民法論文の答案構成パターン|請求権検索型の検討手順
民法論文の答案構成パターンを解説。請求権検索型の検討手順(誰が・誰に・何を請求できるか→法律構成→要件検討)、請求権の優先順位、抗弁の検討まで整理します。
この記事のポイント
民法の論文式試験では、「答案の型(パターン)」を身につけることが合格答案への最短ルートである。ここでいう答案の型とは、(1) 請求権検索型(アンシュプルフ・メトーデ)による「誰が・誰に・何を・どの条文に基づいて請求できるか」の検討手順、(2) 各請求権の要件を順に充足判断していく要件事実的な思考、(3) 請求原因→抗弁→再抗弁という攻撃防御の枠組み、の3つを組み合わせた一連の作法を指す。本記事では、「民法 答案 型」「民法 答案 書き方」「要件事実 答案」という3つの検索意図に正面から答える形で、定義から要件・判例・あてはめ・具体例・FAQ までを通しで整理する。
民法の答案の「型」とは(定義)
答案の型の定義
民法における答案の型とは、どの事例が出ても同じ順序・同じ思考プロセスで処理できるよう定式化された検討手順のことをいう。具体的には、次の3層構造で理解すると整理しやすい。
- 第1層(探索の型) — 請求権検索型。問われている結論(請求が認められるか)から逆算して、根拠となりうる請求権の条文をすべて洗い出す。
- 第2層(要件の型) — 要件事実的思考。洗い出した各請求権について、発生要件を一つずつ列挙し、問題文の事実をあてはめる。
- 第3層(攻防の型) — 請求原因・抗弁・再抗弁の構造。原告の主張だけでなく、被告の反論、さらにその再反論まで段階的に処理する。
この3層を意識して書くと、どの設問でも「型に流し込む」だけで骨格が完成し、思考の漏れがなくなる。逆に型を持たないと、思いついた論点を場当たり的に書き連ねることになり、検討漏れや論理の飛躍が生じやすい。
「型」と「論証」の違い
受験生が混同しがちだが、型(答案構成の枠組み)と論証(個別論点の規範定立)は別物である。型は答案全体の流れを決める骨格であり、論証はその骨格の特定の関節に差し込む肉付けにすぎない。論証パターンを大量に暗記しても、型がなければ「どこで・どの論証を使うか」が分からず、宝の持ち腐れになる。まず型を固め、その上に論証を載せるという順序が正しい。
請求権検索型の基本構造
請求権検索型(アンシュプルフ・メトーデ)とは
請求権検索型(Anspruchsmethode、アンシュプルフ・メトーデ)とは、まず「誰が・誰に・何を請求できるか」を特定し、次にその請求を根拠づける法律構成(請求権の根拠条文)を検索し、最後に各要件の充足を検討するという、ドイツ法由来の事例処理手法をいう。民法の事例問題は、突き詰めれば「ある請求が法的に認められるか」を問うものであり、請求権を起点に組み立てるこの手法は民法答案の最も汎用的な型である。
「Anspruch(請求権)」を「Methode(方法)」によって検索するという発想であり、結論(誰かが誰かに何かを請求する)からスタートして根拠条文へ遡る点に特徴がある。漠然と「論点を探す」のではなく、「請求権を探す」と発想を切り替えるだけで、検討対象が一気に絞り込まれる。
検討の基本手順
1. 請求の特定
→ 誰が(原告)・誰に(被告)・何を(請求内容)
2. 請求権の検索
→ どの条文に基づく請求か(複数ある場合はすべて検討)
3. 要件の検討
→ 請求権の発生要件を一つずつ検討
4. 抗弁の検討
→ 被告側の反論(抗弁事由)を検討
5. 再抗弁の検討
→ 原告側の再反論があれば検討
6. 結論
→ 請求が認められるか否か
なぜ請求権から考えるのか
論点から考え始めると「177条の第三者の意義」「94条2項の類推」といった知識が先行し、その論点が当該事案で本当に問題になるのかを検証しないまま書いてしまう。これに対し請求権から考えると、「Xの所有権に基づく返還請求が認められるか」という具体的な問いが先に立ち、その判断の過程で初めて「Yが177条の第三者にあたるか」という論点が必然的に浮上する。論点は請求権の要件検討の中から自然に立ち上がってくるべきものであり、論点ありきで答案を組むのは型の崩れた書き方である。
