情報公開法と個人情報保護法|行政の透明性確保
情報公開法と個人情報保護法を解説。行政文書の開示請求、不開示情報の類型、個人情報の利用制限、審査請求と訴訟を整理します。
この記事のポイント
情報公開法(正式名称:行政機関の保有する情報の公開に関する法律)は、行政の透明性を確保するための制度であり、「原則開示・例外不開示」という基本構造を持つ。 したがって試験でも実務でも、議論の中心は「開示してよいか」ではなく「不開示にできるか(不開示事由に該当するか)」にある。
この記事では特に、検索ニーズの高い次の3点を正面から扱う。
- 不開示情報とは何か ― 情報公開法5条各号の不開示事由を、要件・趣旨・典型例まで分解して理解する。
- 訴訟関係文書(行政が訴訟のために作成・取得した文書)の開示請求 ― なぜ不開示になりやすいのか、どの号で争われるのか。
- 情報公開請求を訴訟戦略として使う場面 ― 行政訴訟・国家賠償訴訟の当事者が、証拠収集の手段として開示請求を活用する際の作法と限界。
論文式・予備試験では「不開示事由該当性のあてはめ」「処分性・原告適格」「インカメラ審理の可否」が頻出の山である。以下、定義から論証例・FAQまで順に解説する。
情報公開法(行政機関情報公開法)とは
定義と目的
情報公開法とは、国民が行政機関に対して行政文書の開示を請求する権利を保障し、政府の説明責任(アカウンタビリティ)を全うさせることを目的とする法律である。 法1条は「国民主権の理念にのっとり」「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」ことを目的として掲げる。
ここで注意すべきは、目的規定が「知る権利」という文言を採用していない点である。立法過程では「知る権利」を明記するか議論されたが、最終的に「国民主権」と「説明責務」を基軸とする形になった。答案で「知る権利を保障した法律」と断定すると不正確になるため、「説明責務の全うを目的とし、開示請求権を法律上の具体的権利として創設したもの」と書くのが安全である。
開示請求権の性質
要素 内容 請求権者 何人も(国籍・年齢・利害関係・請求理由を問わない) 対象 行政機関が保有する行政文書 開示義務 不開示情報に該当しない限り、行政機関は開示する義務を負う(覊束的) 権利の性質 法律によって創設された具体的請求権請求理由を問わないことが重要である。「何に使うのか」を問われないため、報道目的でも、自己の訴訟準備のためでも、純然たる好奇心でも、請求権の成否には影響しない。これが後述する「訴訟戦略としての情報公開請求」を可能にする制度的土台になっている。
行政文書の定義
行政文書とは、行政機関の職員が職務上作成し又は取得した文書・図画・電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。 定義のポイントは3つに分解できる。
- 作成・取得の主体性:職員が職務上作成・取得したものであること。私的メモは含まれない。
- 組織共用性:「組織的に用いるもの」であること。個人の手控え・備忘メモは、組織として供用される状態にないため行政文書に当たらない。
- 保有:現に当該行政機関が保有していること。すでに廃棄・移管された文書は対象外。
この「組織共用文書性」は実務でしばしば争点になる。行政側が「これは担当者個人のメモにすぎず組織共用文書ではない」と主張して不開示(不存在)とする一方、請求者は「決裁の基礎資料として共用されている」と反論する、という攻防が典型である。
組織共用文書性の判断要素
組織共用文書に当たるかは、形式的な保管場所だけでなく、次のような要素を総合して実質的に判断するのが一般的な考え方である。
- 作成・取得の目的:そもそも組織としての業務遂行のために作られたか、個人の便宜のために作られたか。
- 業務上の必要性と利用の実態:他の職員や上司が現に参照・利用しているか、決裁・回覧の過程に乗っているか。
- 保存・管理の状況:文書管理規則に基づくファイルに編てつされているか、個人の机の中に私的に置かれているだけか。
たとえば、職員が会議のために自分用に作ったメモでも、それが回覧されて以後の意思決定の前提資料として使われていれば、組織共用文書性が肯定されやすい。逆に、決裁が終わった後の純粋な個人の備忘であれば否定されやすい。試験では「保管場所が個人の手元だから直ちに私的文書だ」と短絡しないことが重要である。
文書不存在を理由とする不開示
