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因果関係の判断基準|相当因果関係説から危険の現実化へ

刑法上の因果関係の判断基準を解説。危険の現実化説とは何か、相当因果関係説との違いを比較表で整理。条件関係、大阪南港事件・高速道路進入事件など主要判例と介在事情の分析枠組み、論証パターンまで網羅します。

この記事のポイント

刑法上の因果関係は、条件関係を前提として、行為の危険性が結果に現実化したか(=危険の現実化)を判断する。判例は伝統的な相当因果関係説的な枠組みから「危険の現実化」説へと移行しつつある。介在事情がある場合の因果関係の判断が最頻出論点であり、大阪南港事件・高速道路進入事件等の主要判例の枠組みを正確に理解することが必要である。

この記事では、検索意図として特に多い「危険の現実化説とは何か」「相当因果関係説と危険の現実化説の違い」「刑法の因果関係における危険の現実化の判断方法」に正面から答える形で、定義・要件・判例・あてはめ・論証例・FAQまで一気通貫で整理する。

30秒でわかる結論

  • 危険の現実化説とは、実行行為の持つ危険性が、現実の因果経過を通じて結果へと実現したと評価できるときに法的因果関係を肯定する考え方である。
  • 相当因果関係説との違いは、相当因果関係説が「行為時を基準とした結果発生の予見可能性(相当性)」を問うのに対し、危険の現実化説は「行為の危険が結果に至る経過の中でどう実現したか」を事後的・実質的に評価する点にある。
  • 判例(大阪南港事件、高速道路進入事件など)は「危険の現実化」という言い回しを用い、または同説に親和的な判断を重ねている。
  • 答案では、①条件関係 → ②法的因果関係(危険の現実化)の二段階で書き、介在事情の異常性と寄与度を具体的に評価するのが基本型である。

因果関係とは|なぜ問題になるのか

因果関係の意義

刑法上の因果関係とは、実行行為と結果との間に認められる、結果をその行為に帰属させてよいといえる原因・結果の結びつきをいう。殺人罪(199条)・傷害致死罪(205条)・過失致死罪(210条)など、構成要件が一定の結果(死亡・傷害等)を要求する結果犯において、行為者にその結果についての既遂責任を負わせるための要件である。

因果関係が認められなければ、たとえ実行行為と故意が存在しても、行為者は結果を帰責されず未遂(または結果犯の不成立)にとどまる。すなわち、因果関係は「未遂か既遂か」を分ける極めて重要な要件である。

因果関係の二段階構造

現在の通説・実務は、因果関係を次の二段階で判断する。

  1. 条件関係(事実的因果関係) — その行為がなければ結果は発生しなかったか、という事実レベルの結びつき。
  2. 法的因果関係(帰責の問題) — 条件関係が認められることを前提に、その結果を行為者に帰責してよいかという規範的評価。ここで相当因果関係説/危険の現実化説が対立する。

つまり、相当因果関係説も危険の現実化説も、条件関係を否定するものではなく、条件関係を前提に「どこまで結果を帰責するか」を絞り込むための理論である点を押さえておきたい。条件関係だけでは因果関係の範囲が無限定に広がってしまうため(例:殺人犯を生んだ親の出産行為まで「あれなければこれなし」に含まれる)、規範的な絞り込みが必要になるのである。


条件関係

あれなければこれなし公式

因果関係の出発点は条件関係(事実的因果関係)の確認である。

「その行為がなければ結果は発生しなかった」(あれなければこれなし・conditio sine qua non)という関係が認められるかを判断する。論理的には、問題となる実行行為を頭の中で取り除いてみて、それでも結果が残るかどうかを検討する(仮定的消去法)。取り除いても結果が発生していたなら条件関係は否定され、結果が発生しなくなるなら条件関係は肯定される。