請求権の優先順位
検討順序の基本ルール
民法上の請求権は、以下の優先順位で検討するのが一般的である。
順位 請求権の類型 具体例 1 契約に基づく請求権 売買代金請求・賃料請求・債務不履行に基づく損害賠償 2 事務管理に基づく請求権 事務管理に基づく費用償還請求(702条) 3 不当利得に基づく請求権 不当利得返還請求(703条・704条) 4 不法行為に基づく請求権 損害賠償請求(709条以下) 5 物権的請求権 所有権に基づく返還請求・妨害排除請求優先順位の理由
- 契約が最優先 — 当事者の意思に基づく法律関係が最も尊重される。当事者が合意で定めた権利義務は、法が後から用意した一般的な調整ルールよりも優先して適用されるべきだからである。
- 法定債権は契約の補充 — 事務管理・不当利得・不法行為は、契約がない場合の法定の調整手段である。契約という第一次的な根拠がない、あるいは契約の枠を超えた損失調整が必要な場面で初めて登場する。
- 物権的請求権は独立の検討 — 契約関係とは別に、物権に基づく請求も検討する。物権は誰に対しても主張できる絶対権であり、債権的請求とは別系統の根拠を持つ。
この優先順位は、答案上で「まず契約を検討し、契約で処理しきれない部分を法定債権で補い、物権関係は別途検討する」という流れを作るためのものであり、絶対のルールではない。設問が特定の請求権を指定していれば、当然その検討から入る。
検討順序の柔軟な運用
実際の答案では、設問の趣旨に応じて検討順序を柔軟に変更してよい。
- 設問が「損害賠償を請求できるか」と問う場合 → 債務不履行と不法行為に絞って検討
- 設問が「土地の引渡しを求めることができるか」と問う場合 → 契約に基づく請求と物権的請求権を検討
- 設問が特定の法律構成を指定している場合 → 指定された構成を中心に検討
要件事実から考える答案の書き方
要件事実とは(定義)
要件事実とは、一定の法律効果を発生させるために、法規が要求する要件に該当する具体的事実をいう。たとえば「売買契約に基づく代金支払請求権」という法律効果を発生させるには、「財産権移転の約束」と「代金支払の約束」という要件事実が必要となる(民法555条)。要件事実は、抽象的な法律要件(条文の文言)と、目の前の具体的事実(問題文の事実)とをつなぐ橋渡しの概念である。
司法試験・予備試験の民法答案は、純粋な要件事実論(民事実務基礎科目で問われる主張立証責任の厳密な振り分け)そのものを書く場ではないが、「要件を立てて事実をあてはめる」という要件事実的思考は、論文民法の採点の中核を占める。条文の要件を一つも落とさずに摘示し、各要件に対応する事実を問題文から拾って評価する。この往復運動こそが「あてはめ」であり、合格答案と不合格答案を分ける最大の要素である。
要件・事実・評価の三段構造
要件事実的思考に基づく答案の1パラグラフは、原則として次の三段で構成される。
(1) 規範(要件)の摘示
→ 「555条により、当事者の一方が財産権を相手方に
移転することを約し、相手方が代金を支払うことを
約することによって売買契約は成立する」
(2) あてはめ(事実の摘示と評価)
→ 「本件では、AがBに甲土地を引き渡す旨、Bが
3000万円を支払う旨の合意があるから…」
(3) 帰結(要件充足の結論)
→ 「よって売買契約は成立し、代金支払請求権が発生する」
この三段を要件の数だけ反復するのが、要件事実から組み立てる答案の基本リズムである。要件を立てずにいきなり結論を書くと、採点者は「どの要件をどう判断したのか」を追えず、点が入らない。
主要な請求権の要件事実(典型例)
