強盗致死傷罪の論点整理
強盗致死傷罪(240条)の論点を整理。結果的加重犯と故意犯の複合形態、強盗の機会の意義、共犯の帰責問題を判例・学説から体系的に解説します。
この記事のポイント
強盗致死傷罪(刑法240条)は、強盗犯人が人を負傷させた場合(=強盗致傷、無期又は6年以上の懲役)と死亡させた場合(=強盗致死、死刑又は無期懲役)を規定する重罰規定である。その法的性質(結果的加重犯か故意犯を含むか)、「強盗の機会」の範囲、共犯関係における致死傷結果の帰責が主要な論点となる。事後強盗(238条)との組み合わせも試験上重要である。
この記事ではまず「強盗致死傷罪とは何か」「強盗致死・強盗致傷それぞれの意味」を端的に定義したうえで、要件・論点・判例・あてはめ・答案の書き方・FAQまでを一気通貫で整理する。検索で「強盗致死傷罪」「強盗致死」「強盗致傷」と調べてたどり着いた読者が、定義から答案表現まで一度で確認できることを目的とする。
強盗致死傷罪とは(端的な定義)
強盗致死傷罪とは
強盗致死傷罪とは、強盗(236条の強盗、238条の事後強盗、239条の昏酔強盗を含む)を犯した者が、その犯行に関連して人を負傷させ又は死亡させた場合に成立する犯罪(刑法240条)をいう。条文上は「強盗が、人を負傷させたとき」「死亡させたとき」とだけ定められており、強盗罪を基礎としつつ、人身侵害という重い結果に着目して刑を加重する点に特徴がある。
「強盗致死傷罪」は講学上・実務上の総称であり、その内訳は次の4類型に整理できる。
- 強盗致傷罪(240条前段・過失で負傷させた場合)
- 強盗傷人罪(240条前段・故意で負傷させた場合)
- 強盗致死罪(240条後段・過失で死亡させた場合)
- 強盗殺人罪(240条後段・故意で死亡させた場合)
後述するとおり、判例は240条が故意犯(強盗傷人・強盗殺人)も含むと解しているため、実務では前段を「強盗致傷罪」、後段を「強盗致死罪(強盗殺人罪)」と呼ぶことが多い。条文の文言が「致傷」「致死」となっていなくても、通称として定着している点に注意したい。
強盗致傷とは
強盗致傷(240条前段)とは、強盗犯人が人を負傷させたことにより成立する犯罪をいい、法定刑は無期又は6年以上の懲役である。負傷の結果について故意があってもなくても240条前段が適用されるのが判例の立場である。傷害の程度はそれほど要求されず、比較的軽微な傷でも成立しうる点が実務上のポイントとなる(程度については後述)。
強盗致死とは
強盗致死(240条後段)とは、強盗犯人が人を死亡させたことにより成立する犯罪をいい、法定刑は死刑又は無期懲役である。死亡について故意がない場合(=本来の意味での「強盗致死」)も、故意がある場合(=強盗殺人)も、いずれも240条後段が適用される。法定刑の下限が無期懲役であり、有期懲役の選択肢がない極めて重い犯罪である点を押さえておきたい。
なぜこれほど重く処罰されるのか
強盗罪(236条)の法定刑は5年以上の有期懲役であるのに対し、240条は致傷で「無期又は6年以上」、致死で「死刑又は無期」と一段も二段も重い。これは、強盗という財産犯が暴行・脅迫を手段とする性質上、人身侵害を伴いやすく類型的に危険性が高いことを踏まえ、立法者が人の生命・身体の保護を特に強く図ったものと理解されている。したがって、240条の解釈においては「強盗の危険性が現実化したといえるか」という視点が一貫して重要となる。
240条の構造
条文
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
基礎となる「強盗」の範囲
240条の主体である「強盗」には、次の3類型がすべて含まれる。240条の検討の前提として、まずどの強盗が成立するかを確定する必要がある。
- 強盗罪(236条): 暴行・脅迫を用いて財物を強取し、又は財産上の利益を得る通常の強盗。