条件関係が問題となる典型場面

  • 択一的競合: 複数の独立した行為が、それぞれ単独でも結果を発生させうる場合(例:AとBが意思連絡なく、それぞれ独立にCへ致死量の毒を投与し、Cが死亡)。単純に「あれなければこれなし」を当てはめると、Aの行為を消去してもBの毒で死亡し、Bの行為を消去してもAの毒で死亡するため、いずれの条件関係も否定されてしまう不合理が生じる。そこで「複数の条件のうちいずれかを除けば結果が発生しない場合、両者ともに条件関係を認める」という修正公式が説かれる。
  • 重畳的因果関係: 単独では致死量に達しない量の毒をAとBがそれぞれ投与し、合算して初めて致死量に達した場合。各行為を消去すれば結果が発生しないため、いずれにも条件関係が認められる。
  • 仮定的因果経過: その行為がなくても、他の原因により遅かれ早かれ結果が発生したであろう場合(例:死刑執行直前に第三者が執行ボタンを押した)。判例・通説は、現実に存在しなかった仮定的事情は条件関係の判断に考慮しないとする。現実の因果経過を基準に判断するのが原則だからである。
  • 不作為の因果関係: 不作為犯では「期待された作為をしていれば結果を回避できたか」を問う(合義務的代替行為)。判例は、救命可能性が「合理的な疑いを超える程度に確実」であった場合に不作為と結果との因果関係を認める枠組みをとる。

条件関係は「足切り」にすぎない

条件関係は因果関係肯定の必要条件であって十分条件ではない。条件関係が認められても、なお法的因果関係(危険の現実化)が否定されれば既遂責任は問えない。逆に、条件関係が否定されれば、それ以上法的因果関係を検討するまでもなく因果関係は否定される。答案では、まず条件関係を一言で認定し、争点を法的因果関係に集約させる書き方が効率的である。


相当因果関係説

相当因果関係説とは

相当因果関係説とは、条件関係の存在を前提に、その行為からその結果が発生することが社会通念上「相当」といえる(=経験的に通常ありうる)場合に法的因果関係を肯定する考え方をいう。 条件関係だけでは因果の範囲が広がりすぎるため、「相当性」という規範的フィルターによって、偶然的・異常な経過によって生じた結果を帰責の対象から除外しようとする。

「相当性」は、行為時を基準として、その行為があればその結果が発生することが経験則上ありふれているかという観点から判断される。問題は、その相当性を判断する際にどの範囲の事情を判断の基礎(判断基底)に取り込むかであり、ここで学説が三つに分かれる。

三つの立場(判断基底の広狭)

学説 判断基底(考慮する事情の範囲) 批判 主観説 行為者が認識・予見していた事情 判断基底が狭すぎ、客観的に存在した事情を無視する点で妥当でない 客観説 行為時に存在したすべての事情+行為後に一般人が予見可能な事情 判断基底が広すぎ、結局ほぼすべてが相当とされかねない 折衷説(伝統的通説) 行為時に一般人が認識・予見可能であった事情+行為者が特に認識していた事情 「一般人の予見可能性」の基準が不明確で、認識・予見可能性に責任要素を持ち込むとの批判

折衷説のイメージをつかむための定番素材が「特殊事情(病変)の事例」である。たとえば被害者に重篤な心臓疾患があり、軽い暴行でも死亡しうる体質だった場合、折衷説では「一般人がその疾患を予見できたか/行為者が現に知っていたか」を判断基底に取り込めるかで結論が変わる。一般人が知り得ず行為者も知らなかった特殊事情は判断基底から外れ、相当性が否定されうる。

相当因果関係説の問題点(危機)

相当因果関係説、とりわけ折衷説は、介在事情が存在する事案で機能不全に陥るとの批判が強まった。これがいわゆる「相当因果関係説の危機」である。

  • 「相当性」の判断基準が不明確: どの程度の確率・通常性をもって「相当」というのか、明確な基準を立てにくい。
  • 介在事情の処理が困難: 行為後に第三者の故意行為や被害者の異常行動が介在した事案で、それを「行為時に予見可能だったか」という枠組みで処理しようとすると無理が生じる。大阪南港事件のように、行為後に第三者の暴行が介在した事案では、折衷説の予見可能性の枠組みでは因果関係を否定する方向に傾きやすく、結論の妥当性を確保しにくい。
  • 行為後の事情の扱いが一貫しない: 折衷説は行為時の予見可能性を問うため、行為後に生じた異常な介在事情の評価を理論的に取り込みにくい。