下表は、頻出する請求権について、答案で立てるべき要件事実の骨格を示したものである。条文番号は2020年施行の改正民法(債権法・相続法改正後)を前提とする。
請求権 根拠条文 主要な要件事実 売買代金支払請求 555条 財産権移転の約束・代金支払の約束 貸金返還請求 587条 金銭の返還約束・金銭の交付・弁済期の合意と到来 賃料支払請求 601条 賃貸借契約の成立・目的物の使用収益・一定期間の経過 債務不履行に基づく損害賠償 415条1項 債務の発生原因・債務不履行・損害の発生と額・債務不履行と損害の因果関係 不法行為に基づく損害賠償 709条 故意過失・権利または法律上保護される利益の侵害・損害の発生と額・行為と損害の因果関係 不当利得返還請求 703条 受益・損失・受益と損失の因果関係・法律上の原因がないこと 所有権に基づく返還請求 (明文なし・物権の効力) 原告の所有・被告の占有物権的請求権には直接の根拠条文がなく、所有権など物権の効力として認められる(202条が占有訴権と本権の訴えを区別している点が間接的な根拠として挙げられる)。答案では「所有権の円満な実現が妨げられているから、その回復を求めうる」といった物権の効力から説き起こせばよく、特定の条文番号を無理に挙げる必要はない。
立証責任と抗弁の振り分け
要件事実論のもう一つの柱が、どの事実を原告が主張立証し、どの事実を被告が主張立証するか(立証責任の分配)である。論文民法では厳密な振り分けまでは要求されないことが多いが、攻撃防御の構造を理解しておくと抗弁の書き落としを防げる。
おおまかな指針として、ある事実が「権利の発生を基礎づける事実」であれば請求する側(原告)が、「権利の発生を障害し、または発生した権利を消滅・阻止する事実」であれば相手方(被告)が主張立証責任を負う。たとえば弁済(473条)は債権を消滅させる事実なので、これを主張するのは債務者側(抗弁)である。
要件検討の方法
契約に基づく請求の要件検討
売買代金請求の場合
請求原因:
(1) 売買契約の成立(555条)
- 目的物と代金の合意
(2) 代金支払期日の到来
抗弁:
(1) 弁済(473条)
(2) 同時履行の抗弁(533条)
(3) 消滅時効(166条)
(4) 相殺(505条)
債務不履行に基づく損害賠償の場合
請求原因:
(1) 契約の成立
(2) 債務の発生
(3) 債務不履行の事実
- 履行遅滞(412条)
- 履行不能(412条の2)
- 不完全履行
(4) 損害の発生と額
(5) 因果関係(416条)
抗弁:
(1) 帰責事由の不存在(415条1項ただし書)
(2) 過失相殺(418条)
(3) 損益相殺
不法行為に基づく請求の要件検討
請求原因:
(1) 故意又は過失(709条)
(2) 権利又は法律上保護される利益の侵害
(3) 損害の発生と額
(4) 因果関係
抗弁:
(1) 過失相殺(722条2項)
(2) 消滅時効(724条)
(3) 正当防衛・正当行為
物権的請求権の要件検討
請求原因:
(1) 原告の所有権(物権)の存在
- 取得原因の主張
(2) 被告による侵害(占有・妨害・妨害のおそれ)
抗弁:
(1) 被告の占有権原(賃借権等)
(2) 対抗要件の具備(177条・178条)
(3) 即時取得(192条)
不当利得返還請求の要件検討
請求原因:
(1) 被告の受益
(2) 原告の損失
(3) 受益と損失の因果関係
(4) 法律上の原因がないこと(703条)
検討の視点:
- 給付利得(契約の無効・取消し後の清算)か、
侵害利得(他人の財貨からの利得)かで考え方が異なる
- 善意・悪意で返還範囲が変わる(703条・704条)
不当利得は「契約・物権・不法行為のどれでも処理できないが、当事者間の財産の移動に法律上の原因がない」という場面の受け皿として機能する。要件検討では、特に「法律上の原因の不存在」をどの事実から導くかが論述の山場になる。
要件検討の共通作法
