間接正犯の成立要件|道具理論と正犯性の判断基準
間接正犯の成立要件を体系的に解説。道具理論の内容、被利用者の類型、教唆犯との区別、正犯の背後の正犯の問題を判例とともに整理します。
この記事のポイント
間接正犯とは、他人を道具として利用し、その者の行為を介して犯罪を実現する正犯形態である。 利用者は自らの手で構成要件該当行為を行わないが、被利用者を意思の道具として支配しているため、正犯としての責任を負う。
間接正犯の理論的基礎
道具理論
被利用者が利用者の犯罪実現の「道具」として機能している場合に、利用者に正犯性を認める理論。
行為支配説
利用者が犯罪実現の全過程を支配・統制していることをもって正犯性の根拠とする見解。通説的立場。
正犯性の判断基準
基準 内容 被利用者の規範的障害の欠如 被利用者が規範的障害(故意・責任能力等)を欠くこと 利用者の優越的意思支配 犯罪実現過程を支配していること 因果経過の支配 被利用者の行為を通じて結果を惹起する因果関係被利用者の類型
類型1:責任無能力者の利用
刑事未成年者(14歳未満)や心神喪失者を利用する場合。被利用者に責任能力がないため、規範的障害を欠き、道具としての利用が認められる。
類型2:故意なき者の利用
被利用者に故意がない場合。例えば、毒入りの薬と知らせずに看護師に投与させる場合。被利用者は過失犯の限度で責任を負いうるが、利用者は故意の間接正犯となる。
類型3:適法行為を利用する場合
被利用者の行為が適法である場合。例えば、虚偽の告訴をして被害者を逮捕させる場合(警察官の逮捕行為は適法)。
類型4:被害者自身の行為を利用する場合
欺罔や強制により被害者自身に自傷行為等をさせる場合。被害者の行為が任意の意思に基づかない場合に間接正犯が成立しうる。
類型5:目的なき故意ある道具
被利用者に故意はあるが目的犯における目的がない場合。利用者に間接正犯が成立するかが争われる。
間接正犯と教唆犯の区別
比較項目 間接正犯 教唆犯 正犯性 あり(自己の犯罪) なし(他人の犯罪への関与) 被利用者の地位 道具 正犯 被利用者の故意 なし(原則) あり 法定刑 正犯の刑 正犯の刑(61条1項) 従属性 不要 必要(制限従属性説)区別の実益
- 未遂の成立時期:間接正犯では利用者の利用行為開始時説と被利用者の行為開始時説が対立
- 共犯の従属性:教唆犯は正犯の実行行為の着手が必要(制限従属性説)
間接正犯の実行の着手時期
学説 着手時期 理由 利用者標準説 利用行為の開始時 間接正犯は自己の犯罪 被利用者標準説 被利用者の行為開始時 法益侵害の現実的危険の発生時 個別化説 事案による 道具の性質と利用態様による判例は明確な立場を示していないが、被利用者標準説に親和的な判断をしている。
正犯の背後の正犯
問題の所在
被利用者が完全な故意・責任能力を有する正犯である場合に、その背後の者に間接正犯を認めうるか。
否定説(従来の通説)
正犯の行為が介在することで、背後者の支配が遮断される。背後者は教唆犯にとどまる。
肯定説
組織的権力装置による支配(組織犯罪)など、背後者が犯罪実現を確実に支配している場合には、正犯の背後の正犯を肯定しうる。
まとめ
- 間接正犯は他人を道具として利用する正犯形態
- 被利用者が規範的障害を欠く場合に成立するのが典型
- 教唆犯との区別は被利用者の道具性の有無による
- 実行の着手時期は利用者標準説と被利用者標準説が対立
- 正犯の背後の正犯は原則否定だが組織的犯罪で例外を認める見解あり
FAQ
Q1. 故意ある道具の理論とは何ですか?
被利用者に故意はあるが、目的犯の目的や身分がない場合に、被利用者を「故意ある道具」として利用者に間接正犯を認める理論です。65条(共犯と身分)の適用との関係が問題となります。
Q2. 間接正犯と不作為犯の関係は?
親が幼児に食事を与えずに死亡させた場合、不作為の直接正犯として構成することも、幼児の生理的反応を利用した間接正犯として構成することも理論的に可能です。
Q3. 被利用者に過失がある場合はどうなりますか?
利用者は故意の間接正犯、被利用者は過失犯として処理されます。利用者と被利用者の罪名が異なりうる点に注意が必要です。