問題文に正当防衛をうかがわせる事情がなければ、違法性・責任の段階は「特段の事情はなく、違法性・責任が阻却される事由はない」と一言で処理してよい。
検討の順序を間違えないための原則
刑法答案で最も多い失点は、順序の混乱である。次の原則を守る。
- 客観から主観へ:実行行為・結果・因果関係(客観的構成要件)を先に検討し、その後に故意・過失(主観的構成要件)を検討する。故意は「客観的構成要件に該当する事実の認識」であるから、客観面が確定しないと主観面を論じられない。
- 構成要件→違法性→責任:この三段階を逆転させない。例えば責任能力に問題があっても、まず構成要件該当性・違法性を検討してから責任の段階で論じる。
- 正犯→共犯:共犯事案では、まず正犯(直接実行した者、または検討の起点となる者)の罪責を確定し、その後に共犯者の罪責を検討する。
- 時系列順:同一人物に複数の行為がある場合、原則として行為の時系列順に検討する。
答案の基本フレームワーク
単独犯の検討順序
甲の罪責
1 ○○罪(△条)の成否
(1) 構成要件該当性
ア 客観的構成要件
・実行行為:「~した行為は○○罪の実行行為に当たるか」
・結果:「Vの死亡という結果が発生している」
・因果関係:「甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められるか」
イ 主観的構成要件
・故意:「甲にはVを殺害する認識・認容があった」
(2) 違法性阻却事由
・正当防衛等の検討
(3) 責任阻却事由
・責任能力等の検討
(4) 結論
2 罪数処理
共犯事案の検討順序
甲の罪責
1 ○○罪の共同正犯(60条・△条)の成否
(1) 共謀の存在
(2) 共謀に基づく実行行為
(3) 構成要件該当性(上記の検討)
(4) 結論
乙の罪責
1 ○○罪の共同正犯(60条・△条)の成否
(甲と同様の検討)
2 独自の罪責
(乙固有の行為についての検討)
検討の順序と配分
人物ごとに検討する方法(基本)
メリット デメリット 各人物の罪責が明確 共犯関係の記述が重複しやすい 罪数処理が容易 事実関係の時系列が追いにくい行為ごとに検討する方法
メリット デメリット 事実関係の時系列が明確 罪数処理が複雑になりやすい 共犯関係の処理が自然 人物ごとの罪責が散らばる推奨:人物ごと→行為の時系列順
甲の罪責
第1行為について → 第2行為について → 罪数
乙の罪責
第1行為について → 第2行為について → 罪数
紙幅・時間の配分の考え方
限られた時間と答案用紙のなかで、どこに力を入れるかの設計(配分)も「書き方」の一部である。基本方針は次のとおり。
- 配点の重い論点に紙幅を割く:問題文が長く事情を詳しく与えている部分は、出題者が論じてほしい箇所である。事実が多い=当てはめに使ってほしい、というサインと考える。
- 争いのない要件は1〜2文で:実行行為性・結果・因果関係に争いがなければ、まとめて短く認定する。
- 論点の数が多い問題は「拾う」ことを優先:すべてを深く書く時間がないときは、主要論点を厚く、その他は薄くても触れて、論点落としを避ける。
- 答案構成(メモ)を先に作る:書き始める前に、誰のどの行為について何罪を検討し、どこが論点かを箇条書きにする。これにより順序の崩れと論点落としを防げる。
論点の書き方
基本型:問題提起→規範→当てはめ→結論(IRAC)
刑法の論点は、いわゆるIRAC(Issue=問題提起、Rule=規範、Application=当てはめ、Conclusion=結論)の型で書く。法律答案に共通する作法だが、刑法では「条文の文言にあたるか」という形で問題提起することが多い。
(1) 甲がVの首を絞めた行為は殺人罪の実行行為に当たる。
(2) もっとも、甲はVの急迫不正の侵害に対して反撃したものであり、
正当防衛(36条1項)の成否が問題となる。
ア 「急迫不正の侵害」
急迫とは…〔規範〕
本件では…〔当てはめ〕
イ 「防衛するため」(防衛の意思)
…
ウ 「やむを得ずにした行為」(相当性)
…
(3) したがって、正当防衛が成立し、甲に殺人罪は成立しない。
4つの要素のそれぞれで書くべきこと