請求権の種類が変わっても、要件検討の作法は共通である。
- 条文の文言を要件に分解する(「故意又は過失」「権利侵害」「損害」「因果関係」のように)。
- 各要件について、問題文の事実を引用し、その事実が要件を満たすと評価できる理由を述べる。
- 争いのある要件には規範(論証)を立て、争いのない要件は簡潔に処理する。
- 要件ごとに小括し、最後に全要件を満たすかを総括する。
この作法を身につけると、初見の請求権でも条文さえ引ければ答案の骨格を組めるようになる。要件事実的思考は、暗記していない論点に出会ったときの「現場思考」の土台でもある。
抗弁・再抗弁の検討
攻撃防御構造の理解
段階 当事者 内容 具体例 請求原因 原告 請求権の発生要件 売買契約の成立・代金額 抗弁 被告 請求権の障害・消滅・阻止 弁済・相殺・同時履行 再抗弁 原告 抗弁の障害・消滅 弁済の否認・相殺の不適格 再々抗弁 被告 再抗弁の障害・消滅 —主要な抗弁の類型
権利障害の抗弁
請求権の発生を妨げる事実を主張するもの。
- 意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)
- 意思無能力・制限行為能力
権利消滅の抗弁
発生した請求権の消滅を主張するもの。
- 弁済(473条)
- 相殺(505条)
- 免除(519条)
- 消滅時効(166条)
権利阻止の抗弁
請求権の行使を一時的に阻止するもの。
- 同時履行の抗弁権(533条)
- 留置権(295条)
- 催告・検索の抗弁(452条・453条)
答案の型を支える重要判例
答案の型は、関連する判例の規範を要件検討の中に正確に組み込むことで完成する。以下では、答案で言及頻度の高い判例を、論点・事案・規範の対応関係に注意して整理する。判例の引用は、年月日と判決・決定の別を正確に示すことが重要である。
物権変動・対抗要件をめぐる判例
- 背信的悪意者排除論 — 最高裁昭和43年8月2日判決は、177条の「第三者」から、登記の欠缺を主張することが信義則に反すると認められる背信的悪意者を除外した。物権的請求や所有権確認の場面で、登記を備えていない第一譲受人が第二譲受人に対抗できるかを論じる際の中核規範である。
- 取消後の第三者 — 取消しによる遡及的無効と、取消後に現れた第三者との関係は、177条の対抗問題として処理するのが判例・通説の立場である(取消しによって復帰的物権変動が生じたと構成する)。答案では「取消前の第三者は96条3項等で、取消後の第三者は177条で処理する」という整理を示すと、型がきれいに通る。
虚偽表示・権利外観法理をめぐる判例
- 94条2項類推適用 — 通謀虚偽表示の規定(94条2項)を、虚偽の外観の作出に本人の帰責性が認められる場面に類推適用する判例法理である。真の権利者が虚偽の外観の作出に積極的に関与した、あるいは存続を明示・黙示に承認したといった帰責性を要件として、外観を信頼した第三者を保護する。答案では「虚偽の外観・本人の帰責性・第三者の信頼」という三要件で論じるのが型である。
賃貸借・契約関係をめぐる判例
- 信頼関係破壊の法理 — 賃貸借契約の解除について、判例は、賃借人に債務不履行(無断転貸・賃料不払等)があっても、それが賃貸人・賃借人間の信頼関係を破壊するに至らない特段の事情があるときは、解除を認めないとしている。612条2項に基づく無断譲渡・転貸を理由とする解除でも、背信行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除権は発生しないとされる。要件検討において「債務不履行の存在」を認定した後、「信頼関係の破壊の有無」という規範を立ててあてはめる流れになる。
判例を引用するときの注意