- 事後強盗罪(238条): 窃盗犯人が、財物の取返し防止・逮捕回避・罪跡隠滅の目的で暴行・脅迫をした場合。「強盗として論ずる」ため240条の主体となる。
- 昏酔強盗罪(239条): 人を昏酔させて財物を盗取した場合。これも「強盗として論ずる」。
これらのいずれかが成立して初めて240条が問題になる。例えば「暴行は財物奪取より前か後か」「窃盗の機会の継続中の暴行か」といった点で基礎となる強盗の類型が変わるため、240条に進む前の認定が答案の出発点になる。
法的性質をめぐる議論
学説 内容 帰結 結果的加重犯説 240条は過失による致死傷のみを規定 故意に殺傷した場合は殺人罪等と別個に成立 故意犯包含説(判例) 240条は故意犯を含む 強盗殺人は240条後段で処理 結合犯説 強盗と殺傷の結合犯 故意犯も当然に含む判例の立場
判例は、故意犯包含説を採用している(最判昭32.8.1)。
- 強盗犯人が故意に人を殺した場合も240条後段が適用される
- 殺人罪(199条)との関係: 240条後段のみが成立し、殺人罪は別途成立しない(法条競合)
- 強盗致傷の場合: 故意に傷害した場合も240条前段が適用される
なぜ故意犯包含説が支持されるのか
故意犯包含説の理由付けは答案でしばしば問われるため、論拠を整理しておく。
- 均衡論: 仮に240条を過失致死傷のみの結果的加重犯と解すると、強盗の機会に「過失で」死亡させた者は240条後段(死刑又は無期)で処断されるのに対し、より重い「故意で」殺した者は強盗罪と殺人罪の併合罪にとどまる、という逆転が生じうる。これでは故意犯の方が軽く扱われかねず不均衡である。240条が故意犯を含むと解せば、この不均衡を避けられる。
- 文理: 240条は「死亡させたとき」と規定するのみで、過失に限定する文言を置いていない。故意による死亡を排除する根拠は条文にない。
- 沿革・趣旨: 強盗の機会には殺傷が伴いやすいという立法者の認識を前提に、人身侵害を一括して重く処罰する趣旨と整合する。
ただし、故意犯包含説には「結果的加重犯(致死傷)と故意犯(傷人・殺人)という性質の異なるものを一つの条文に詰め込むのは無理がある」という批判もある。答案では、結果的加重犯説からの帰結(殺人罪との併合罪等)も押さえたうえで、判例の包含説に立つのが安全である。
罪名の整理(実務の呼び方)
結果 故意の有無 適用条文 実務上の罪名 負傷 故意なし(過失) 240条前段 強盗致傷罪 負傷 故意あり 240条前段 強盗傷人罪 死亡 故意なし(過失) 240条後段 強盗致死罪 死亡 故意あり 240条後段 強盗殺人罪いずれも条文は240条であり、起訴状・判決における罪名表記が異なるにすぎない。試験では「240条後段の罪が成立する」と書けば足りるが、故意の有無に応じて「強盗致死罪」か「強盗殺人罪」かを意識しておくと、量刑や情状の議論で差がつく。
「強盗の機会」の意義
問題の所在
240条が適用されるためには、致死傷の結果が「強盗の機会」に生じたものである必要がある。条文上は「強盗が、人を負傷させたとき」としか規定されていないが、強盗行為と致死傷との間に何らかの関連性が求められる。
学説の対立
学説 範囲 具体的基準 手段説 最も狭い 強盗の手段としての暴行・脅迫から致死傷が生じた場合のみ 機会説(判例) 中間 強盗の機会に致死傷が生じた場合 密接関連説 広い 強盗と密接に関連する行為から致死傷が生じた場合「強盗の機会」の具体的判断
判例は、以下のような場面で「強盗の機会」を認めている。
- 犯行現場での暴行: 強盗行為中に被害者を負傷させた場合
- 逃走中の暴行: 強盗後の逃走中に追跡者を負傷させた場合(最判昭24.5.28)
- 犯行の発覚防止: 被害者が声を上げようとしたのを阻止するための暴行