要素 書くべき内容 失点しやすい点 問題提起(I) 条文の文言を引用し「〜にあたるか」と問う。なぜそれが問題になるのか(事案の特殊性)を一言添える 抽象的に「〜が問題となる」とだけ書き、何が問題か不明 規範定立(R) 文言の解釈基準を示す。その理由(趣旨)を簡潔に付す 理由なく結論だけ書く/趣旨が条文の保護法益とずれる 当てはめ(A) 規範のキーワードに対応する事実を問題文から拾い、評価を加える 事実をそのまま写すだけで評価がない/規範と対応しない 結論(C) 問題提起に正面から答える 規範・当てはめと結論がねじれる規範と当てはめを「対応」させる
最も差がつくのは当てはめである。規範で示したキーワードを、当てはめでそのまま使って事実を評価する。例えば因果関係の論点であれば、
- 規範:「実行行為の危険が結果へと現実化したといえる場合に因果関係が認められる」
- 当てはめ:「甲の暴行は……という危険を含むものであり、その危険が……という形で被害者の死亡という結果へと現実化したといえる」
というように、規範の「危険の現実化」という言葉を当てはめでも繰り返すと、論理のつながりが採点者に一目で伝わる。
あてはめの「評価」とは
当てはめは「事実+評価」で1セットである。事実だけを並べても点にならない。
- 事実:「甲は包丁でVの腹部を1回突き刺した」
- 評価:「腹部は生命維持に重要な臓器が集中する枢要部であり、包丁という鋭利な凶器で突き刺す行為は、人の死をもたらす現実的危険性が高い」
このように、拾った事実が規範のどのキーワードを満たす方向に働くのかを言語化するのが評価である。
罪数処理の書き方
基本パターン
罪数 処理 条文 観念的競合 1個の行為で2個以上の罪名 54条1項前段 牽連犯 手段結果の関係にある2罪 54条1項後段 併合罪 独立の複数の犯罪 45条答案での記載例
4 罪数
以上より、甲には①殺人罪と②窃盗罪が成立し、
両罪は別個の行為に基づくものであるから、
併合罪(45条前段)として処断される。
罪数処理の考え方(手順)
罪数は、答案の最後で必ず処理する。手順は次のとおり。
- 成立した犯罪を列挙する:それまでの検討で成立を認めた犯罪を番号付きで並べる。
- 行為が1個か複数かを確認する:1個の行為で複数の罪が成立するなら観念的競合(54条1項前段)を検討する。
- 手段・結果の関係があるかを確認する:例えば住居侵入と窃盗のように、一方が他方の手段・結果の関係にあるなら牽連犯(54条1項後段)。
- それ以外で複数の犯罪が成立するなら、原則として併合罪(45条)として処断する。
観念的競合・牽連犯(科刑上一罪)は、最も重い刑により処断される(54条1項)。併合罪は加重された刑の範囲で処断される。共犯事案では各人ごとに罪数を検討する点を忘れない。
罪数類型 典型例 処断 観念的競合 1個の運転行為で複数人を死傷させた 最も重い刑で処断 牽連犯 住居侵入→窃盗 最も重い刑で処断 併合罪 別の機会の窃盗と傷害 加重して処断犯罪論の各段階の書き方を掘り下げる
「刑法の答案の書き方」を実装するには、各段階で何を書くかを具体化しておく必要がある。ここでは構成要件該当性の各要素を、答案表現とともに掘り下げる。
実行行為の書き方
実行行為とは、構成要件的結果を発生させる現実的危険性を有する行為をいう。答案では、問題となる行為を特定し、それが当該犯罪の実行行為といえる危険性を備えるかを認定する。
甲がVに対し包丁を突き出した行為は、人の生命を侵害する
現実的危険性を有するから、殺人罪の実行行為に当たる。
不作為犯(やるべきことをしなかった場合)が問題となるときは、作為義務の発生根拠(先行行為・契約・事実上の引受け・支配領域性など)と作為の可能性・容易性を論じたうえで、不作為が作為と同視できる(同価値性)かを検討する。
結果と因果関係の書き方
結果犯では、構成要件的結果(死亡・傷害・財物の占有移転など)の発生を認定する。続いて、実行行為と結果との間の因果関係を検討する。とくに行為後に第三者の行為や被害者の行動などの介在事情があるときに論点化する。判例・通説の枠組みでは、実行行為の危険が結果へと現実化したといえるかを、介在事情の異常性・結果への寄与度を踏まえて判断する。