判例の事件名・年月日・条文番号は、記憶があいまいな場合は無理に特定しない。「判例は…と解している」「通説的見解によれば…」といった形で規範の内容だけを正確に述べ、年月日の創作は絶対に避ける。採点上、規範の内容が正確であれば年月日の摘示がなくても大きな減点にはならないが、誤った年月日や条文番号を書くと法的正確性を疑われ、印象を大きく損なう。
設問別の対応パターン
「請求できるか」型
最も基本的な出題形式。請求権検索型に従い、複数の法律構成を網羅的に検討する。
答案の骨格
1. 契約に基づく請求
→ 要件検討→抗弁の検討→結論
2. 不法行為に基づく請求
→ 要件検討→抗弁の検討→結論
3. 物権的請求権
→ 要件検討→抗弁の検討→結論
「法律関係を論ぜよ」型
当事者間の法律関係を総合的に分析する出題形式。
答案の骨格
1. 各当事者の請求権を網羅的に検討
2. 相互の法律関係(契約関係・物権関係)を明示
3. 対立する主張の優劣を判断
「AはBに対して○○を主張できるか」型
特定の法律構成に絞った出題形式。指定された主張の当否を中心に検討する。
答案の骨格
1. 主張の法的根拠の特定
2. 要件の充足を検討
3. 相手方の反論の検討
4. 結論
「助言せよ」型
実務的な観点から法的助言を求める出題形式。複数の法律構成の中から最も有利なものを選択し、リスク分析も加える。
答案の骨格
1. 依頼者の目的(何を実現したいか)の確認
2. 取りうる法律構成の列挙
3. 各構成の見込み(要件充足の可能性・立証の難易)
4. 最も有利な構成の選択と理由
5. 残るリスク・留意点
「助言せよ」型では、結論を断定するだけでなく、相手方からの反論可能性や立証上の困難まで踏まえて、依頼者にとっての見通しを示す姿勢が評価される。請求権検索型で構成を洗い出した上で、実務的な優劣を比較するという二段構えになる。
設問の問い方による型の使い分け
同じ事案でも、設問の問い方によって書くべき型は変わる。下表は問い方と型の対応を整理したものである。
問い方 主に使う型 注意点 「請求できるか」 請求権検索型(網羅) 複数構成を漏れなく検索 「いかなる請求をなしうるか」 請求権検索型(網羅) 構成の列挙に重点 「○○請求は認められるか」 要件検討型(一本) 指定された構成に集中 「法律関係を論ぜよ」 多面的検討型 双方向の請求・物権関係 「助言せよ」 比較・選択型 優劣とリスクを評価設問文の動詞(請求できるか/論ぜよ/助言せよ)は、出題者が求める答案の型を指示するシグナルである。問いを読み違えると、型そのものを間違えることになるので、最初の問題分析で必ず確認する。
答案構成の具体例
売買契約をめぐる紛争
事案 — AがBに甲土地を売却したが、Bが代金を支払わない。甲土地にはCの抵当権が設定されている。
第1 AのBに対する請求
1 売買代金請求(555条)
(1) 売買契約の成立 → 認定
(2) Bの抗弁
ア 同時履行の抗弁(533条)
→ 登記移転義務との関係
イ 担保責任に基づく代金減額請求(563条)
→ Cの抵当権の存在との関係
第2 BのAに対する請求
1 債務不履行に基づく損害賠償(415条)
(1) Aの債務(抵当権の抹消義務)
(2) 債務不履行の有無
(3) 損害の発生
第3 各請求の結論
あてはめまで書き切った答案例(抜粋)
骨格だけでなく、実際の文章レベルでどう書くかを、不法行為の一場面で示す。要件→あてはめ→結論の三段が反復されている点に注目してほしい。
一 XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求(709条)の可否
1 709条は、故意または過失によって他人の権利または法律上
保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を
賠償する責任を負うと定める。
2 故意・過失について
Yは前方を注視せず自転車を運転していたところ、本来であれば
歩行者Xの存在を容易に認識できたといえる。したがって、Yには
前方注視義務違反という過失が認められる。