- 物色中の暴行: 金品の物色中に被害者等に対して暴行を加えた場合
「強盗の機会」が否定される場合
- 強盗完了後、相当時間が経過した後の暴行
- 強盗とは無関係の動機に基づく暴行
- 強盗の現場から離れた場所での暴行(ただし、逃走の継続中は認められる場合がある)
「機会」を判断するときの着眼点
「強盗の機会」の有無は、形式的に時間・場所が近接しているかだけでなく、強盗行為と致死傷との実質的な関連性を見て判断するのが判例の発想である。答案では次の要素を意識して評価すると説得的になる。
- 時間的近接性: 強盗の実行行為(暴行・脅迫、財物奪取)からどれだけ時間が経過しているか。逃走が継続している間は、強盗の行為がなお続いているとみる余地が大きい。
- 場所的近接性: 犯行現場やその周辺か、それとも完全に離れた別の場所か。
- 動機の関連性: 致死傷をもたらした暴行が、財物の奪取・確保、発覚・逮捕の防止、罪跡隠滅など、強盗に由来する目的でなされたか。私怨など強盗と無関係な動機による暴行は「機会」性が否定されやすい。
- 強盗状況の継続性: 被害者がなお制圧下にあるか、犯人が現場を支配しているかといった、強盗の危険状態が続いているかどうか。
これらを総合し、「強盗に類型的に伴う危険が現実化したといえるか」を評価するのが要点である。
具体例で考える
- 例1: コンビニ店員に刃物を突きつけて現金を奪った直後、騒がれたため店員を殴って負傷させた → 財物確保・発覚防止の目的で犯行現場の暴行であり、強盗の機会が認められる(240条前段)。
- 例2: 強盗後に車で逃走中、追跡してきた通行人をはねて負傷させた → 逃走継続中の暴行に準じ、強盗の機会が認められうる(最判昭24.5.28の趣旨)。
- 例3: 強盗を終えて数日後、被害者と街でばったり会い、口論の末に殴って負傷させた → 強盗とは無関係の動機・時間的隔たりがあり、強盗の機会は否定される(別途傷害罪等が成立)。
致死傷結果の帰責
因果関係の問題
240条の適用には、強盗の機会における行為と致死傷結果との間に因果関係が必要である。
- 暴行から直接生じた傷害・死亡: 因果関係は明らか
- 被害者の逃走中の転倒: 強盗の暴行から逃れようとして転倒・負傷した場合にも因果関係が認められる
- 被害者のショックによる死亡: 強盗による恐怖から心臓発作を起こして死亡した場合も因果関係が認められうる
因果関係の判断枠組み
致死傷結果の因果関係は、強盗致死傷罪に固有の特別な基準があるわけではなく、刑法総論で学ぶ因果関係論(条件関係を前提に、行為の危険が結果へ現実化したといえるかを問う危険の現実化説)がそのまま妥当する。240条で特に問題になりやすいのは、以下の介在事情がある場面である。
- 被害者自身の行為が介在する場合: 暴行・脅迫から逃れようとした被害者が転倒・転落して死傷した場合。被害者の行動が、強盗の暴行・脅迫に誘発された自然な反応の範囲内であれば、行為の危険が現実化したものとして因果関係が肯定されやすい。逆に、被害者の行動が著しく異常・不自然な場合は因果関係が問題となりうる。
- 被害者の特殊事情が介在する場合: もともと心臓疾患のある被害者が、強盗の恐怖や暴行を契機に発作を起こして死亡した場合。被害者の身体的素因は通常、因果関係を否定する事情とはならず(いわゆる「卵殻頭蓋」型の処理)、因果関係は肯定される方向に働く。
- 第三者・医療行為が介在する場合: 負傷後の不適切な医療や第三者の行為が介在した場合は、当初の暴行の危険性の大きさと介在事情の異常性を比較衡量して判断する。
致死傷の主体・客体の範囲
「人を負傷させた/死亡させた」の「人」は、強盗の被害者(財物を奪われた者)に限られない。発覚を防ぐために居合わせた家族を負傷させた場合や、逃走中に追跡してきた通行人・警察官を死傷させた場合も、強盗の機会性が認められれば240条の客体に含まれる。一方、共犯者同士の同士討ちで一方が死傷したようなケースは、240条が保護しようとする「被害者側の生命・身体」とは性質が異なるため、別途検討を要する。
