/ キャリア・法曹への道

弁護士のワークライフバランス|残業時間の実態

弁護士のワークライフバランスの実態を徹底解説。事務所規模別の残業時間、働き方の違い、WLB改善のための具体的な方法を紹介します。

この記事のポイント

弁護士の働き方は事務所の規模や専門分野によって大きく異なり、「激務」というイメージが必ずしも全員に当てはまるわけではない。近年はワークライフバランスを重視する傾向が強まっており、働き方の選択肢も広がっている。本記事では、「弁護士のワークライフバランスとは何か」という定義から始めて、「弁護士は本当に激務なのか」「残業時間はどのくらいか」「どうすればワークライフバランスを保てるのか」という、検索する人が最も知りたい疑問に正面から答えていく。

要点を先に整理すると次の通りである。

  • 弁護士のワークライフバランス(WLB)とは、仕事(弁護士業務)と仕事以外の生活(家庭・健康・趣味など)の双方を、どちらも犠牲にせず満足できる水準で両立させている状態を指す。
  • 「弁護士=激務」は半分正解で半分誤りである。五大事務所のM&A・ファイナンス部門のような一部の領域は確かに激務だが、インハウス・小規模事務所・特定分野では一般的な会社員と変わらない、あるいはそれ以下の労働時間で働く弁護士も多い。
  • 残業の有無は「どこで・何を・どう働くか」でほぼ決まる。事務所規模、専門分野、報酬体系(タイムチャージか否か)、自分のキャリアステージの4つが残業時間を左右する主因である。
  • WLBは「事務所選び」「業務効率化」「キャリア設計」の3段階で能動的に保つことができる。激務の事務所に入ってから後悔するより、入口の段階で見極めることが最も効果的である。

弁護士のワークライフバランスとは

定義:仕事と生活のどちらも犠牲にしない状態

弁護士のワークライフバランス(Work-Life Balance、WLB)とは、弁護士としての職務上の責任を果たしつつ、家庭・健康・余暇といった仕事以外の生活も同時に充実させ、その両者がどちらか一方の過度な犠牲の上に成り立っていない状態をいう。単に「労働時間が短いこと」だけを意味するのではなく、本人が納得できる配分で時間とエネルギーを仕事と私生活に振り分けられているかどうかが本質である。

たとえば、月の労働時間が250時間でも、本人が望んでその仕事に没頭しており報酬や成長に満足しているなら、その人にとってのWLBは崩れていないとも言える。逆に、月160時間でも、突発的な呼び出しに常に怯えて休日に心が休まらない状態であれば、WLBが取れているとは言いにくい。WLBは絶対的な労働時間の長さではなく、「コントロール感」と「満足度」を含む概念である点を、まず押さえておきたい。

「ワークライフバランス」と「ワークライフインテグレーション」の違い

近年は、仕事と生活を対立させて「バランス(綱引き)」を取るという発想ではなく、両者を融合させる「ワークライフインテグレーション(統合)」という考え方も広がっている。リモートワークが普及した弁護士業界では、自宅で書面を起案しながら子どもを見る、移動中にリサーチを進めるといった働き方も現実的になった。

概念 発想 弁護士業務での例 ワークライフバランス 仕事と生活を切り分け、配分を最適化する 平日は事務所で働き、土日は完全に仕事から離れる ワークライフインテグレーション 仕事と生活を融合させ、相互に活かす 在宅勤務で家事と起案を組み合わせ、時間を柔軟に使う

どちらが優れているという話ではなく、自分の性格や家庭環境に合うモデルを選ぶことが重要である。

弁護士のWLBが特に問われる理由

なぜ弁護士という職業で、ことさらWLBが議論されるのか。背景には、(1) 依頼者の人生・財産を左右する重い責任、(2) 相手方・裁判所という「自分でコントロールできない外部要因」に締め切りが左右されること、(3) タイムチャージという「働くほど稼げる」報酬構造、という弁護士固有の事情がある。これらの詳細は後述するが、まずは「弁護士のWLBには構造的な難しさがある」という前提を理解しておくとよい。