このような限界から、判例・学説は、行為時の予見可能性ではなく現実の因果経過そのものを事後的に評価する方向、すなわち危険の現実化説へと重心を移していった。


危険の現実化説

危険の現実化説とは

危険の現実化説とは、実行行為の有する危険性が、現実の因果経過を通じて結果へと現実化したと評価できる場合に法的因果関係を肯定する考え方をいう。 言い換えれば、「結果は、その行為がもともと持っていた危険が形を変えて実現したものといえるか」を問う立場である。

相当因果関係説が「行為時の事情を基礎とした結果発生の相当性(一般的な予見可能性)」を行為時基準で問題とするのに対し、危険の現実化説は行為の危険性が結果に至る経過の中でどのように実現したかを、現実に生じた因果経過を踏まえて事後的・実質的に評価する点に特徴がある。介在事情があっても、それが行為の危険性の延長線上にある(行為の危険が形を変えて実現した)と評価できれば因果関係を肯定し、行為とは無関係の異常な危険が独立に実現したにすぎない場合には否定する。

危険の現実化の二つの類型

危険の現実化は、講学上、おおむね次の二つのパターンに整理される。答案でどちらの型かを意識すると論述が安定する。

  1. 直接実現型(行為の危険が直接結果に実現した類型): 介在事情があっても、それが行為の危険性に比して軽微であるか、結果への寄与が小さく、結局は行為そのものの危険が結果に直接つながったと評価できる場合。大阪南港事件がこの典型とされる(既に死因となる傷害が形成されていた)。
  2. 間接実現型(介在事情を誘発して結果に実現した類型): 行為が介在事情を誘発・誘導し、その介在事情を通じて行為の危険が実現したと評価できる場合。被害者が暴行から逃げようとして危険な行動に出て死亡した事案などがこれにあたる。介在事情が「行為によって引き起こされた」といえる関係(誘発関係)があるかが鍵となる。

相当因果関係説と危険の現実化説の違い

両説の違いは、答案でも頻出の比較ポイントである。検索でも「相当因果関係説 危険の現実化 違い」が多いので、ここを正確に押さえたい。

比較項目 相当因果関係説(折衷説) 危険の現実化説 判断の視点 行為時の事情を基礎とした結果発生の「相当性」 行為の危険性が結果に「現実化」したか 判断の時点 行為時を基準(事前判断的) 現実の因果経過を踏まえた事後的・実質的判断 判断基底 一般人が予見可能な事情+行為者が認識していた事情 行為の危険性・介在事情の異常性・結果への寄与度を総合考慮 介在事情の処理 予見可能性の枠組みで処理(困難が生じやすい) 危険の現実化の有無で実質的に処理(介在事情の異常性・寄与度を直接評価) 特殊事情の扱い 判断基底に取り込めるかが正面の争点 行為の危険性をどう評価するかの一要素として考慮 判例との親和性 古い判例の説明枠組み 近時の判例に親和的(「現実化」の語を用いる判例もある) 着眼点 結果発生の予見可能性 危険の実現過程・因果経過の異常性

違いを一言でいうと

  • 相当因果関係説 = 「行為のときに、こんな結果が起きると普通は思えたか?」(事前・予見可能性ベース)
  • 危険の現実化説 = 「現に起きた結果は、その行為がもともと持っていた危険が形を変えて実現したものといえるか?」(事後・危険実現ベース)

両説は結論で一致することも多い

両説は対立的に語られることが多いが、多くの事案では結論において一致する。危険の現実化説の主たる実益は、相当因果関係説では処理が難しかった介在事情のある事案を、行為の危険性の実現という観点からより明快に説明できる点にある。したがって、答案では危険の現実化説に立ちつつ、相当因果関係説でも同じ結論になることを示せると説得力が増す。

危険の現実化の判断要素(判断の枠組み)