傷害の意義
240条前段の「負傷」(傷害)の意義について、以下の点が問題となる。
- 傷害の程度: 軽微な傷害でも240条前段が適用される
- PTSD等の精神的傷害: 精神的傷害が「負傷」に含まれるかは議論がある
- 既存の疾患の悪化: 強盗の暴行により既存の疾患が悪化した場合
傷害の程度をめぐる議論(軽微傷の扱い)
ここは実務でも争いになりやすい論点である。強盗致傷罪は法定刑の下限が懲役6年と重いため、ごく軽微な擦り傷でも一律に240条前段を適用すると、強盗罪(5年以上)との関係でバランスを欠くのではないかという問題意識がある。
- 判例の基本姿勢: 傷害の程度は強盗致傷罪の成立に厳格な限定を加えないとするのが伝統的立場であり、比較的軽微な傷でも「負傷」にあたりうると解されてきた(傷害の程度に関する古い判例として大判大11.12.22がある)。
- 限定説の主張: 学説には、日常生活に支障のない極めて軽微な傷(ごく小さな擦過傷等)については、強盗罪の暴行に通常伴う程度のものとして240条前段の適用を限定すべきとする見解もある。
- 答案上の処理: 軽微傷が問題となる事例では、まず「負傷」にあたるかを認定し、判例の立場(軽微でも成立)を前提にしつつ、限定説の問題意識にも触れて結論を示すと厚みが出る。
結果的加重犯としての帰責(過失要否)
240条を結果的加重犯として適用する場面(致傷・致死について故意がない場合)では、加重結果について行為者の予見可能性(過失)を要するかが問題となる。判例は伝統的に結果的加重犯について過失を不要とする立場をとってきたとされるが、学説では加重結果について少なくとも予見可能性を要するとする見解が有力である。答案では、強盗の暴行と致死傷との間に因果関係があることを前提に、加重結果が強盗行為に類型的に伴う危険の現実化といえるかを評価するのが穏当である。
共犯関係における致死傷結果の帰責
問題の所在
強盗の共犯者の一人が被害者を死傷させた場合、他の共犯者にも240条の責任を問えるかが問題となる。
判例の立場
場面 判例の結論 共謀に基づく暴行から致傷結果 全員に240条前段の責任 共謀の範囲を超える暴行から致傷結果 原則として超えた部分は帰責されない 共謀に殺害が含まれる場合 全員に240条後段の責任 一部の者が殺意を持ち他の者は持たない場合 殺意のある者は240条後段、ない者は240条前段共犯者間で殺意が異なる場合
最決平13.3.27は、以下の判断を示した。
- 強盗の共謀者のうち、一部の者のみが殺意を有していた場合
- 殺意のある者: 強盗致死罪(240条後段)
- 殺意のない者: 強盗致傷罪(240条前段) に止まる
この結論は、部分的犯罪共同説(行為の重なり合う限度で共同正犯が成立する)から導かれる。
強盗の共謀と傷害結果の帰責
- 強盗を共謀した以上、暴行・脅迫から生じる傷害結果については各共犯者に帰責される
- ただし、共謀の範囲を明らかに逸脱した行為から生じた結果については帰責されない
- 正犯意思の有無が共同正犯と幇助犯の区別において重要
共謀の射程という視点
共犯者に致死傷結果を帰責できるかは、近時は「共謀の射程」という枠組みで論じられる。すなわち、実際に生じた致死傷結果が、当初の共謀(強盗の合意)に内在する危険が現実化したものといえるかを問う。
- 共謀の範囲内: 強盗を共謀した以上、その手段としての暴行から相手が負傷することは類型的に想定される。したがって、実行担当者が被害者を負傷させた場合、暴行を直接担当していない見張り役などにも240条前段の責任が及ぶ。