弁護士は本当に激務なのか

「弁護士=激務」というイメージの正体

結論から言えば、「弁護士は激務」というイメージは、業界の一部(特に大手渉外事務所)の実態が誇張して広まったものであり、弁護士全体に当てはまるわけではない。ドラマや漫画で描かれる弁護士は、徹夜でM&Aのクロージングに臨んだり、大型訴訟で連日深夜まで戦ったりする姿が多い。これらは事実の一面ではあるが、弁護士の働き方の「最も忙しい端」を切り取ったものである。

実際には、弁護士の働き方はグラデーションになっている。激務側の極端には五大事務所のコーポレート部門があり、穏やかな側の極端にはインハウスや地方の一般民事中心の事務所がある。「激務かどうか」は弁護士という資格ではなく、その人が選んだ働き方によって決まる。

激務になりやすい弁護士・なりにくい弁護士

激務になるかどうかを分ける要因を整理すると、次のように可視化できる。

要因 激務になりやすい 激務になりにくい 事務所規模 五大・大手渉外 小規模・インハウス 専門分野 M&A、ファイナンス、大型訴訟 家事事件、顧問業務、一般民事 報酬体系 タイムチャージ中心 固定給・成功報酬中心 役職 アソシエイト(特に若手) パートナー(案件管理側)、オブカウンセル クライアント 大企業・緊急性の高い案件 個人・中小企業の継続案件

この表から分かるのは、「激務を避けたい」なら、左列を避けて右列を選べばよいという単純な事実である。弁護士になること自体が激務を意味するわけではなく、どの組み合わせを選ぶかが分かれ道になる。

激務の「質」を理解する

弁護士の激務には2種類ある点も理解しておきたい。

  1. 量的な激務:単純に労働時間が長い。深夜残業・休日出勤が多い。五大事務所のディール期がこれに該当する。
  2. 質的な激務(精神的負荷):労働時間自体は長くなくても、依頼者の重い人生を背負う、相手方と激しく対立する、結果が読めず常に緊張するといった、精神的なストレスが大きい状態。刑事弁護や家事事件はこちらの負荷が大きいことがある。

WLBを考えるときは、時間の長さ(量)だけでなく、この精神的負荷(質)も含めて自分の許容度を見極める必要がある。


弁護士の残業時間・労働時間の実態

「弁護士の残業はどのくらいか」は、検索する人が最も知りたい論点の一つである。ただし、ここで注意が必要なのは、多くの弁護士には「残業」という概念がそもそも当てはまらないという点である。

そもそも弁護士に「残業代」はあるのか

法律事務所に勤務するアソシエイト弁護士の多くは、労働基準法上の「労働者」ではなく、事務所と業務委託(パートナーシップに準じた関係)で結ばれている、あるいは管理監督者に近い扱いを受けていることが多い。このため、一般の会社員のような「所定労働時間を超えた分の残業代(割増賃金)」という仕組みが適用されないケースが多い。報酬は年俸制や歩合(タイムチャージに連動)で支払われ、何時間働いても残業代が別途つくわけではないのが通例である。

一方、インハウスローヤー(企業内弁護士)は、企業の従業員として労働者性が認められるのが原則であり、就業規則と労働基準法に基づき残業代が支払われる。同じ弁護士でも、勤務形態によって「残業」の扱いがまったく異なる点は、WLBを考えるうえで重要な前提である。

したがって本記事で「残業時間」というときは、厳密な法的概念ではなく、「所定の勤務時間や常識的な勤務時間を超えて働いている時間」という実態ベースの意味で用いる。

事務所規模別の労働時間

弁護士の労働時間は、所属する事務所の規模によって大きく異なる。日本弁護士連合会が実施する「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」のデータを参考に、事務所規模別の傾向を整理する。

事務所規模 平均的な月間労働時間 深夜・休日業務 特徴 五大事務所 220〜280時間 頻繁に発生 案件の締め切りに左右される 大手〜中規模 200〜250時間 時期により発生 分野による差が大きい 小規模事務所 180〜220時間 比較的少ない 裁量が大きい インハウス 160〜200時間 少ない 企業の勤務時間に準ずる

五大事務所(四大を含む大手法律事務所)では、M&Aや大型訴訟のプロジェクトが佳境を迎える時期には、月300時間を超える労働が発生することも珍しくない。深夜2時、3時まで事務所に残り、翌朝9時に出勤するという生活が数週間続くこともある。