危険の現実化の有無は、次の諸要素を総合考慮して判断する。単独の決め手があるわけではなく、要素間のバランスを評価するのがポイントである。

  1. 行為の危険性の大小 — 実行行為がそもそもどの程度結果発生の危険を持っていたか。危険が大きいほど、多少の介在事情があっても危険の現実化が認められやすい。
  2. 介在事情の異常性の程度 — 介在事情が経験則上どの程度異常・例外的か。異常性が高いほど因果関係が否定される方向に働く。
  3. 介在事情の結果への寄与度 — 介在事情が結果発生にどの程度寄与したか。寄与度が大きいほど、行為の危険の現実化を否定する方向に働く。
  4. 行為と介在事情との関係(誘発の有無) — 介在事情が行為によって誘発・誘導されたものか、それとも独立に生じたものか。行為が介在事情を誘発した場合は、介在事情を介してなお行為の危険が実現したと評価しやすい。

これらを踏まえ、最終的に「行為の危険性が結果に現実化したといえるか」を規範的に判断する。

要素のバランスを直感的に理解する

  • 行為の危険性が極めて大きい場合 → 介在事情が多少異常でも、行為の危険が結果に実現したと評価しやすい(直接実現型)。
  • 行為の危険性が小さく、介在事情の異常性・寄与度が大きい場合 → 行為の危険ではなく介在事情の危険が実現したとして、因果関係が否定されやすい。
  • 介在事情が行為によって誘発された場合 → 介在事情の寄与が大きくても、その介在自体が行為の危険の現れであるため、なお危険の現実化を認めやすい(間接実現型)。

主要判例

危険の現実化説の理解は、判例の事案と判旨を正確に押さえることで一気に深まる。以下、頻出判例を介在事情の類型ごとに整理する。条文番号・事件名・年月日は本記事の既存記述を維持しており、不確実な新たな判例番号は付さない。

大阪南港事件(最決平2.11.20)— 第三者の暴行が介在

事案: 被告人がAを角材で殴打して意識消失状態にし、資材置場に放置した。その後、第三者がAの頭部を角材で殴打し、Aは死亡した。被告人の暴行によってすでに死因となる傷害が形成されており、第三者の暴行は死期を早めたにとどまる可能性がある事案。

犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる

ポイント: 死因となる傷害を形成した行為に因果関係が認められるという枠組みを示した。被告人の暴行によって既に死因が作られていた以上、第三者の暴行という介在事情があっても、被告人の行為の危険性がそのまま結果に実現したと評価できる(直接実現型)。第三者の故意行為という一見「異常」な介在があっても因果関係を肯定した点で、相当因果関係説(折衷説)の予見可能性の枠組みでは説明が苦しく、危険の現実化説への移行を象徴する判例とされる。

高速道路進入事件(最決平15.7.16)— 被害者の行動が介在

事案: 被告人らが深夜の高速道路上で被害者に暴行・脅迫を加えるなどし、被害者が逃走しようとして高速道路の本線車道に進入し、走行してきた自動車に轢かれて死亡した事案。

最高裁は、被害者が高速道路に進入したのは被告人らの暴行から逃れる方法としてとっさにとった行動であり、著しく不自然・不相当とはいえないとして、被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した。

ポイント: 被害者自身の行動が介在した事案で、その行動が行為者の暴行によって誘発されたものであり、かつ著しく不自然・不相当とはいえないことを理由に因果関係を認めた(間接実現型・誘発型の典型)。介在事情(被害者の進入行為)の異常性が低く、かつ行為に誘発されたものである点が決め手となっている。

トランク監禁事件(最決平18.3.27)— 自動車事故が介在

事案: 被告人が被害者を自動車のトランク内に押し込めて監禁したまま路上に停車していたところ、後続車両が前方不注意で追突し、トランク内の被害者が死亡した事案。

最高裁は因果関係を肯定した。

ポイント: 人をトランク内に監禁する行為は、追突等による死傷の危険性が高い場所に被害者を置く行為であり、後続車の追突という介在事情があっても、その監禁行為の危険性が結果に現実化したと評価できる。追突自体は珍しくない事象であり、介在事情の異常性が高くない点も因果関係肯定を支える。

柔道整復師事件(最決平16.2.17)— 被害者・第三者の不適切行為が介在

事案: 被告人の暴行により傷害を負った被害者が、柔道整復師の指示に従った(医学的に不適切な)治療や被害者自身の不養生が介在し、容態が悪化して死亡した事案。

最高裁は因果関係を肯定した。

ポイント: 不適切な治療や被害者の落ち度といった介在事情があっても、それが被告人の暴行による傷害を治療する過程で生じたものであり、被告人の暴行による傷害の危険が結果に実現したと評価できる場合には因果関係が認められる。介在事情があっても、それがもとの傷害(行為の危険)の延長線上にあることが重視される。