- 共謀の射程外: 一部の者が、強盗とは無関係の動機で(例えば被害者と個人的トラブルがあり)独自に殺害に及んだような場合、その結果は当初の強盗の共謀に内在する危険の現実化とはいえず、他の共犯者には帰責されない。
- 過剰結果の処理: 「軽い暴行を共謀したのに、一人が殺意をもって殺害した」という過剰のケースが、最決平13.3.27が扱った場面である。ここで部分的犯罪共同説が機能し、重なり合う前段の限度で帰責される。
答案でのチェックポイント(共犯)
- 誰と誰の間にどの範囲の共謀があったかを確定する。
- 実際の致死傷行為が共謀の射程内か(強盗に内在する危険の現実化か)を評価する。
- 各人の故意(殺意の有無)を確定する。
- 部分的犯罪共同説により、各人に成立する罪(240条前段/後段)を振り分ける。
事後強盗致傷との関係
事後強盗罪(238条)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
事後強盗致傷罪の成否
事後強盗罪と240条を組み合わせて、事後強盗致傷罪が成立する。
- 窃盗犯人が逮捕を免れるために暴行を加え、相手を負傷させた場合
- 238条により「強盗として論ずる」ため、240条が適用される
- 法定刑は強盗致傷と同じ(無期又は6年以上の懲役)
事後強盗の共犯と致傷結果
- 窃盗の共犯者の一部が暴行を加え相手を負傷させた場合
- 他の共犯者にも事後強盗致傷罪が成立するか
- 共謀の範囲(暴行についての共謀の有無)が重要な判断基準
事後強盗の身分犯性
事後強盗罪の主体は「窃盗」であるため、身分犯としての性質を有する。
学説 内容 帰結 真正身分犯説 65条1項により共犯全員に成立 窃盗犯でない者も強盗として処罰 不真正身分犯説 65条2項により科刑が分離 窃盗犯でない者は暴行・脅迫の限度 結合犯説 窃盗と暴行・脅迫の結合犯 窃盗の身分がない者にも成立しうる事後強盗の身分犯性は、「窃盗の途中から加わって暴行だけを手伝った者」の処理に直結する。真正身分犯説に立てば65条1項で窃盗の身分がない者にも事後強盗(さらに240条)が成立しうるのに対し、結合犯説に立てば窃盗と暴行・脅迫を共同して実現したとみて共同正犯を認める構成になる。いずれの説によるかで、暴行のみに関与した者への240条適用の可否が変わるため、事後強盗致傷が問われる事例では身分犯性の議論を一言でも示しておきたい。
事後強盗致死傷のあてはめ例
甲は店舗で商品を万引き(窃盗既遂)した直後、店員に発見されて呼び止められたため、逮捕を免れる目的で店員を突き飛ばし、転倒した店員に負傷を負わせた。
この場合、甲は窃盗犯人であり、逮捕を免れる目的で暴行を加えているから事後強盗罪(238条)が成立し、「強盗として論ずる」結果、店員の負傷について240条前段が適用され、事後強盗致傷罪(無期又は6年以上の懲役)が成立する。窃盗の機会の継続中の暴行といえるか(時間的・場所的近接性)が認定のポイントになる。
強盗致死傷罪の未遂
強盗致傷罪の未遂
240条の未遂が成立するかについては議論がある。
- 強盗は未遂だが傷害結果が発生した場合: 240条前段の既遂(判例)
- 強盗は既遂だが殺害は未遂の場合: 240条後段の未遂(強盗殺人未遂)
- 243条は240条の未遂を処罰する旨を規定
強盗殺人未遂
- 強盗犯人が殺意をもって暴行を加えたが、被害者が死亡しなかった場合
- 240条後段の未遂として処罰される
- 傷害結果が生じている場合、240条前段(強盗致傷)との関係が問題となるが、後段の未遂のみが成立する
あてはめの型と答案での書き方
検討の順序(思考のフローチャート)
事例で強盗に伴って人が死傷した場合、次の順序で検討すると漏れがない。
- 基礎となる強盗の認定: まず236条(強盗)・238条(事後強盗)・239条(昏酔強盗)のいずれかが成立するかを確定する。240条は「強盗が」を前提とするので、ここを飛ばさない。
