住居侵入罪と名誉毀損罪|自由・名誉に対する罪の体系
住居侵入罪と名誉毀損罪を体系的に解説。侵入の意義、保護法益、230条の2の免責要件、表現の自由との調整を整理します。
この記事のポイント
住居侵入罪(130条前段)は個人の住居の平穏ないし管理権を保護し、名誉毀損罪(230条)は人の外部的名誉を保護する犯罪類型である。 住居侵入罪では「侵入」の意義と保護法益が、名誉毀損罪では230条の2の免責要件と表現の自由との調整が中心的論点となる。
住居侵入罪(130条前段)
構成要件
- 客体: 人の住居、人の看守する邸宅、建造物、艦船
- 行為: 正当な理由がないのに侵入すること
- 故意: 侵入の認識
保護法益
学説 内容 住居権説(旧通説) 住居に誰を立ち入らせるかを決定する権利(管理権) 平穏説 住居の事実上の平穏 新住居権説(判例) 住居権者の意思に反する立入りを処罰「侵入」の意義
判例は「侵入」を住居権者(管理権者)の意思に反する立入りと解する(最判昭58.4.8)。
重要判例:
- 立川反戦ビラ事件(最判平20.4.11): マンション共用部分へのビラ配布目的の立入りについて住居侵入罪の成立を認めた
- 最判昭58.4.8: 「侵入」とは住居権者の意思に反する立入りであるとした
不退去罪(130条後段)
適法に立ち入った者が、要求を受けたにもかかわらず退去しない場合に成立する。
名誉毀損罪(230条)
構成要件
- 行為: 公然と事実を摘示して人の名誉を毀損すること
- 結果: 名誉の毀損(抽象的危険犯 → 現実の名誉低下は不要)
「公然」の意義
不特定または多数の者が認識しうる状態をいう。伝播性の理論により、特定少数の者に告知した場合であっても、伝播して不特定多数の者が知りうる場合には「公然」に該当する。
「事実の摘示」
事実とは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実をいう。真実であるか虚偽であるかを問わない。
- 事実の摘示がある → 名誉毀損罪
- 事実の摘示がない → 侮辱罪(231条)
名誉毀損と侮辱罪の区別
名誉毀損罪(230条) 侮辱罪(231条) 事実の摘示 あり なし 法定刑 3年以下の懲役等 1年以下の懲役等 230条の2 適用あり 適用なし230条の2(公共の利害に関する特例)
免責の要件
名誉毀損行為が以下の3要件をすべて満たす場合は、罰しない。
- 公共の利害に関する事実に係ること(事実の公共性)
- その目的がもっぱら公益を図ることにあること(目的の公益性)
- 摘示された事実が真実であることの証明があったこと(真実性の証明)
真実性の錯誤
摘示事実が真実でなかった場合であっても、行為者が真実であると誤信し、誤信したことについて確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、犯罪の故意を欠くものとして名誉毀損罪は成立しない(最判昭44.6.25)。
公務員に関する事実(230条の2第3項)
公務員または公選による公務員の候補者に関する事実については、事実の公共性と目的の公益性が推定され、真実性の証明があれば免責される。
脅迫罪・強要罪
脅迫罪(222条)
生命、身体、自由、名誉または財産に対して害悪を告知した場合に成立。
強要罪(223条)
脅迫または暴行を用いて人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合に成立。
試験での出題ポイント
- 住居侵入罪の保護法益: 住居権説と平穏説の対立
- 「侵入」の認定: 外形上の立入りか意思に反する立入りか
- 名誉毀損罪と230条の2: 3要件の認定方法
- 真実性の錯誤: 相当の理由の判断基準
- 名誉毀損と侮辱の区別: 事実の摘示の有無
まとめ
- 住居侵入罪の「侵入」は住居権者の意思に反する立入り(判例)
- 名誉毀損罪は公然と事実を摘示して名誉を毀損する犯罪であり、抽象的危険犯
- 230条の2により、事実の公共性・目的の公益性・真実性の証明で免責される
- 真実性の錯誤は相当の理由があれば故意が阻却される
- 事実の摘示がない場合は名誉毀損罪ではなく侮辱罪
FAQ
Q1. マンションの共用部分に立ち入ることは住居侵入罪になりますか?
管理権者の意思に反する立入りであれば住居侵入罪が成立しえます。立川反戦ビラ事件では、ビラ配布目的でマンション共用部分に立ち入った行為について住居侵入罪の成立が認められました。
Q2. 真実の事実を公表しても名誉毀損罪になりますか?
名誉毀損罪は真実の事実の摘示でも成立します。ただし、230条の2の要件(事実の公共性・目的の公益性・真実性の証明)を満たせば免責されます。
Q3. 名誉毀損と侮辱はどう違いますか?
事実の摘示があれば名誉毀損罪、事実の摘示なく抽象的な侮辱表現にとどまれば侮辱罪です。「Aは横領をした」は名誉毀損、「Aは馬鹿だ」は侮辱です。