故意の書き方
故意とは、構成要件に該当する客観的事実の認識・認容をいう(38条1項本文)。客観的構成要件を認定した後に、その事実を行為者が認識していたかを認定する。事実の認識にズレがある場合が、前述の事実の錯誤の論点である。なお、過失犯の場合は故意に代えて、結果回避義務違反(予見可能性を前提とする注意義務違反)を検討する。
違法性・責任の段階の簡潔な処理
阻却事由をうかがわせる事情が問題文にないときは、
(2) 違法性阻却事由・責任阻却事由を基礎づける事情は見当たらない。
と一文で処理してよい。正当防衛・緊急避難(違法性)、責任能力・違法性の意識の可能性・期待可能性(責任)など、問題文が示唆する事情があるときにのみ厚く論じる。これがメリハリである。
共同正犯の答案の書き方
刑法答案で最も需要が高く、かつ受験生がつまずきやすいのが共同正犯(60条)である。ここでは定義から論証例まで、共同正犯の答案の書き方を独立して詳しく扱う。
共同正犯とは
共同正犯とは、2人以上の者が共同して犯罪を実行する場合をいい、共同者全員が「正犯」として、各自の行為からだけでなく他の共同者の行為から生じた結果についても責任を負う形態をいう(60条)。 60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と定める。
ここで重要なのは「すべて正犯とする」という効果である。自分が直接手を下していない部分についても、共同者の行為を自分の行為と同視して責任を問われる。これを一部実行全部責任の原則という。例えば、甲と乙が共同してVに暴行を加え、そのどちらかの一撃でVが死亡したが、致命傷を与えたのが甲・乙のいずれの行為か特定できない場合でも、共同正犯が成立すれば両者ともVの死亡について責任を負う。単独犯であれば「因果関係不明」として傷害罪にとどまるところ、共同正犯ではこの問題を克服できる点に実益がある。
なぜ一部実行全部責任が認められるのか(趣旨)
各人が自己の行為からのみ責任を負うのが原則(個人責任の原則)であるのに、なぜ他人の行為についてまで責任を負うのか。これは、共同者が相互に他人の行為を利用・補充し合い、特定の犯罪を共同して実現するという相互利用補充関係があるため、各人の行為と結果との間に物理的・心理的な因果性が認められるからだと説明される。すなわち、共謀によって相互に心理的な影響を与え合い、また実行を分担することで結果実現を容易にしている以上、全体を一個の共同実行として評価し、生じた結果全体に責任を負わせてよい、という発想である。
共同正犯の成立要件
共同正犯の成立要件は、論者により表現が異なるが、答案では次の2要件で整理するのが分かりやすい。
要件 内容 客観面/主観面 ① 共同実行の意思(意思連絡) 特定の犯罪を共同して実現しようとする相互の意思の連絡。「共謀」 主観面 ② 共同実行の事実 共謀に基づいて、共同者の少なくとも一部が実行行為に出たこと 客観面実行共同正犯(全員が実行行為を分担する類型)では、この2要件を素直に当てはめればよい。
実行共同正犯と共謀共同正犯の区別
共同正犯は、関与者が実行行為を分担したか否かで2つに区別される。答案ではまずどちらの類型かを見極めると、書くべき論点が定まる。
類型 関与の態様 答案での扱い 実行共同正犯 各人が実行行為の一部を分担する 共謀と共同実行を簡潔に認定すれば足りる 共謀共同正犯 共謀には加わるが実行行為は分担しない者がいる 「実行を分担しない者になぜ正犯が成立するか」を論点化し、正犯意思・重要な役割を当てはめる全員が手を下している事案なら実行共同正犯として軽く処理し、背後で指示・計画していて自らは手を下さない者がいるなら共謀共同正犯を厚く論じる、という配分が定石である。
共謀共同正犯の答案の書き方
実務上も試験上も頻出なのが共謀共同正犯である。これは、自らは実行行為を分担しないが、共謀に加わった者も共同正犯となる類型をいう。背後の首謀者を正犯として処罰する必要があることから、判例上古くから認められてきた(練馬事件・最大判昭和33年5月28日が代表的判例とされる)。