判例の傾向まとめ

近時の判例は、相当因果関係説の「相当性・予見可能性」という枠組みを正面に出すのではなく、行為の危険性が結果に現実化したかという観点から因果関係を判断する傾向にある。判例の中には「現実化」という語を明示的に用いるものもある。介在事情があっても、(i)行為の危険が直接実現したか、(ii)行為が介在事情を誘発し、それを介して危険が実現したか、を問う発想が共通して見られる。


介在事情の類型化と分析の手順

介在事情とは

介在事情とは、実行行為の後に発生し、結果に対して何らかの影響を与えた事情をいう。第三者の行為、被害者自身の行為、自然的事象などがある。介在事情の存在こそが因果関係論の最大の山場であり、ここで危険の現実化の判断が前面に出る。

類型別の判断視点

介在事情の類型 因果関係の判断視点 代表判例・具体例 第三者の行為が介在 第三者の行為の異常性・寄与度と、行為者の行為の危険性とを比較衡量 大阪南港事件(第三者の暴行) 被害者の行為が介在 被害者の行為が行為者の行為によって誘発されたか/著しく不自然・不相当でないか 高速道路進入事件(逃走中の進入) 自然的事象・事故が介在 行為が結果発生の危険な状況を作り出し、その危険が現実化したか トランク監禁事件(追突事故) 被害者の素因・特殊事情 行為時に存在した素因は行為の危険性評価の前提に取り込み得る 重篤な疾患を持つ被害者への暴行 医療行為・治療経過が介在 行為による傷害の治療過程で生じた事情はもとの危険の延長として評価 柔道整復師事件

介在事情がある場合の分析ステップ

実際の答案では、介在事情のある事案を次の手順で分析すると整理しやすい。

  1. 行為の危険性を特定する — 実行行為がどのような結果に向けてどの程度の危険を持っていたかを具体的に述べる。
  2. 介在事情を特定する — 行為後に何が介在し、結果にどう影響したかを摘示する。
  3. 介在事情の異常性を評価する — 経験則上、その介在が通常ありうるものか、例外的・異常なものかを評価する。
  4. 介在事情の寄与度を評価する — 結果発生への寄与が大きいか小さいかを評価する。
  5. 誘発関係の有無を検討する — 介在事情が行為によって誘発されたものかを検討する(誘発されていれば危険の現実化を肯定しやすい)。
  6. 総合判断する — 以上を総合して、行為の危険が結果に現実化したといえるかを結論づける。

具体例・あてはめ演習

抽象論だけでは答案で使えない。典型的な設例で「あてはめ」の感覚をつかんでおこう。

設例1: 暴行 → 第三者の追い打ち(直接実現型)

XがAの頭部を強打して瀕死の重傷(死因となる傷害)を負わせた後、無関係のYが倒れているAをさらに殴打し、死期がやや早まってAが死亡した。

あてはめ: Xの暴行はAに死因となる傷害を形成しており、それ自体が死亡という結果発生の高度の危険を有する。Yの暴行は死期を早めたにとどまり結果への寄与は限定的である。したがって、Aの死亡はXの暴行の危険が現実化したものと評価でき、因果関係が認められる(大阪南港事件の枠組み)。

設例2: 暴行から逃げる被害者の事故死(間接実現型・誘発型)

XがAに執拗な暴行を加え、Aが逃げようとして道路へ飛び出し、走ってきた車にはねられて死亡した。

あてはめ: Aの道路への飛び出しは、Xの暴行から逃れるためのとっさの行動であり、Xの暴行によって誘発されたものである。逃走中に事故に遭うことは著しく不自然・不相当とはいえない。よって、Aの死亡はXの暴行の危険が(被害者の逃走行為を介して)現実化したものと評価でき、因果関係が認められる(高速道路進入事件の発想)。