一方、小規模事務所やインハウスでは、比較的規則正しい勤務が可能である。特にインハウスローヤーは企業の就業規則に準じた勤務体系であるため、定時退社が基本であり、弁護士としてはワークライフバランスが確保しやすい。

なお、上記の数字はあくまで傾向を示す目安であり、同じ「五大事務所」でも部門(コーポレート系か紛争系か、ジュニアかシニアか)によって体感はまったく異なる。また、月間労働時間220時間というのは、所定労働を月160時間(1日8時間×20日)とすれば月60時間程度の超過勤務に相当し、一般的な「過労死ライン」とされる月80時間に近づく水準である。ディール期にはこれを大きく超えることがあるため、激務側の事務所では健康管理が不可欠になる。

1日の働き方のイメージ

労働時間を月単位で見てもピンとこないため、典型的な1日の流れを事務所タイプ別に示す。

時間帯 五大事務所(繁忙期) 一般民事の中小事務所 インハウス 9:00〜10:00 出勤・メール対応 出勤・スケジュール確認 出勤・朝礼 午前 書面起案・リサーチ 相談対応・期日対応 契約レビュー・社内会議 昼 デスクで昼食 外で昼食 社員食堂 午後 会議・電話会議(海外含む) 起案・打合せ 法務相談・稟議チェック 18:00〜20:00 業務継続 退所・残務 定時退社(18時前後) 深夜 〜翌1〜3時(ディール期) 基本なし なし

このように、同じ弁護士でも1日の過ごし方は大きく違う。WLBを保ちたいなら、この「典型的な1日」が自分の望む生活に近い職場を選ぶことが出発点になる。

分野別の繁閑差

弁護士の労働時間は、専門分野によっても大きく異なる。

M&A・ファイナンス分野は、ディールのクロージング(取引の実行日)が近づくと急激に忙しくなる。デューデリジェンスの期間中は連日深夜までの作業となることが多い。一方、ディールの合間には比較的落ち着いた期間もある。

訴訟分野は、裁判期日や書面の提出期限に合わせた波のある働き方になる。準備書面の提出前や証人尋問の準備期間は忙しいが、期日と期日の間にはゆとりが生まれることもある。

家事事件(離婚・相続)は、比較的予測可能なスケジュールで業務を進められることが多い。緊急性の高い案件(DV被害者の保護命令申立てなど)を除けば、計画的に業務を組み立てやすい分野である。

刑事弁護は、逮捕・勾留された被疑者の弁護では72時間以内に対応しなければならない場面があり、急な呼び出しが発生する。しかし、公判準備は計画的に進められる。


ワークライフバランスが崩れる原因

構造的な要因

弁護士のワークライフバランスが崩れやすい背景には、いくつかの構造的な要因がある。

第一に、時間制報酬(タイムチャージ)の仕組みである。多くの法律事務所では、弁護士の働いた時間に基づいて顧客に請求を行う。このため、「たくさん働くほど事務所の収益が上がる」という構造が生まれ、長時間労働を助長しがちである。特にアソシエイト(若手弁護士)は、一定の稼働時間(ビラブルアワー)の達成を求められることがある。

第二に、案件の突発性である。クライアントからの緊急の相談や、相手方からの予期しない書面の提出、裁判所の急な期日指定など、弁護士の業務には予測が難しい要素が多い。計画的に業務を進めていても、突発的な事態によって予定が大幅に狂うことがある。

第三に、専門職としての責任感である。弁護士は依頼者の権利や利益を守るという重い責任を負っている。「自分が休むことで依頼者に不利益が生じるのではないか」という不安から、休暇を取ることに罪悪感を感じる弁護士も少なくない。

個人的な要因

構造的な要因に加えて、個人の働き方にも改善の余地がある場合が多い。

  • 断れない性格:新しい案件の依頼を断れず、キャパシティを超えた受任をしてしまう
  • 完璧主義:必要以上に時間をかけて書面を推敲したり、調査を深掘りしすぎたりする
  • 業務の属人化:自分しかできない業務を作ってしまい、他の弁護士やスタッフに任せられない
  • ITツールの活用不足:手作業で行っている業務をテクノロジーで効率化する余地がある