ただし、実行行為を分担しない者まで「正犯」とするには、単なる共謀の存在では足りない。そこで答案では、次の点を論点として論じる。
1 正犯者(乙)の実行行為・結果の検討(○○罪の構成要件該当性を確定)
2 甲の共同正犯(60条・△条)の成否
(1) 自ら実行行為を分担していない甲に、共同正犯が成立するか。
共謀共同正犯の成否が問題となる。
(2) 規範
共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係を通じて結果に
因果性を及ぼした点にある。そうだとすれば、実行行為を
分担せずとも、①意思連絡(共謀)と、②正犯意思(自己の
犯罪として実現する意思)が認められ、③共謀に基づく実行
行為が行われた場合には、共同正犯が成立する。
(3) 当てはめ
ア 意思連絡:甲は乙との間で○○を行う旨を……
イ 正犯意思:甲は利益の分配を受ける立場にあり、犯行を
主導していたから、自己の犯罪として実現する意思が
認められる(重要な役割)。
ウ 共謀に基づく実行:乙は共謀の内容に沿って……
(4) 結論:甲に○○罪の共同正犯(60条・△条)が成立する。
「正犯意思(重要な役割)」の当てはめが勝負どころ
共謀共同正犯では、共犯(教唆・幇助)との区別が問題となる。単に犯行を知っていた、けしかけた、というだけなら教唆や幇助にとどまりうる。「正犯」として処罰してよいだけの実質があるかを、当てはめで具体的に示す必要がある。考慮要素は次のとおり。
- 犯行を主導・計画したか(首謀性)
- 犯行から生じる利益の帰属・分配を受ける立場か
- 他の共同者に対する指揮・命令関係があったか
- 犯行への関与の程度・態様(凶器の調達、見張り、実行者の手配など)
これらの事実を拾い、「自己の犯罪として実現する意思(正犯意思)」「結果実現にとって重要な役割を果たした」と評価できれば、共同正犯(正犯)と認定できる。逆に従属的・付随的な関与にとどまるなら幇助犯(62条)の検討に移る。
承継的共同正犯
先行者が犯罪の実行に着手した後、後行者が途中から加担した場合に、後行者が加担前に先行者が生じさせた結果や事実についてまで責任を負うかが問題となるのが承継的共同正犯である。
判例(最決平成24年11月6日)は、傷害の事案について、後行者は加担後の暴行によって傷害を相当程度重篤化させたなどの事情がない限り、加担前に先行者が生じさせた傷害結果について責任を負わない旨を示したと理解されている。答案では、後行者が「加担前の結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したか」という観点から、承継を認めるべきか否かを論じるのが一般的である。
甲(後行者)の罪責
1 甲が加担後に行った暴行については……(自己の行為として責任)
2 甲が加担する前に乙が生じさせた傷害結果について、甲は
承継的共同正犯として責任を負うか。
(1) 共同正犯の処罰根拠は因果性にある。加担前の結果に甲は
因果性を及ぼし得ない。
(2) もっとも、先行者が生じた結果を自己の犯罪遂行の手段として
積極的に利用した場合には、これを及ぼしたと評価できる。
(3) 本件では……
(4) 結論
共犯関係の解消(共犯からの離脱)
共謀に加わった者が、実行の着手前または着手後に「もう抜ける」と離脱した場合、離脱後に他の共同者が起こした結果について責任を負うかが問題となる。これが共犯関係の解消(離脱)である。
判断の基準は、当初の共謀に基づく相互利用補充関係(因果性)が解消されたといえるかである。一般に、
- 着手前の離脱:離脱の意思を表明し、他の共謀者がこれを了承すれば、原則として因果性が解消される。
- 着手後の離脱:単なる離脱意思の表明では足りず、自己が与えた影響を除去し、結果発生を防止する積極的措置をとることが必要とされる。
このように、離脱の時期によって要求される措置の程度が異なる点を踏まえて論じる。
共同正犯と錯誤(共犯の錯誤)
