/ 刑事訴訟法

訴因変更の要否・可否の判断基準

訴因変更の要否と可否の判断基準を体系的に解説。抽象的防御説と具体的防御説、公訴事実の同一性、縮小認定との関係を整理します。

この記事のポイント

  • 訴因変更の「要否」は、裁判所が訴因と異なる事実を認定する場合に訴因変更手続が必要かという問題である
  • 最決平13.4.11は、訴因変更の要否につき審判対象の画定に必要不可欠な事項と被告人の防御にとって重要な事項を区別する判断枠組みを示した
  • 訴因変更の「可否」は、公訴事実の同一性(312条1項)の範囲内かという問題であり、基本的事実の同一性説が通説である
  • 縮小認定は、訴因変更なしに訴因の一部を認定する場合の問題であり、訴因変更の要否と関連する

訴因変更の基本構造

訴因制度の意義

刑事訴訟法は訴因制度を採用しており、審判の対象は検察官が設定した訴因(256条3項)により画される。裁判所は、訴因として記載された事実の範囲内で審判を行う。

概念 内容 訴因 検察官が起訴状に記載した公訴事実のうち、審判対象を画する具体的事実の記載(256条3項) 訴因変更 検察官が訴因を追加・撤回・変更する手続(312条1項) 訴因の拘束力 裁判所は訴因に拘束され、訴因と異なる事実を認定するには訴因変更手続を要する

訴因変更の「要否」と「可否」の区別

訴因変更をめぐる問題は、以下の二つに整理できる。

  • 要否: 裁判所が訴因と異なる事実を認定しようとする場合に、訴因変更手続が必要か
  • 可否: 訴因変更が申し立てられた場合に、その変更が許されるか(公訴事実の同一性の範囲内か)

訴因変更の要否

問題の所在

裁判所が証拠調べの結果、訴因に記載された事実と異なる事実を認定しようとする場合がある。この場合に訴因変更手続を経る必要があるか否かは、訴因の機能をどのように理解するかに関わる。

学説の対立

学説 内容 論拠 抽象的防御説 訴因変更の要否は、被告人の防御に実質的な不利益を生じるか否かにより判断する 訴因の機能を被告人の防御権の保障に求める。被告人に不意打ちとならない限り訴因変更は不要 具体的防御説 訴因に記載された事実と異なる事実を認定する場合には、原則として訴因変更が必要である 訴因の機能を審判対象の画定に求める。訴因に拘束力を認め、訴因変更なしの異なる事実認定を許さない

最決平13.4.11(スワット事件)

最高裁は、訴因変更の要否について以下の判断枠組みを示した。

判断枠組み

  1. 審判対象の画定に必要不可欠な事項(犯罪の日時・場所・方法等の基本的事実)

    • 訴因に記載された事実と認定しようとする事実との間に変動がある場合 → 原則として訴因変更が必要
  2. 被告人の防御にとって重要な事項(上記以外の事実的記載)

    • 被告人の防御に実質的な不利益を生ずるか否かにより判断
    • 実質的不利益が生じる場合 → 訴因変更が必要
    • 実質的不利益が生じない場合 → 訴因変更は不要

スワット事件への適用

共謀共同正犯の訴因において、実行行為者の明示は審判対象の画定に不可欠な事項ではなく、被告人の防御にとって重要な事項である。本件では、実行行為者が変わっても被告人の防御に実質的な不利益は生じないとして、訴因変更は不要と判断された。


訴因変更の可否

公訴事実の同一性(312条1項)

刑訴法312条1項は、「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない」と定める。

公訴事実の同一性の判断基準

学説 内容 基本的事実の同一性説(通説) 新旧両訴因の基本的事実関係が社会通念上同一であるかにより判断する 訴因共通説 新旧両訴因の間に共通部分がある限り同一性が認められる 非両立説 新旧両訴因が両立しない関係にある場合に同一性が認められる

基本的事実の同一性説の具体的判断

基本的事実の同一性は、以下の要素を総合して判断される。

  • 日時・場所の近接性: 犯行の日時・場所が近接しているか
  • 被害者の同一性: 被害者が同一人物であるか
  • 犯行態様の類似性: 犯行の方法・態様が類似しているか
  • 被侵害法益の同一性・類似性: 保護法益が同一又は類似しているか
  • 行為の重なり合い: 新旧両訴因の行為が事実上重なり合っているか

訴因変更の可否が問題となる具体例

変更前 → 変更後 可否 理由 窃盗 → 詐欺 ○ 同一の財物の取得に関する事実であり基本的事実の同一性あり 殺人 → 傷害致死 ○ 同一の行為から生じた結果であり基本的事実の同一性あり 窃盗 → 盗品等有償譲受け △ 被害品が同一でも行為態様が異なるため、事案による 強盗 → 恐喝 ○ 同一の機会における財物取得であり基本的事実の同一性あり A日の犯行 → B日の犯行 × 日時・場所が大きく異なる場合は基本的事実の同一性なし