請求された文書が「そもそも存在しない」場合、行政機関は文書不存在を理由に不開示決定をする。ここで請求者が「あるはずだ」と争うとき、立証責任の所在が問題になる。一般に、不開示決定の取消訴訟では、不開示事由(文書の不存在を含む)の存在について被告行政機関側が主張立証責任を負うと解されるが、文書の存在をうかがわせる事情は請求者側からも提示する必要がある、という整理が実務的である。「以前は存在したが廃棄された」「作成義務があるのに作成していない」といった主張立証の攻防になる。
不開示情報(5条各号)とは ― 不開示事由の全体像
不開示情報の定義
不開示情報とは、情報公開法5条各号が定める、開示することによって保護法益を害するおそれがあるために開示義務が解除される情報をいう。 5条は1号から6号まで(個人情報を除けば実質的に複数類型)を列挙し、いずれかに該当する情報が記録されている場合、行政機関はその部分を開示しない。
ここを正確に理解するための前提が「原則開示・例外不開示」の構造である。開示が原則であり、不開示はあくまで例外。したがって不開示事由は限定列挙であり、行政機関が「なんとなく出したくない」という理由で不開示にすることは許されない。各号の要件を満たすことを行政機関側が説明できて初めて不開示が正当化される。
号 類型 中心的な保護法益 典型例 1号 個人情報 特定個人のプライバシー 申請書の氏名・住所、職員以外の関係者名 2号 法人情報 法人の正当な競争上・財産上の利益 取引先リスト、原価情報、ノウハウ 3号 国の安全等 国の安全・他国との信頼関係・外交上の利益 防衛・外交交渉に関する情報 4号 公共の安全等 犯罪の予防・鎮圧・捜査、公訴の維持 捜査手法、警備計画 5号 審議・検討・協議情報 意思形成過程の率直な意見交換・中立性 未成熟な検討段階の起案、内部協議メモ 6号 事務・事業情報 行政事務・事業の適正な遂行 試験問題、監査・取締りの手の内、契約交渉中の手持ち1号:個人情報
特定の個人を識別できる情報、または識別できなくても公にすると個人の権利利益を害するおそれがある情報を不開示とする。日本の情報公開法は、欧米のプライバシー型(プライバシー侵害のおそれを要件とする)ではなく、個人識別型を採用しているのが特徴である。すなわち「特定個人を識別できれば、それだけで原則として不開示」という構造で、これにより判断の客観性・予測可能性を高めている。
ただし例外がある。
- 法令の規定により公にされている情報、または慣行として公にされている情報
- 人の生命・健康・生活・財産を保護するため公にすることが必要な情報
- 公務員等の職務遂行に係る情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(=公務員が職務として行ったことは、その職と職務内容に限って開示される)
最後の点は頻出である。「誰が決裁したか(個人名)」は不開示でも、「どの職の者がどんな職務を行ったか」は開示されうる、という切り分けを覚えておく。
2号:法人情報
法人その他の団体、または事業を営む個人の情報で、公にすることにより当該法人等の正当な利益を害するおそれがあるものを不開示とする。「正当な利益」の典型は、ノウハウ・原価・取引先・経営戦略といった競争上の地位に関わる情報である。
注意点として、行政指導等で任意に提供された情報のうち、「公にしないとの条件で任意に提供されたもの」も一定の保護を受ける。ただし「条件を付ければ何でも不開示」ではなく、条件を付すことが当該情報の性質等に照らして合理的であることが必要である。
3号・4号:国の安全・公共の安全
3号(国の安全・外交)と4号(公共の安全・秩序維持)は、いずれも高度の政策的・専門技術的判断を要するため、行政庁に広い裁量が認められる点で他の号と性質が異なる。条文も「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という、判断の枠組み自体に裁量を組み込んだ書き方になっている。
そのため司法審査は「不開示とした判断に相当の理由があるか」という、判断過程・判断基準の合理性を問う緩やかな審査になりやすい。論文では「3号・4号は要件裁量が広く、司法審査密度が低下する」という相場観を押さえておくとよい。
5号:審議・検討・協議情報(意思形成過程情報)
国・地方公共団体の内部または相互間における審議・検討・協議に関する情報で、公にすることにより、率直な意見交換・意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ、または特定の者に不当に利益・不利益を及ぼすおそれがあるものを不開示とする。