設例3: 介在事情の異常性が高く因果関係が否定される例

Xが軽微な暴行を加えたにすぎないAが、その後まったく無関係に発生した落雷に打たれて死亡した。

あてはめ: Xの暴行は死亡の危険が乏しく、落雷は行為とは無関係に独立して生じた極めて異常な事象であって、Xの暴行が落雷を誘発したともいえない。Aの死亡はXの暴行の危険が現実化したものとはいえず、因果関係は否定される(落雷という独立の危険が実現したにすぎない)。この場合、Xには傷害罪等の限度で責任が問われるにとどまる。

設例を通じた感覚

設例1〜3を比べると、「行為の危険の大きさ」と「介在事情の異常性・独立性」のシーソーで結論が決まることが分かる。行為の危険が大きく、介在が行為に由来する(誘発)ほど肯定、行為の危険が小さく、介在が独立・異常であるほど否定、という軸を持っておくと安定する。


答案での書き方・論証例

答案の基本構造

因果関係を論じる答案は、次の二段階・四ステップで書くのが基本である。

  1. 条件関係の認定(一言でよい)
  2. 法的因果関係の規範定立(危険の現実化の規範)
  3. あてはめ(行為の危険性・介在事情の異常性・寄与度・誘発関係を具体的に評価)
  4. 結論(因果関係の肯否)

規範定立の論証例(危険の現実化説)

まず、実行行為がなければ結果は発生しなかったといえるため、条件関係が認められる。もっとも、条件関係が認められれば常に因果関係を肯定すると、処罰範囲が無限定に広がりかねない。そこで、法的因果関係としては、実行行為の有する危険性が結果へと現実化したと評価できる場合に因果関係を肯定すべきである。具体的には、行為の危険性の大小、介在事情の異常性の程度、介在事情の結果への寄与度、行為が介在事情を誘発したか等を総合考慮して判断する。

あてはめの論証例(介在事情あり・肯定例)

本件において、被告人の〔行為〕は、〔具体的な危険性の内容(例:被害者を死亡の危険が高い状況に置くもの)〕という危険を有していた。これに対し、〔介在事情の内容〕が介在しているが、〔これは行為から通常生じうる事態であって異常とはいえない/行為によって誘発されたものといえる〕。また、〔介在事情の結果への寄与は限定的である/行為による傷害の延長線上にある〕。したがって、〔結果〕は、被告人の行為の有する上記危険が現実化したものと評価できる。よって、行為と結果との間に因果関係が認められる。

あてはめの論証例(否定例)

もっとも、本件の〔介在事情〕は、行為とは無関係に独立して生じた極めて異常な事象であり、行為がこれを誘発したともいえない。また、行為自体の危険性は乏しく、結果は専ら当該介在事情の危険が実現したものというべきである。したがって、行為の危険が結果に現実化したとは評価できず、因果関係は否定される。

論証で差がつくポイント

  • 行為の危険性を具体的に書く: 「危険があった」と抽象的に書かず、「どのような結果に向けた、どの程度の危険か」を事実に即して特定する。
  • 介在事情の異常性・寄与度を分けて評価する: 「異常か」と「結果にどれだけ効いたか」は別の観点。両方に触れると総合判断の説得力が増す。
  • 誘発関係への言及: 被害者・第三者の行為が介在する事案では「行為に誘発されたか」を必ず一言検討する。間接実現型の決め手になる。
  • 相当因果関係説との結論一致に触れる(余裕があれば): 「相当因果関係説によっても同様の結論となる」と添えると、説の選択に依存しない安定した結論であることを示せる。

よくある誤解・FAQ

Q1: 危険の現実化説とは結局何を判断する説ですか

「現に起きた結果が、その行為がもともと持っていた危険が形を変えて実現したものといえるか」を判断する説である。行為時の予見可能性ではなく、現実に生じた因果経過を事後的に見て、行為の危険の実現といえるかを実質的に評価する点がポイントである。

Q2: 相当因果関係説と危険の現実化説の違いを一言でいうと

相当因果関係説は行為時を基準とした結果発生の予見可能性(相当性)を問い、危険の現実化説は現実の因果経過における行為の危険の実現を事後的に問う。前者は事前判断的、後者は事後・実質的な判断である、というのが最大の違いである。