- 致死傷結果の発生と因果関係: 死亡・負傷の結果が生じたか、強盗の機会の行為との間に因果関係があるかを検討する。
- 「強盗の機会」性の認定: 時間的・場所的近接性、動機の関連性、強盗状況の継続性を評価する。
- 故意の有無の確定: 死傷について故意があれば後段=強盗殺人/前段=強盗傷人、なければ致死・致傷として整理する(いずれも条文は240条)。
- 共犯がいる場合の帰責: 共謀の範囲、殺意の異同を検討し、誰に前段・後段のいずれが成立するかを振り分ける。
- 罪数処理: 住居侵入罪等との関係(牽連犯・併合罪)を整理する。
論証例(強盗の機会)
240条は「強盗が、人を負傷させたとき」と規定するところ、強盗の暴行・脅迫それ自体から生じた死傷に限らず、強盗の機会に生じた死傷を広く含むと解する。けだし、240条は、強盗が人の生命・身体に対する危険を類型的に伴うことに鑑み、その危険が現実化した場合を重く処罰する趣旨だからである。本件では、被告人は財物奪取後の逃走中に追跡者に暴行を加えており、強盗による制圧状態がなお継続する時間的・場所的近接性のある場面での暴行であって、強盗の機会に生じた負傷といえる。
論証例(共犯者間で殺意が異なる場合)
強盗の共謀者の一部のみが殺意をもって被害者を殺害した場合、殺意のない他の共謀者にも240条後段の罪が成立するかが問題となる。思うに、共同正犯は構成要件を共同して実現する点に処罰根拠があるから、各人の故意が異なる以上、構成要件が実質的に重なり合う限度でのみ共同正犯が成立する(部分的犯罪共同説)。強盗致死罪(240条後段)と強盗致傷罪(240条前段)は、軽い前段の限度で重なり合う。よって、殺意のある者には240条後段の罪、殺意のない者には240条前段の罪が成立する。
罪数処理の整理
- 住居侵入を伴う場合: 住居侵入罪(130条)と強盗致死傷罪は手段・結果の関係に立ち、牽連犯として処理されることが多い。
- 強盗が未遂で致傷が既遂の場合: 240条前段の既遂として処理し、強盗の未遂は別罪としない(240条に吸収)。
- 複数被害者がいる場合: 被害者ごとに法益が異なるため、罪数は被害者の数を基準に検討する。
よくある誤解・FAQ
Q. 強盗致死と強盗殺人は別の罪ですか?
条文上はいずれも240条後段で、法定刑も同じ(死刑又は無期懲役)です。違いは死亡結果についての故意の有無だけで、故意がなければ「強盗致死罪」、故意があれば「強盗殺人罪」と通称します。判例(最判昭32.8.1)が故意犯包含説をとるため、両者を同じ条文で処理します。
Q. かすり傷でも強盗致傷になりますか?
判例の立場では、比較的軽微な傷でも「負傷」にあたり240条前段が成立しうるとされています。ただし日常生活に支障のないごく軽微な傷については適用を限定すべきとする学説もあり、軽微傷が問題となる事例では程度の評価を一言加えると丁寧です。
Q. 強盗の暴行そのものではなく、被害者が逃げて転んで怪我をした場合は?
強盗の暴行から逃れようとして転倒・負傷した場合でも、強盗行為と負傷との間に因果関係が認められれば240条前段が成立しえます。被害者の行動が著しく不自然・異常でない限り、因果関係は肯定されやすいといえます。
Q. 致死傷について過失すら不要なのですか?
判例は伝統的に結果的加重犯について過失を不要としてきたとされますが、学説では加重結果について少なくとも予見可能性を要するとする見解が有力です。答案では、因果関係を前提に「強盗行為に類型的に伴う危険の現実化」といえるかを評価しておけば説得的です。
Q. 事後強盗でも240条は使えますか?
使えます。238条が「強盗として論ずる」と定めているため、窃盗犯人が逮捕を免れるなどの目的で暴行・脅迫を加えて相手を死傷させた場合、240条が適用され、事後強盗致死傷罪が成立します。