ポイントは「意思形成過程」であること。決定が出る前の生煮えの検討段階を保護する趣旨なので、
- 意思決定がすでに終了した後は、5号該当性は弱まる(保護の必要性が低下する)。
- 「不当に」という限定が付いている。率直な意見交換が「損なわれる」だけでは足りず、「不当に」損なわれるおそれが必要。
訴訟関係文書との関係でも5号は重要である(後述)。
6号:事務・事業情報
行政機関等が行う事務・事業の性質上、公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を不開示とする。条文はイ〜ニ等で「監査・検査・取締り・試験」「契約・交渉・争訟」「調査研究」「人事管理」などの例示を置く。訴訟関係文書はこの6号(争訟に係る事務)と5号の双方が問題になりやすい。
「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は、抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が必要と解されている。
各号に共通する「おそれ」の判断
5条の多くの号は「〜するおそれ」を要件とする。この「おそれ」をどの程度厳格に要求するかが、開示・不開示の分水嶺になる。
- 客観的・具体的なおそれが必要:行政機関の主観的な懸念や、抽象的な可能性では足りない。法的保護に値する程度の具体的な蓋然性を要する、というのが基本線である。
- 号によって審査密度が異なる:1号・2号・5号・6号は、要件が比較的客観的に定まるため、裁判所も踏み込んで審査しやすい。これに対し3号・4号は「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」と規定され、要件裁量が広いため、審査は判断過程の合理性審査にとどまりやすい。
- 立証責任:不開示事由の存在は、原則として被告行政機関が主張立証責任を負う。原則開示・例外不開示の構造から導かれる帰結である。
この「おそれ」のあてはめこそが論文の得点源なので、号ごとの保護法益を意識して「何が、どの程度、どのように損なわれるのか」を具体的に書く訓練をしておきたい。
訴訟関係文書の不開示と訴訟戦略
ここからが、検索ニーズの中心である「行政機関情報公開法 訴訟関係文書 不開示 訴訟戦略」に正面から答えるパートである。
訴訟関係文書とは
ここでいう訴訟関係文書とは、行政機関が当事者となる(またはなりうる)訴訟・争訟に関連して、行政側が作成・取得・保有している文書をいう。具体的には次のようなものが想定される。
- 訴訟方針を検討した内部メモ・打合せ記録
- 訟務担当部局や顧問弁護士・指定代理人とのやり取り
- 主張立証の準備のために収集・作成した調査資料、想定問答
- 和解の可否・水準に関する内部協議資料
なぜ訴訟関係文書は不開示になりやすいのか
訴訟関係文書は、次の二重の理由で不開示事由に当たりやすい。
- 6号(争訟に係る事務)該当性:行政が当事者となる争訟において手持ちの方針や弱点が相手方に筒抜けになれば、当事者対等の原則が崩れ、争訟事務の適正な遂行に支障が生じる。
- 5号(審議・検討情報)該当性:訴訟方針の検討は典型的な意思形成過程であり、率直な検討が損なわれるおそれがある。
要するに「行政の手の内(訴訟戦略)が開示によって明らかになると、行政が訴訟で不当に不利になる」という支障が、不開示を基礎づける。これは民事訴訟における当事者対等・武器対等の発想と通じる。
開示が認められやすくなる事情
もっとも、訴訟関係文書だからといって自動的に永久に不開示になるわけではない。次の事情があると、開示の方向に傾く。
- 当該訴訟が終結している:係属中であれば手の内が露見する支障が大きいが、終結後はその支障が減退する。
- すでに法廷で顕出された情報:準備書面や証拠として提出済みの内容は、もはや秘匿の利益が乏しい。
- 意思形成が完了している:5号は意思形成過程を保護する趣旨なので、決定後は該当性が弱まる。
- 支障が抽象的にとどまる:「念のため出したくない」程度では「適正な遂行に支障」とはいえない。
情報公開請求を「訴訟戦略」として使うとは
行政を相手に取消訴訟や国家賠償請求を考えている者にとって、情報公開請求は証拠収集・事実調査の有力な手段になる。請求理由を問われないため、相手方行政の保有文書を訴訟前に入手できる可能性があるからである。具体的な使い方は次のとおり。