弁護士がワークライフバランスを保つ方法

「弁護士のワークライフバランスを保つ」ためにできることは、大きく3つの段階に分けて考えると整理しやすい。(1) 入口(事務所選び)でWLBの良い環境を選ぶ、(2) 日々の業務効率化で時間を生み出す、(3) キャリア全体でライフステージに合わせて働き方を調整する、という3段階である。最も効果が大きいのは(1)であり、入口を誤ると個人の努力だけでWLBを取り戻すのは難しい。以下、順に解説する。

段階 主な手段 効果の大きさ 着手のタイミング (1) 事務所選び 残業文化・WLB制度の見極め 大 就職・転職時 (2) 業務効率化 リーガルテック・委任・時間管理 中 日常 (3) キャリア調整 インハウス転職・時短・独立 大 ライフステージの節目

事務所選びの段階でできること

ワークライフバランスを重視する場合、事務所選びの段階から意識的に情報収集を行うことが重要である。

就職活動の際に確認すべきポイントとして、以下が挙げられる。

  • 事務所の平均的な退所時間はいつか
  • 休日出勤の頻度はどの程度か
  • 有給休暇の取得率はどの程度か
  • 産前・産後休暇、育児休業の取得実績はあるか
  • リモートワーク制度は整備されているか
  • ビラブルアワーの目標値が設定されているか、それは現実的な水準か

これらの情報は事務所の公式サイトだけでは把握しにくいため、サマークラークやインターン、弁護士同士のネットワークを通じて収集することが望ましい。

求人情報・面接で「残業の実態」を見抜くコツ

WLB重視の人が陥りがちな失敗は、「給与」や「扱う案件の華やかさ」に目を奪われて、残業の実態を確認しそびれることである。次のような切り口で質問すると、表面的な制度ではなく実態が見えやすい。

  • 「直近のアソシエイトの平均退所時刻は、繁忙期と閑散期でどのくらい違いますか」
  • 「育休・産休を取得した弁護士はその後どのようなポジションで復帰していますか」(取得実績だけでなく復帰後のキャリアを聞くのがポイント)
  • 「ビラブルアワーの目標値は何時間で、達成しているアソシエイトの割合はどのくらいですか」
  • 「土日にメールやチャットへの返信を求められる文化はありますか」(つながらない権利が尊重されているかの確認)

制度として「リモートワーク可」「フレックスあり」と書かれていても、実際に使われているかは別問題である。「制度の有無」ではなく「制度の利用実態」を確認することが、入口での見極めの肝になる。

業務効率化の実践

日々の業務の中でワークライフバランスを改善するためには、業務効率化が不可欠である。

リーガルテックの活用:契約書レビューツール、法律リサーチツール、案件管理システムなどのリーガルテック製品を積極的に活用することで、定型的な業務にかかる時間を大幅に削減できる。生成AIを法律リサーチの補助として使うことも効果的である。

テンプレートとチェックリストの整備:頻繁に作成する書面のテンプレートや、案件の進行管理に使えるチェックリストを整備しておくことで、毎回ゼロから作業する手間を省ける。

業務の委任:パラリーガルや事務スタッフに任せられる業務は積極的に委任する。弁護士自身がすべての業務を抱え込む必要はない。

タイムブロッキング:1日のスケジュールをあらかじめ時間帯ごとにブロックし、集中して取り組む業務の時間と、メールや電話への対応時間を分ける方法である。これにより、中断による効率低下を防げる。

キャリアの中での調整

弁護士のキャリアは数十年にわたるため、ライフステージに応じて働き方を調整することも重要である。

若手のうちは積極的に業務経験を積み、30代以降で専門性を確立し、40代以降はパートナーとして案件を管理する立場に移行するという従来型のキャリアパスに加えて、以下のような選択肢も増えている。

  • インハウスへの転職:ワークライフバランスを重視する場合、法律事務所からインハウスへの転職は有力な選択肢である
  • 時短勤務・フレックス制度の活用:育児や介護の必要がある場合に、柔軟な勤務体系を選択する
  • 独立開業:自分のペースで業務量をコントロールできる
  • オブカウンセル:パートナーでもアソシエイトでもない、柔軟な立場で事務所に関与する形態