Q. 240条に未遂はありますか?
あります。243条が240条の未遂を処罰します。もっとも、強盗が未遂でも傷害結果が発生していれば240条前段の既遂とするのが判例で、未遂が問題になるのは主に強盗殺人未遂(殺意をもって暴行したが死亡しなかった場合)の場面です。
試験対策での位置づけ
強盗致死傷罪は、事例問題で頻出の論点である。特に以下の点に注意が必要である。
- 240条の法的性質(故意犯包含説): 強盗殺人を240条後段で処理することの理由付け
- 「強盗の機会」の認定: 逃走中の暴行が含まれるか等の具体的判断
- 共犯者間の殺意の有無が異なる場合: 部分的犯罪共同説による処理
- 事後強盗との組み合わせ: 238条→240条の適用の流れ
- 罪数処理: 強盗致死傷罪と他の犯罪(住居侵入等)との関係
出題の傾向
司法試験・予備試験では、強盗致死傷罪は単独で問われるより、住居侵入・窃盗・事後強盗・共同正犯などと組み合わさった複合事例として出題されることが多い。典型的には、(1)複数人で住居に侵入して財物を奪い、(2)その過程で一部の者が被害者を死傷させ、(3)各人の故意・共謀の範囲が微妙に食い違う、という構造である。この型では、強盗罪の成否→致死傷結果と機会性→故意の有無→共犯の帰責→罪数、という流れを淡々と処理できるかが評価の分かれ目になる。
関連判例
- 最判昭32.8.1: 240条に故意犯が含まれるとした判例
- 最判昭24.5.28: 逃走中の暴行について「強盗の機会」を肯定
- 最決平13.3.27: 共犯者間で殺意が異なる場合の処理
- 最決平6.6.30: 事後強盗致傷罪の成立に関する判例
- 大判大11.12.22: 強盗致傷における傷害の程度に関する判例
※ 判例を引用する際は、必ず正確な事件番号・年月日を確認すること。上記は本記事で扱った範囲の代表的判例であり、論点ごとに最新の判例・解説を参照してほしい。
近接犯罪との区別
強盗致死傷罪は、外形が似た他の犯罪と区別を問われることが多い。違いを整理しておくと事例処理の精度が上がる。
比較対象 共通点 強盗致死傷罪との違い 傷害致死罪(205条)・殺人罪(199条) 人を死傷させる点 強盗(財物奪取目的)を基礎とするか否か。財産犯の要素がなければ240条にはならない 強盗罪(236条) 暴行・脅迫を用いる点 致死傷の結果が生じたか否か。結果が生じれば240条で加重される 傷害罪(204条)・暴行罪(208条) 暴行・傷害がある点 強盗の機会性があるか否か。機会性がなければ単純な暴行・傷害にとどまる 強盗・強制性交等罪(241条) 強盗の機会の重大犯罪 死傷ではなく強制性交等という別の重大結果に対応する規定強盗の機会か、独立の犯罪か
特に重要なのは、強盗の暴行・脅迫と致死傷の暴行が別個の意思決定に基づくかである。財物奪取とは無関係の私的な怨恨で被害者を殴ったような場合は、たとえ時間的・場所的に近接していても「強盗の機会」性が否定され、強盗罪と傷害罪等の併合罪になりうる。逆に、財物確保・発覚防止・逃走という強盗に由来する目的が認められれば、機会性が肯定され240条に一本化される。
一目で分かる要点整理
- 強盗致死傷罪(240条)= 強盗 + 人の死傷。前段が致傷(無期又は6年以上)、後段が致死(死刑又は無期)。
- 判例は故意犯包含説。強盗殺人も強盗傷人も240条で処理する(最判昭32.8.1)。
- 致死傷は「強盗の機会」に生じたことが必要。逃走中の暴行も含まれうる(最判昭24.5.28)。
- 行為と結果の間に因果関係が必要。被害者の自然な逃走反応や身体的素因は因果関係を否定しにくい。
- 共犯者間で殺意が異なれば、部分的犯罪共同説により後段(殺意あり)と前段(殺意なし)に振り分ける(最決平13.3.27)。
- 事後強盗(238条)・昏酔強盗(239条)も「強盗として論ずる」ため240条の主体になる。
- 未遂は243条で処罰。実際に問題になるのは主に強盗殺人未遂。
まとめ
強盗致死傷罪(240条)は、強盗に伴う人身被害を重く処罰する規定であり、その法的性質・適用範囲をめぐって多くの論点が存在する。判例は故意犯包含説を採用し、「強盗の機会」を比較的広く認める立場をとっている。共犯関係における致死傷結果の帰責については、部分的犯罪共同説に基づき、殺意の有無に応じた処理がなされる。事後強盗罪との組み合わせや罪数処理を含め、体系的な理解が求められる重要論点である。