目的 開示請求の使い方 処分の理由・根拠の把握 処分の起案文書・決裁文書・審査基準の適用記録を請求し、理由付記の不備や裁量判断の過程を炙り出す 事実関係の固定 行政の調査記録・現場記録を入手し、後の訴訟での主張と矛盾がないか確認する 過去の取扱いとの比較 同種事案の処分例を請求し、平等原則違反・先例との不均衡を立証する 不存在の確認 「審査基準が存在しない」「考慮した形跡がない」ことを、不開示(不存在)決定によって逆に立証材料にする訴訟戦略として使う際の限界と注意
- 相手方の訴訟関係文書そのものは取りにくい:前述のとおり5号・6号で不開示になりやすい。狙うべきは「処分の基礎資料」「審査基準」「過去の処分例」など、争訟の手の内とは別の客観資料である。
- 民事訴訟法上の文書提出命令との使い分け:訴訟係属後は文書提出命令という制度もある。情報公開請求は「誰でも・訴訟前でも」使える反面、不開示事由のハードルがある。文書提出命令は「訴訟の当事者が・係属後に」使うもので除外事由の構成が異なる。両者は別制度であり、目的に応じて選択・併用する。
- 不開示決定を争う二段構え:開示請求して不開示が返ってきたら、その不開示決定自体を取消訴訟で争いつつ、本案(処分取消訴訟等)を進める、という二正面作戦になることがある。
情報公開請求と文書提出命令の比較
訴訟戦略を考えるうえで、情報公開請求(情報公開法)と文書提出命令(民事訴訟法)の違いを整理しておくと、場面に応じた手段選択ができる。
観点 情報公開請求 文書提出命令 根拠法 情報公開法 民事訴訟法 使える人 何人も 訴訟の当事者 使える時期 訴訟前でも可 訴訟係属後 対象 行政機関の保有する行政文書 相手方・第三者が所持する文書 拒否・除外の枠組み 5条各号の不開示事由 提出義務の除外事由(自己利用文書等) 強制力 不開示なら取消訴訟で争う 命令に従わない場合の制裁規定あり実務では、訴訟前にまず情報公開請求で外堀を埋め、係属後に必要があれば文書提出命令を申し立てる、という併用が考えられる。両者は要件も手続も別なので、「情報公開で不開示だったから文書提出命令でも当然出ない」とは限らない(除外事由の構成が異なる)点に注意する。
訴訟戦略としての具体的シナリオ
場面 狙う文書 期待できる効果 不許可処分を取消したい 審査基準・運用基準、過去の許可事例 基準の不適用・平等原則違反を立証 理由付記の不備を突きたい 処分の起案・決裁文書 処分時に考慮された理由が薄いことを露見させる 国家賠償で過失を立証したい 行政の調査記録・経過記録 注意義務違反・予見可能性の裏付けを得る 不作為を争いたい 申請の受付・処理経過記録 標準処理期間の徒過・放置を立証いずれも、相手方の「訴訟の手の内」そのものではなく、処分の客観的な基礎資料を狙うのがコツである。
部分開示・裁量的開示・存否応答拒否
部分開示(6条)
部分開示とは、一つの行政文書に不開示情報と開示できる情報が混在している場合に、不開示情報の記録部分を容易に区分して除くことができるときは、その部分を除いた残りの部分を開示しなければならないとする制度である。 いわゆる「黒塗り(マスキング)」開示はこの規定に基づく。氏名等を黒塗りすれば残部に意味があるなら、全部不開示は許されない。
ただし「容易に区分して除くことができる」ことが要件である。区分すると残部が無意味になる場合や、技術的に区分が著しく困難な場合は、部分開示義務は及ばない。
裁量的開示(7条)
裁量的開示(公益裁量開示)とは、5条各号の不開示情報に該当する場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、行政機関の長が裁量により開示することができるとする制度である。 あくまで「できる」規定であり、開示が義務づけられるわけではない点に注意。不開示事由に該当することを前提に、なお公益が上回ると判断したときの安全弁である。
存否応答拒否(グローマー拒否・8条)
存否応答拒否とは、開示請求に対して、当該文書が存在しているか否かを答えるだけで不開示情報を開示することになる場合に、文書の存否を明らかにしないで請求を拒否できる制度である。 たとえば「特定人物の犯罪歴に関する文書」を請求された場合、「ある/ない」と答えること自体がその人物の犯歴の有無という個人情報を漏らしてしまう。そこで存否自体を明らかにせず拒否することが認められる。論文ではこの「答えること自体が情報になる」構造を説明できると強い。
開示請求から決定までの手続の流れ
不開示事由とあわせて、手続の流れも押さえておくと事案処理がぶれない。
- 開示請求:請求者が、対象文書を特定できる程度に記載した請求書を提出する。
- 形式審査・補正:記載に不備があれば、行政機関は相当の期間を定めて補正を求めることができる。