弁護士のメンタルヘルス

ストレスの実態

弁護士はストレスの大きい職業として知られている。アメリカの調査では、弁護士のうつ病の発症率が一般人口の約3倍であるというデータもある。日本でも、弁護士のメンタルヘルスの問題は深刻であり、各弁護士会がメンタルヘルス相談窓口を設置するなどの対策を講じている。

弁護士が抱えやすいストレスの原因として、以下が挙げられる。

  • 依頼者の人生を左右する重大な判断を迫られるプレッシャー
  • 締め切りに追われる日常
  • 相手方弁護士や裁判官との緊張関係
  • 収入の不安定さ(特に個人事務所の場合)
  • 社会的な期待やイメージとのギャップ

メンタルヘルスの維持

弁護士がメンタルヘルスを維持するためには、以下の点を意識することが重要である。

休息の確保:忙しい時期でも、睡眠時間の確保と定期的な休日の取得を心がける。疲労が蓄積すると判断力が低下し、業務の質にも悪影響を及ぼす。

運動の習慣:定期的な運動は、ストレスの軽減と集中力の向上に効果がある。忙しい弁護士には、通勤時の徒歩や階段の使用、昼休みのウォーキングなど、業務の中に組み込める運動がおすすめである。

相談相手の確保:同期の弁護士や信頼できる先輩弁護士など、業務上の悩みを率直に話せる相手を持つことが大切である。弁護士会のメンタルヘルス相談窓口も積極的に活用すべきである。

仕事以外のアイデンティティ:弁護士という職業だけに自己のアイデンティティを一体化させず、趣味や家族関係、地域活動など、仕事以外にも自分の居場所を持つことが精神的な安定につながる。

バーンアウト(燃え尽き)の兆候を見逃さない

WLBの崩壊が長期化すると、バーンアウト(燃え尽き症候群)に至ることがある。弁護士は責任感の強さゆえに無理を重ねやすく、自覚したときには深刻化していることも少なくない。次のような兆候が複数重なったら、早めに休息や相談、働き方の見直しを検討すべきである。

  • 朝、仕事に向かうことに強い億劫さや無気力を感じる
  • 依頼者や相手方に対して以前より共感・関心が持てなくなった(脱人格化)
  • 集中力・判断力が落ち、ミスが増えたと感じる
  • 休日も仕事のことが頭から離れず、休んだ気がしない
  • 睡眠障害・食欲不振・原因不明の体調不良が続く

これらは「気合いが足りない」のではなく、過負荷に対する自然な防御反応である。弁護士会のメンタルヘルス相談窓口や産業医、専門の医療機関に早期につながることが、結果的に弁護士としてのキャリアを長く続けることにつながる。

「つながらない権利」とWLB

近年、労働政策の文脈で「つながらない権利(right to disconnect)」――勤務時間外に業務連絡へ対応しなくてよい権利――が議論されている。弁護士業務はクライアント対応の即応性が求められやすく、夜間・休日でもメールやチャットが飛んでくる職場文化が残っていることがある。WLBを保つうえでは、「いつ連絡を断ってよいか」を事務所内・依頼者との間で明確にしておくことが効果的である。緊急連絡先と通常連絡を分ける、休暇中の窓口を同僚に引き継ぐといった運用上の工夫が、心理的な「常時待機状態」を解消する助けになる。


働き方改革の最新動向

弁護士業界においても、働き方改革の動きは着実に進んでいる。

大手法律事務所を中心に、リモートワーク制度の導入が進んでおり、コロナ禍をきっかけに定着した事務所も多い。完全リモートは難しいが、週に数日は在宅勤務が可能というハイブリッド型の勤務体制が主流になりつつある。

また、ビラブルアワーの見直しを進める事務所も出てきている。長時間労働を前提としたビラブルアワーの目標値を引き下げたり、質的な評価(顧客満足度、案件の成果)をより重視する方向に舵を切る事務所がある。

さらに、男性弁護士の育児休業取得を推進する動きも広がっている。従来は女性弁護士の産休・育休が議論の中心であったが、男性弁護士も育児に積極的に参加するための環境整備が進んでいる。