Q3: 相当因果関係説と危険の現実化説のどちらで書くべきですか

近時の判例は危険の現実化説に親和的であり、答案でも危険の現実化説で論じるのが標準的で推奨される。もっとも、相当因果関係説(折衷説)で論じても、規範を正確に立ててあてはめが具体的であれば減点にはならない。重要なのは、説の名称ではなく、介在事情の異常性・寄与度を具体的に評価できているかである。

Q4: 「危険の現実化」と「相当性」は別物ですか、同じ結論になりますか

判断の枠組みは異なるが、多くの事案で結論は一致する。危険の現実化説は、相当因果関係説では処理しにくかった介在事情のある事案(特に大阪南港事件型)を、より明快に説明できる点に実益がある。対立を強調しすぎず、結論一致の場面が多いことも理解しておきたい。

Q5: 条件関係と因果関係(危険の現実化)はどういう関係ですか

条件関係は因果関係の前提(必要条件)にすぎない。条件関係が認められても、危険の現実化が否定されれば法的因果関係は認められない。答案では「条件関係 → 法的因果関係(危険の現実化)」の順に二段階で検討する。

Q6: 因果関係が否定されるとどうなりますか

因果関係が否定された場合、結果の帰責ができず既遂犯は成立しない。行為者に結果発生の故意があれば未遂犯の成否が問題となり、過失犯の場合は結果犯が成立しないことになる(暴行罪・傷害罪など、より軽い罪が成立する余地はある)。

Q7: 被害者の素因(持病など)があっても因果関係は認められますか

行為時に存在した被害者の素因は、行為の危険性を評価する前提事情として考慮され得る。素因があったとしても、行為がその素因と相まって死亡等の危険を高め、その危険が現実化したと評価できれば因果関係は肯定され得る。介在事情というより「行為の危険性評価の前提」として位置づけられる点に注意。

Q8: 第三者の故意行為が介在すると因果関係は必ず切れますか

切れるとは限らない。大阪南港事件のように、行為者が既に死因となる傷害を形成していれば、第三者の故意の暴行が介在しても因果関係は肯定される。第三者の故意行為の介在は因果関係を否定する方向に働きやすいが、行為の危険性が大きく既に結果へ直結している場合は、なお危険の現実化が認められる。


関連論点・体系上の位置づけ

因果関係は客観的構成要件要素の一つであり、実行行為・結果と並ぶ結果犯の中核要件である。学習上は次の論点と接続して理解しておくと体系が整う。

  • 実行行為性: そもそも結果発生の現実的危険を持つ行為か(因果関係の出発点である「危険」の源)。
  • 未遂犯: 因果関係が否定されれば未遂の成否へ移行する。実行の着手・結果不発生との接続点。
  • 不作為犯: 不作為の因果関係(作為義務・結果回避可能性)は条件関係の特則的判断を要する。
  • 過失犯: 過失犯でも因果関係(危険の現実化)は必要であり、加えて結果回避可能性・予見可能性が問題となる。

関連条文

罪を犯す意思がない行為は、罰しない。

― 刑法 第38条第1項


まとめ

刑法上の因果関係は、①条件関係(あれなければこれなし)を前提に、②行為の危険性が結果に現実化したか(危険の現実化)という二段階で判断される。

  • 危険の現実化説とは、実行行為の持つ危険性が現実の因果経過を通じて結果へと実現したと評価できる場合に因果関係を肯定する考え方である。
  • 相当因果関係説との違いは、相当因果関係説が行為時基準の予見可能性(相当性)を問うのに対し、危険の現実化説は現実の因果経過を踏まえて行為の危険の実現を事後的・実質的に評価する点にある。両説は多くの事案で結論が一致する。
  • 判例は大阪南港事件以降、危険の現実化に親和的な判断を重ねており、介在事情の異常性・寄与度・誘発関係と行為の危険性を総合して因果関係を判断する枠組みが定着しつつある。
  • 答案では、行為の危険性を具体的に特定し、介在事情の異常性・寄与度・誘発関係を分けて評価したうえで、危険の現実化の有無を結論づけるのが王道である。

介在事情のある事案を、行為の危険の「直接実現型」と「誘発を介した間接実現型」に整理して捉えられれば、本論点はほぼ攻略できる。

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