最決昭53.3.6

窃盗の訴因から盗品等有償譲受けの訴因への変更が問題となった事案において、最高裁は公訴事実の同一性を肯定した。被害品の同一性、犯行の時間的近接性等を考慮した判断である。


縮小認定

縮小認定とは

縮小認定とは、訴因の一部を認定すること、すなわち訴因に記載された事実よりも縮小された事実を認定することをいう。

縮小認定と訴因変更の要否

類型 訴因変更の要否 例 法条の形式上明らかな縮小認定 不要 殺人の訴因に対し傷害致死を認定、強盗の訴因に対し恐喝を認定 概念上の縮小認定 不要 共謀共同正犯の訴因に対し幇助犯を認定 争いのある縮小認定 場合による 業務上横領の訴因に対し単純横領を認定(身分の有無が争点の場合は訴因変更が必要な場合あり)

縮小認定が認められる根拠

  • 縮小認定の場合、被告人の防御に実質的な不利益は生じない(より軽い事実が認定される)
  • 訴因に含まれる事実の一部を認定するにすぎないため、訴因の範囲内の認定である

訴因変更命令

訴因変更命令とは

裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる(312条2項)。

訴因変更命令の義務性

学説 内容 義務説 一定の場合に裁判所は訴因変更命令を行う義務を負う 裁量説(判例) 訴因変更命令は裁判所の裁量に属し、義務ではない。ただし、裁量権の逸脱は違法となり得る

判例(最決昭58.12.13)

裁判所が訴因変更命令をすべきか否かは、審理の経過等に照らし、裁判所の合理的な裁量に委ねられている。ただし、訴因変更命令を行わなかったことが審理不尽に当たるような場合には、違法となり得る。


訴因変更の手続

手続の流れ

  1. 検察官の請求: 検察官が訴因の追加・撤回・変更を請求する(312条1項)
  2. 裁判所の許可: 裁判所は、公訴事実の同一性を害しない限度において、変更を許さなければならない
  3. 被告人への告知: 訴因変更があった場合、被告人に対し防御の機会が与えられる
  4. 防御準備の機会: 被告人・弁護人に対し、変更後の訴因に対する防御の準備のための期間が与えられることがある

訴因変更の時期

  • 公判前: 公判前整理手続の段階でも訴因変更は可能
  • 公判中: 証拠調べの後、論告・弁論の前に行われることが多い
  • 弁論終結後: 弁論終結後の訴因変更は原則として許されないが、弁論の再開(313条)を経て行うことは可能

試験対策での位置づけ

訴因変更の要否・可否は、刑事訴訟法の最重要論点の一つであり、論文式試験で頻出する。

  • 短答式試験: 公訴事実の同一性の判断、縮小認定の可否、訴因変更命令の性質が出題される
  • 論文式試験: 訴因変更の要否(最決平13.4.11の判断枠組み)を論じさせる問題が定番。可否と併せて出題されることも多い
  • 答案の型: 要否→可否の順に検討する構成が一般的

答案のポイント

  • 訴因変更の要否は、最決平13.4.11の二段階の判断枠組みを正確に示す
  • 訴因変更の可否は、基本的事実の同一性説を基礎に、具体的事実を当てはめる
  • 縮小認定との関係を意識し、訴因変更が不要な場合を的確に指摘する

関連判例

  • 最決平13.4.11(スワット事件): 訴因変更の要否の判断枠組み
  • 最決昭53.3.6: 窃盗から盗品等有償譲受けへの訴因変更の可否
  • 最決昭58.12.13: 訴因変更命令の義務性
  • 最決平24.2.29: 訴因変更の要否と被告人の防御
  • 最大判昭40.4.28: 公訴事実の同一性の判断基準

まとめ

訴因変更の要否と可否は、刑事訴訟法における審判対象論の核心に位置する問題である。

訴因変更の要否については、最決平13.4.11が示した二段階の判断枠組み(審判対象の画定に必要不可欠な事項か否か→被告人の防御に実質的な不利益を生ずるか否か)が判例の基本的立場である。

訴因変更の可否については、公訴事実の同一性(312条1項)の範囲内であるかが基準となり、基本的事実の同一性説が通説・判例である。

縮小認定との関係では、訴因の一部を認定する場合には被告人の防御に不利益が生じないため、訴因変更は原則として不要である。訴因変更命令は裁判所の裁量に属するが、その裁量には一定の限界がある。これらの論点を相互に関連づけて理解することが重要である。

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