加えて、人材獲得競争の観点からWLBが「選ばれる事務所の条件」になりつつある点も見逃せない。司法試験合格者にとって就職先の選択肢が広がる中、長時間労働を前提とした事務所は優秀な人材を確保しにくくなっている。事務所側もWLBへの配慮を採用上のアピールポイントとして打ち出すようになり、これが業界全体の働き方を底上げする方向に作用している。WLBは「個人がわがままで求めるもの」から「事務所経営上も合理的なもの」へと位置づけが変化しているのである。

弁護士業務とリーガルテック・生成AIの進展

働き方改革を後押ししているのが、リーガルテックと生成AIの急速な普及である。契約書レビュー、判例・文献リサーチ、ドラフトの下書き作成といった、これまで人手と時間を要した定型業務の一部が自動化・高速化されつつある。これにより、弁護士は付加価値の高い判断業務に時間を集中でき、結果として総労働時間の圧縮につながる可能性がある。ただし、生成AIの出力には誤り(いわゆるハルシネーション)が含まれうるため、最終的な内容の正確性は弁護士自身が責任をもって確認するという前提は変わらない。ツールはあくまで時間を生み出す手段であり、専門家としての判断責任を代替するものではない。


WLBと年収・キャリアのトレードオフ

WLBを語るうえで避けて通れないのが、「ワークライフバランスと年収はトレードオフの関係にあることが多い」という現実である。ただし、これは「常に反比例する」という単純な話ではない。

「時間あたりの満足度」で考える

五大事務所のアソシエイトは、1年目から1,000万円を超える年収を得られることが多いが、その対価として長時間労働を引き受けている。一方、インハウスや小規模事務所では年収が抑えめになるが、その分時間と精神的余裕を得られる。重要なのは年収の絶対額ではなく、「自分が差し出した時間・健康に対して、得られる報酬と満足が見合っているか」という時間あたりの満足度の視点である。

3つの典型パターン

パターン 年収 労働時間 WLB 向いている人 高年収・激務型(大手渉外) 高 長 低 若いうちに稼ぎ・経験を最大化したい人 中年収・中庸型(中堅事務所) 中 中 中 仕事も生活も平均的に満たしたい人 安定・余裕型(インハウス等) 中 短 高 家庭・健康・趣味を優先したい人

どのパターンが正しいということはない。ライフステージによって最適なパターンは移り変わるため、「20代は高年収・激務型で経験を積み、30代後半でインハウスに移ってWLBを確保する」といった時間軸での設計も有効である。


よくある誤解

弁護士のWLBについては、誤解に基づく思い込みが多い。代表的なものを正しておく。

誤解1:「弁護士は全員、深夜まで働いている」
→ 前述の通り、これは一部の領域の話である。インハウスや一般民事中心の弁護士の多くは、一般的な会社員と同程度かそれ以下の労働時間で働いている。

誤解2:「WLBを優先すると弁護士としてのキャリアが終わる」
→ かつてはそうした風潮もあったが、リモートワークや時短勤務が普及し、男性の育休取得も広がる中で、WLBとキャリアを両立する道は確実に増えている。一度ペースを落としても、専門性さえあれば復帰・転身は十分に可能である。

誤解3:「インハウスは弁護士として格下」
→ 古い価値観である。企業法務の高度化に伴いインハウスの専門性・待遇は向上しており、WLBと専門性を両立できるキャリアとして人気が高まっている。

誤解4:「忙しさは個人の能力不足が原因」
→ 前述した構造的要因(タイムチャージ、案件の突発性、外部要因による締め切り)の影響が大きく、本人の努力だけでは解決しきれない部分がある。だからこそ、個人の努力と環境選択の両輪が必要になる。


まとめ

弁護士のワークライフバランスは、事務所の規模、専門分野、キャリアステージによって大きく異なる。大手事務所では依然として長時間労働が発生しやすい一方、インハウスや小規模事務所では比較的柔軟な働き方が可能である。

重要なのは、自分にとっての「理想的な働き方」を明確にし、それに合ったキャリアの選択をすることである。ワークライフバランスを犠牲にして高い報酬を得るのか、報酬をある程度抑えても生活の質を重視するのか。正解はなく、自分の価値観に基づいて選択することが大切である。業務効率化やリーガルテックの活用によって、仕事の質を維持しながら労働時間を短縮する努力も欠かせない。


よくある質問(FAQ)

Q1. 弁護士は土日も仕事をしていますか?