- 開示・不開示の決定:原則として法定の期間内に、開示するかどうかを決定する。事務処理上の困難等があるときは、期間を延長し、または相当部分につき期間内に決定し残りを後日とする例外がある。
- 第三者に関する情報の意見聴取:開示請求に係る文書に国・地方公共団体以外の第三者の情報が含まれるとき、行政機関は当該第三者に意見書提出の機会を与えることができ、一定の場合には与えなければならない。
- 通知:開示・不開示の決定を書面で請求者に通知する。不開示の場合は理由を付す。
第三者の権利保護(反対意見書と争訟)
第三者が「開示しないでほしい」と反対意見書を提出したにもかかわらず行政機関が開示決定をする場合、行政機関は、開示決定の日と実際に開示を実施する日との間に一定の期間を置き、その旨を第三者に通知しなければならない。これは、開示で不利益を受ける第三者が、開示の実施前に開示決定の取消訴訟・執行停止を申し立てる機会を確保するためである。情報公開をめぐる争訟は「請求者 対 行政」だけでなく、「開示されたくない第三者 対 行政」という逆方向の争訟(いわゆる逆FOIA訴訟)も生じうる点に注意する。
不服申立てと訴訟
審査請求と情報公開・個人情報保護審査会への諮問
不開示決定(全部・部分)に不服がある者は、行政不服審査法に基づく審査請求ができる。審査請求を受けた行政機関の長は、原則として情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。 この審査会は独立性の高い第三者機関であり、行政内部の自己点検にとどまらない実質的な救済機能を担う。
審査会のインカメラ審理
ここが情報公開特有の最重要論点である。情報公開・個人情報保護審査会は、必要があると認めるときは、対象となった行政文書の現物の提示を行政機関に求め、非公開でこれを実際に見分して審理することができる(インカメラ審理)。 審査会が現物を見ることで、不開示が正当かを実質的に判断できる。
訴訟(取消訴訟・義務付け訴訟)
不開示決定を争う訴訟としては、
- 不開示決定の取消訴訟:処分性のある不開示決定を取り消す。
- 開示の義務付け訴訟:取消訴訟と併合提起し、開示すべき旨を義務付ける。
の二本立てが基本である。原告適格は、開示請求権者であれば原則認められる(請求理由を問わない制度設計と整合する)。
訴訟段階でのインカメラ審理の可否
情報公開訴訟において、裁判所が当事者(請求者)を立ち会わせずに対象文書の現物を見分するインカメラ審理は、情報公開法に明文の規定がない。 審査会段階ではインカメラ審理が法律上認められているのと対照的である。裁判所が当事者の関与なしに証拠を取り調べることは、民事訴訟における当事者立会権・公開原則・対審構造との緊張関係を生むため、明文の根拠なくこれを行うことには慎重な見解が有力である。論証では「審査会にはインカメラ審理が法定されている/訴訟段階では明文規定がなく可否が問題となる」という対比を必ず示す。なお、原処分が適法かを裁判所が判断するために、不開示事由の主張立証をどう尽くさせるか(いわゆるヴォーン・インデックス的な目録の活用など)といった訴訟運営上の工夫が論じられる。
答案での書き方・論証例
基本の流れ(不開示事由該当性)
情報公開の論文は、ほぼ次の型で書ける。
- 開示請求権の確認:何人も行政文書の開示を請求でき、不開示事由がない限り行政機関は開示義務を負う(原則開示)。
- 対象文書性:当該文書が「行政文書」(組織共用文書)に当たるか。
- 不開示事由該当性:問題となる号(5条◯号)の要件を立て、事実をあてはめる。「おそれ」の有無を具体的に検討するのが山場。
- 部分開示・裁量的開示の検討:全部不開示が過剰でないか(6条)、なお公益開示の余地はないか(7条)。
- 救済:不開示なら取消訴訟+義務付け訴訟、審査請求なら審査会諮問・インカメラ審理。
論証例(5号・訴訟関係文書)
本件文書は、本件処分をめぐる訴訟に向けて被告行政機関が訴訟方針を検討した内部協議の記録であり、行政機関内部における「検討・協議に関する情報」に当たる。これを公にすれば、行政側の主張立証の構想が相手方に明らかとなり、当事者対等の下で行われるべき争訟事務の適正な遂行に支障を及ぼすとともに、率直な意見交換を不当に損なうおそれがある。よって本件文書は5条5号・6号の不開示情報に該当する。もっとも、本件訴訟はすでに確定して終結しており、意思形成は完了している。そうすると上記の支障はすでに減退しているから、なお「おそれ」が認められるかは慎重な検討を要し……
このように「号の要件 → 趣旨(保護法益) → あてはめ → 終結・顕出等の減退事情」まで書けると評価が高い。