共謀した内容と現実に発生した結果がずれた場合の処理も頻出である。例えば甲・乙がV殺害を共謀したところ、乙が人違いでWを殺害した、あるいは乙が共謀の範囲を超えて別の犯罪を行った、といった場合である。共同正犯間の錯誤も、原則として法定的符合説により、構成要件が同一の範囲で故意の符合を認めて処理する。共謀の射程(どこまでが共謀に基づく行為といえるか)を画したうえで、射程外の結果については共同正犯の成立を否定する、という流れが基本となる。
共同正犯まわりのよくある誤解
- 誤解:「共謀があれば全員に全部責任が生じる」 → 共謀の射程を超えた行為や、共犯関係が解消された後の行為には責任が及ばない。
- 誤解:「実行行為を分担していなければ共犯(幇助)にしかならない」 → 共謀共同正犯により、実行を分担しなくても正犯となりうる。正犯意思・重要な役割の認定が鍵。
- 誤解:「共同正犯では各人ごとに罪数を考えなくてよい」 → 罪数は各人ごとに検討する。甲と乙で成立する犯罪・罪数が異なることは普通にある。
頻出パターンの答案構成
パターン1:正当防衛の成否
1 殺人罪の構成要件該当性(肯定)
2 正当防衛の検討
(1) 急迫不正の侵害
(2) 防衛の意思
(3) 相当性
(4) 結論(正当防衛成立/過剰防衛)
パターン2:共謀共同正犯
1 正犯者の実行行為の検討
2 甲の共同正犯の成否
(1) 共謀の存在(意思連絡と正犯意思)
(2) 共謀に基づく実行
(3) 結論
パターン3:事実の錯誤
1 客観面:○○罪の構成要件充足
2 主観面:故意の検討
(1) 認識事実と実現事実の不一致
(2) 法定的符合説による処理
(3) 故意犯の成否
事実の錯誤は「客観的にはAという事実が実現したが、行為者はBという事実を認識していた」という主観・客観のズレの問題である。同一構成要件内のズレ(具体的事実の錯誤)か、異なる構成要件にまたがるズレ(抽象的事実の錯誤)かで処理が分かれる点に注意する。判例・通説である法定的符合説によれば、認識した事実と発生した事実が同一の構成要件の範囲内で符合する限り、故意を阻却しない。
パターン4:因果関係の論点
1 実行行為・結果の認定
2 因果関係の検討
(1) 行為後の介在事情(被害者の行動・第三者の行為・特殊事情)
(2) 規範:実行行為の危険が結果に現実化したか
(3) 当てはめ(介在事情の異常性・寄与度を評価)
(4) 結論
被害者の特異体質、被害者自身の不適切な行動、第三者の介入などの介在事情があるときに因果関係が問題となる。実行行為がもつ危険が結果へと現実化したといえるかを、介在事情の異常性と結果への寄与度を踏まえて評価する。
共同正犯事案の答案例(簡略版)
ここまでの「刑法の答案の書き方」と「共同正犯の答案の書き方」を統合した、簡略な答案例を示す。設例は次のとおり。
甲は、Vへの恨みからVを痛めつけようと考え、後輩の乙に「一緒にVを殴ろう」と持ちかけた。乙はこれを了承し、甲乙はVを呼び出して交互に殴打した。Vは全治2週間の傷害を負った。なお、最も重い傷害が甲乙どちらの殴打によるものかは特定できない。
第1 甲の罪責
1 甲がVを殴打した行為につき、傷害罪(204条)が成立するか。
(1) 甲の殴打行為は人の生理的機能を害する現実的危険性を有し、
傷害罪の実行行為に当たる。Vには全治2週間の傷害という
結果が生じ、甲の暴行の危険が結果に現実化したといえるから
因果関係も認められる。甲には暴行・傷害の認識があり故意も
ある。違法性・責任を阻却する事情はない。
(2) もっとも、甲自身の殴打が当該傷害を生じさせたか不明である。
そこで乙との共同正犯(60条)によりVの傷害全体について
責任を負わないか。
2 共同正犯(60条)の成否
(1) 甲乙は「一緒にVを殴ろう」との意思を相互に連絡しており、
共同実行の意思(共謀)が認められる。
(2) 甲乙は共謀に基づき交互にVを殴打しており、共同実行の
事実も認められる。
(3) 共同正犯は一部実行全部責任を負う(相互利用補充関係に
基づく因果性)から、傷害結果が甲乙いずれの行為による
か不明でも、甲はVの傷害全体について責任を負う。
(4) よって甲に傷害罪の共同正犯(60条・204条)が成立する。
第2 乙の罪責
1 乙についても、甲と同様に共謀および共謀に基づく殴打が
認められ、傷害罪の共同正犯(60条・204条)が成立する。