事務所の規模と案件の状況による。大手事務所ではディール期間中に土日出勤が発生することがあるが、常態化しているわけではない。小規模事務所では、裁判の準備が重なった時期に休日作業をすることはあるが、基本的には週末は休みである。インハウスローヤーは企業の勤務カレンダーに従うため、原則として土日は休みである。

Q2. 弁護士の年間休日はどのくらいですか?

明確な統計はないが、一般的な法律事務所では年間110〜120日程度(土日祝日+年末年始+夏季休暇)の休日が設定されている。ただし、実際に休めるかどうかは案件の状況による。インハウスでは企業の有給休暇制度が適用されるため、年間120〜130日程度の休日を確保できるケースが多い。

Q3. ワークライフバランスを重視して弁護士になるのは現実的ですか?

現実的である。弁護士のキャリアには多様な選択肢があり、ワークライフバランスを重視した働き方を選ぶことは十分に可能である。インハウスローヤー、地方の小規模事務所、時短勤務制度のある事務所など、選択肢は増えている。ただし、高い収入とワークライフバランスの両立は容易ではないため、何を優先するかを明確にしておくことが重要である。

Q4. 弁護士の離職率は高いですか?

弁護士の「離職率」という統計は公式には存在しないが、弁護士登録を維持しながら業態を変える(法律事務所からインハウスへ移る、独立開業する等)ケースは多い。弁護士資格自体を放棄する人は少数であるが、仕事への満足度は人によって大きく異なり、燃え尽き症候群(バーンアウト)を経験する弁護士も一定数存在する。

Q5. 弁護士の残業は月どのくらいですか?残業代は出ますか?

事務所や勤務形態によって大きく異なる。大手渉外事務所のアソシエイトでは所定時間を超える勤務が月60〜100時間以上に及ぶこともあるが、インハウスや小規模事務所では月20〜40時間程度、あるいはほとんど残業がないケースもある。残業代については、法律事務所のアソシエイトは年俸制・歩合制で残業代が別途つかないことが多く、インハウスは企業従業員として残業代が支払われるのが一般的である。同じ「弁護士の残業」でも、法的な扱いが勤務形態でまったく異なる点に注意したい。

Q6. 弁護士は激務だと聞きますが、激務でない弁護士もいますか?

いる。「弁護士=激務」というイメージは大手渉外事務所のM&A・ファイナンス部門など一部領域の実態が誇張されて広まったものである。実際には、インハウスローヤー、地方や都市部の一般民事中心の小規模事務所、顧問業務中心の事務所などでは、一般的な会社員と同程度かそれ以下の労働時間で働く弁護士が多い。激務になるかどうかは「弁護士という資格」ではなく「選んだ働き方(事務所規模・分野・報酬体系)」で決まる。

Q7. ワークライフバランスを保つために、まず何をすればよいですか?

最も効果が大きいのは入口(事務所選び)でWLBの良い環境を選ぶことである。激務の事務所に入ってから個人の努力でWLBを取り戻すのは難しいため、就職・転職の段階で「残業の実態」「WLB制度の利用実態」「土日に連絡を求められる文化の有無」を確認することが第一歩になる。すでに激務の環境にいる場合は、リーガルテックの活用・業務の委任・タイムブロッキングといった効率化で時間を生み出しつつ、中長期的にはインハウス転職や時短勤務など働き方そのものの調整を検討するとよい。

Q8. 子育てをしながら弁護士を続けられますか?

続けられる。時短勤務・フレックス制度を整える事務所が増え、男性弁護士の育休取得も広がっている。育児期はインハウスや時短勤務でペースを落とし、子どもの手が離れてから再び業務量を増やすという時間軸での調整も現実的である。専門性を維持していれば、ペースを落とした後の復帰・転身は十分に可能である。


関連記事

#ワークライフバランス #弁護士 #残業

無料機能あり!

司法試験の対策は司法試験ブートラボ!

肢別トレーニング・条文ドリル・論証カード・過去問演習を無料で体験できます。

無料でアカウント作成
記事一覧を見る