/ 刑法

因果関係の判断基準|相当因果関係説から危険の現実化へ

刑法上の因果関係の判断基準を解説。条件関係、相当因果関係説の各説、危険の現実化説への判例の変遷、介在事情の分析枠組みを整理します。

この記事のポイント

刑法上の因果関係は、条件関係を前提として、行為の危険性が結果に現実化したかを判断する。判例は相当因果関係説的な枠組みから「危険の現実化」説へと移行しつつある。介在事情がある場合の因果関係の判断が最頻出論点であり、大阪南港事件・高速道路進入事件等の主要判例の枠組みを正確に理解することが必要である。


条件関係

あれなければこれなし公式

因果関係の出発点は条件関係(事実的因果関係)の確認である。

「その行為がなければ結果は発生しなかった」(あれなければこれなし・conditio sine qua non)という関係が認められるかを判断する。

条件関係の問題

  • 択一的競合: 複数の行為がそれぞれ単独で結果を発生させうる場合(例:AとBが独立にCに致死量の毒を投与)。修正公式が必要
  • 仮定的因果経過: その行為がなくても他の原因により結果が発生したであろう場合。仮定的事情は考慮しない

相当因果関係説

三つの立場

学説 判断基底(考慮する事情の範囲) 批判 主観説 行為者が認識・予見していた事情 判断基底が狭すぎる 客観説 行為時に存在したすべての事情+行為後の一般人が予見可能な事情 判断基底が広すぎる 折衷説(通説) 行為時に一般人が認識・予見可能な事情+行為者が特に認識していた事情 「一般人の予見可能性」の基準が不明確

相当因果関係説の問題点

  • 「相当性」の判断基準が不明確
  • 介在事情がある場合の処理が困難
  • 判例が相当因果関係説のどの立場に立つのか不明確

危険の現実化説

判例の転換

近時の判例は、相当因果関係説の枠組みではなく、行為の危険性が結果に現実化したかという観点から因果関係を判断する傾向にある。

判断の枠組み

  1. 行為にどの程度の危険性があったか
  2. 介在事情の異常性の程度
  3. 介在事情が結果に対してどの程度の寄与をしたか
  4. 行為の危険性が結果に現実化したといえるか

主要判例

大阪南港事件(最決平2.11.20)

被告人がAを角材で殴打して意識消失状態にし、資材置場に放置した。その後、第三者がAの頭部を角材で殴打し、Aは死亡した。第三者の暴行がなくても被告人の暴行により死亡していた可能性がある事案。

犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる

死因を形成した行為者に因果関係が認められるという枠組みを示した。

高速道路進入事件(最決平15.7.16)

被告人がAの頸部をロープで絞めて失神させ、自動車のトランクに入れて走行中、第三者の車両が追突し、Aが死亡した事案。

最高裁は、「被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起因するものであっても、被告人の行為により被害者をトランクに監禁した行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる」とした。

被告人の行為が被害者を死亡の危険性が高い状況に置いた点に着目し、その危険が結果に現実化したと判断したものと理解されている。

トランク監禁事件(最決平18.3.27)

類似の事案で、被告人がAをトランクに閉じ込めて走行中、後続車両に追突されAが死亡した。因果関係が肯定された。

柔道整復師事件(最決平16.2.17)

被告人の暴行により意識障害に陥った被害者を治療するため搬送された先の柔道整復師による不適切な施術により被害者が死亡した事案。因果関係が肯定された。


介在事情の類型化

介在事情の類型 因果関係の判断 具体例 被害者の行為が介在 被害者の行為が通常予想される範囲内か 暴行から逃走中の転倒死 第三者の行為が介在 第三者の行為の異常性と行為者の行為の危険性の比較 大阪南港事件 自然的事象が介在 行為の危険性が結果に現実化したか 暴行後の搬送中の交通事故

よくある質問

Q1: 相当因果関係説と危険の現実化説のどちらで書くべきですか

近時の判例は危険の現実化説に親和的であり、答案でも危険の現実化説で論じることが推奨される。もっとも、相当因果関係説(折衷説)で論じても減点にはならない。

Q2: 因果関係が否定されるとどうなりますか

因果関係が否定された場合、既遂犯は成立せず、未遂犯の成否が問題となる。行為者に結果発生の故意がある場合は未遂犯が成立しうる。

Q3: 「危険の現実化」はどう論証しますか

「行為者の行為は〔具体的な危険性の内容〕という危険を有するところ、〔介在事情の内容〕は〔異常性の評価〕であり、〔結果〕は行為の有する上記危険が現実化したものと評価できる。したがって、因果関係が認められる。」という流れで論証する。


関連条文

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。

― 刑法 第38条第1項


まとめ

刑法上の因果関係は、条件関係を前提に、行為の危険性が結果に現実化したかで判断される。判例は大阪南港事件以降、危険の現実化説に親和的な判断を示しており、介在事情の異常性と行為の危険性の現実化を中心に分析する枠組みが確立されつつある。

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