論証例(インカメラ審理)
不開示事由該当性を裁判所が実質的に判断するには、対象文書の現物を見分するのが最も的確である。しかし、当事者を立ち会わせずに裁判所が文書を取り調べるインカメラ審理は、情報公開法に明文の規定がない。当事者の手続関与・対審構造との関係で、明文の根拠なくこれを行うことには問題がある。他方、審査会には法律上インカメラ審理が認められており、まずは審査会の判断を活用することが制度の予定するところといえる。
個人情報保護法(行政機関関連)との関係
2021年改正による一元化
従来、民間部門の個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法が別々に存在していたが、2021年改正により、これらは個人情報保護法に統合(一元化)され、所管も個人情報保護委員会に集約された。 行政機関等が保有する個人情報の取扱いも、現在は統合後の個人情報保護法の中に規定されている。
情報公開法との切り分け
両者は「誰の情報を/何のために」開示するかが根本的に異なる。
観点 情報公開法 個人情報保護法(本人開示) 請求できる人 何人も 本人(または法定代理人等) 対象 行政文書一般 自己を本人とする保有個人情報 目的 行政の透明性・説明責務 自己情報のコントロール 第三者の個人情報 1号で原則不開示 自己の情報なので開示対象たとえば「自分の処分に関する記録に書かれた自分の情報」を見たいなら個人情報保護法の本人開示請求、「行政の政策決定過程の文書一般」を見たいなら情報公開法、という使い分けになる。
個人情報の取扱いの基本原則
原則 内容 利用目的の特定 保有個人情報の利用目的をできる限り特定する 目的外利用の制限 特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えた利用は原則禁止 提供の制限 法令に基づく場合等を除き、第三者提供は原則禁止本人による開示・訂正・利用停止請求
本人は、自己を本人とする保有個人情報について、開示・訂正・利用停止を請求できる。これらの請求に対する拒否決定も、情報公開と同様、審査請求(審査会諮問)・取消訴訟で争うことができる。
よくある誤解とFAQ
Q. 情報公開法は「知る権利」を明記している?
A. 明記していない。 目的規定は「国民主権」と「政府の説明責務」を基軸とする。答案で「知る権利を保障した法律」と言い切るのは不正確。「開示請求権を法律上の具体的権利として創設した」と表現するのが安全。
Q. 請求理由を書かないと開示してもらえない?
A. 理由は不要。 何人も理由を問われず請求できる。これが訴訟準備や報道での活用を可能にしている。
Q. 訴訟関係文書は絶対に開示されない?
A. そうとは限らない。 確かに5号・6号で不開示になりやすいが、訴訟が終結し意思形成も完了していれば「おそれ」が減退し、開示の余地が出る。すでに法廷で顕出された情報は秘匿の利益が乏しい。
Q. 個人情報が一部含まれていれば全部不開示?
A. 違う。 容易に区分できるなら部分開示(6条)が義務づけられる。氏名等を黒塗りして残部を出すのが原則。
Q. 裁判所はインカメラ審理で文書を直接見て判断できる?
A. 情報公開法に明文規定はない。 審査会段階のインカメラ審理は法定されているが、訴訟段階で当事者抜きに裁判所が文書を見分する手続には明文の根拠がなく、可否が論点となる。
Q. 文書の存在自体を答えないことが許される?
A. 許される場合がある(存否応答拒否・8条)。 存否を答えるだけで不開示情報を漏らすことになる場合、存否を明らかにせず拒否できる。
まとめ
- 情報公開法は原則開示・例外不開示の構造。議論の中心は「不開示にできるか」。
- 不開示事由は5条各号の限定列挙。各号の保護法益と「おそれ」の程度を正確に区別する。
- 訴訟関係文書は、争訟事務(6号)と意思形成過程(5号)の二重の理由で不開示になりやすいが、訴訟終結・情報の顕出・意思形成完了で「おそれ」は減退する。
- 情報公開請求は訴訟戦略の証拠収集手段として有効。ただし相手方の手の内(訴訟関係文書そのもの)は取りにくいので、審査基準・処分の基礎資料・過去の処分例を狙う。
- 部分開示(6条)・裁量的開示(7条)・存否応答拒否(8条)の三制度を区別する。
- 救済は審査請求(審査会諮問+インカメラ審理)と取消訴訟・義務付け訴訟。訴訟段階のインカメラ審理は明文がなく論点。
- 個人情報保護法は2021年改正で一元化。情報公開法とは「誰の情報を/何のために」開示するかで切り分ける。