第3 罪数
甲・乙にはそれぞれ傷害罪の共同正犯一罪が成立する。
この例のポイントは、単独犯では因果関係不明で傷害結果を帰責できない場面を、共同正犯の一部実行全部責任で克服している点である。共同正犯を論じる「実益」が答案上に明確に表れている。
答案作成でやりがちな失敗と対策
実際の答案でありがちな失敗を整理しておく。形式面の崩れは内容以前の減点要因になるため、まずここを潰す。
失敗 なぜ減点か 対策 体系の順序が崩れる(主観を先に書くなど) 論理の前提が確定しないまま結論を出すことになる 「客観→主観」「構成要件→違法→責任」を機械的に守る 争いのない要件に紙幅を割きすぎる メリハリがなく、本来の論点に時間・紙幅が回らない 問題のない要件は1文で認定する 規範と当てはめが対応しない 当てはめが規範の検証になっていない 規範のキーワードを当てはめでそのまま使う 事実の引き写しで評価がない 法的評価という答案の本質的作業を欠く 「事実+評価」を1セットで書く 罪数処理を忘れる 答案として未完成 各人の検討の末尾に必ず罪数を置く 共犯で正犯意思の認定を飛ばす 正犯と狭義の共犯の区別ができていない 首謀性・利益帰属・役割を具体的に拾うまとめ
- 刑法の答案の書き方とは、犯罪論の体系(構成要件→違法性→責任)に沿って各行為の犯罪成否を検討することである
- 体系を崩さず、客観→主観/正犯→共犯/時系列順の順序を守る
- 各論点は問題提起→規範→当てはめ→結論の型で書き、規範と当てはめを対応させる
- 当てはめは事実+評価で1セット。争いのない要件は簡潔に、問題となる要件に紙幅を割く
- 共同正犯は60条の「一部実行全部責任」が出発点。実行を分担しない者は共謀共同正犯として正犯意思・重要な役割を当てはめで認定する
- 承継的共同正犯・共犯関係の解消・共犯の錯誤は、いずれも共同正犯の処罰根拠(相互利用補充関係=因果性)から一貫して説明できる
- 罪数処理を各人ごとに忘れず最後に記載する
FAQ
Q1. 構成要件に問題がない部分は省略していいですか?
はい。明らかに充足する要件は簡潔に認定し、問題となる要件に紙幅を割くべきです。ただし、構成要件該当性を全く認定しないのは不適切です。「実行行為性に争いはないので簡潔に認定する」という姿勢が、メリハリのある答案につながります。
Q2. 正当防衛と過剰防衛の両方を論じる場合の書き方は?
まず正当防衛の要件(急迫不正の侵害・防衛の意思・相当性)を検討し、相当性を欠く場合に過剰防衛(36条2項)の刑の減免を論じる流れが自然です。相当性の段階で「やむを得ずにした行為」とはいえないと判断し、過剰防衛へ移行する構成になります。
Q3. 複数の犯罪が成立する場合、全て書く必要がありますか?
問題文で問われている範囲内で、成立しうる全ての犯罪を検討すべきです。ただし、配点の低い軽微な犯罪は簡潔な認定で足ります。検討の網羅性と、論点へのメリハリを両立させることが重要です。
Q4. 共同正犯と幇助犯はどう書き分けますか?
関与者が「自己の犯罪として」結果を実現する意思(正犯意思)を持ち、結果実現に重要な役割を果たしたといえれば共同正犯、犯行を容易にしたにとどまり従属的・付随的な関与であれば幇助犯(62条)として処理します。答案では、首謀性・利益の帰属・指揮命令関係・関与態様といった事実を具体的に拾って評価することが書き分けの決め手になります。
Q5. 共謀共同正犯は必ず論点として厚く書くべきですか?
実行行為を分担しない者の罪責が問われている場合は、共謀共同正犯の成否を論点として立て、規範(意思連絡・正犯意思・共謀に基づく実行)と当てはめを示すべきです。一方、全員が実行行為を分担している実行共同正犯の事案では、共同正犯の成立要件を簡潔に当てはめれば足り、共謀共同正犯の論点を立てる必要はありません。
Q6. 「甲の罪責」「乙の罪責」はどちらから書きますか?
原則として、検討の起点となる者(実行行為を直接行った正犯者、または事案の中心人物)から書きます。共犯事案では正犯者の罪責を先に確定させると、共犯者の検討で「正犯者に成立した○○罪について共同正犯となるか」と接続でき、論理がスムーズになります。