3 権利侵害について
Xは衝突により骨折しており、身体という権利が侵害された。
4 損害および因果関係について
Xは治療費50万円を支出しており、これはYの過失行為と相当
因果関係のある損害である。
5 よって、XのYに対する請求は認められる。
このように、条文の要件を見出し化して立て、その下に事実をあてはめて評価し、要件ごとに小括する。要件の数だけこの単位を積み上げれば、論理の飛躍のない答案になる。
答案での書き方(実践のコツ)
書き出しは必ず「請求」から始める
答案の第1文は、論点の説明ではなく「XのYに対する○○請求(条文)が認められるか検討する」という請求の特定から始める。これだけで採点者に「この受験生は型を持っている」という印象を与えられる。逆に、いきなり「177条の第三者とは…」と論点解説から入る答案は、何のためにその論点を論じるのかが伝わらず、評価されにくい。
見出し(ナンバリング)で型を可視化する
- 大項目は「第1・第2」、中項目は「一・二」、小項目は「1・2」、要件は「(1)・(2)」と階層化する。
- 各請求権を独立の項目とし、その中に要件・抗弁・結論を入れ子にする。
- 見出しを見ただけで答案の論理構造が分かる状態を目指す。ナンバリングそのものが「型を踏んでいる」というメッセージになる。
条文は必ず摘示する
民法は条文の科目である。規範を立てるときは、根拠条文の番号を括弧書きで必ず示す。「損害賠償を請求できる(709条)」のように、要件を述べる文に条文を埋め込むのが基本。条文を挙げない答案は、結論だけ書いて根拠を示さない答案と評価される。
配点(事実)の多い要件に厚く書く
すべての要件を同じ分量で書く必要はない。争いのない要件(売買契約の成立など)は「認められる」と一文で処理し、問題文に事実が大量に盛り込まれている要件こそが出題者の狙った主戦場である。そこに論証と詳細なあてはめを集中させる。事実の量は配点のヒントだと考えてよい。
抗弁は「立てて潰す/立てて認める」
被告側の反論は、原告の請求を検討した後に必ず項目を立てる。抗弁の要件を立て、事実をあてはめ、抗弁が認められるか否かを判断する。抗弁を黙殺すると、攻撃防御の型が崩れ、検討漏れと評価される。
比較で覚える「良い型/崩れた型」
観点 良い答案の型 崩れた答案 書き出し 請求の特定から始まる 論点解説から始まる 構造 請求権ごとに項目化 論点を羅列 要件 条文の要件を漏れなく摘示 要件を立てずに結論 あてはめ 事実を引用して評価 事実を写すだけ/評価なし 条文 規範に条文を付す 条文の引用がない 抗弁 立てて判断する 原告の主張だけで終わる時間配分の目安
2時間で2問の場合(1問あたり60分)
工程 時間 内容 問題分析 8分 当事者関係の整理・請求の特定 答案構成 12分 請求権の検索・要件と抗弁のリストアップ 執筆 35分 答案用紙に記述 見直し 5分 条文番号・論理の整合性確認よくある失敗と対策
失敗1:請求権の検索が不十分
- 症状 — 1つの法律構成だけ検討して終わる
- 対策 — 請求権の優先順位に従い、複数の構成を検討する習慣をつける
失敗2:要件の検討が雑
- 症状 — 要件を列挙するだけで、個別の充足について具体的な検討がない
- 対策 — 問題文の事実を要件に丁寧にあてはめる
失敗3:抗弁の検討漏れ
- 症状 — 原告側の請求権の成立だけ検討し、被告側の反論を書かない
- 対策 — 各請求権について、必ず想定される抗弁を検討する
失敗4:条文の引用がない
- 症状 — 法律構成を示さずに結論だけ書く
- 対策 — 民法は条文の科目であることを意識し、必ず根拠条文を明示する
よくある質問(FAQ)
Q1. 民法の答案の「型」は暗記すべきですか
暗記というより、手が勝手に動くレベルまで反復して体に染み込ませるのが目標である。請求の特定→請求権の検索→要件検討→抗弁という流れは、どの事例でも共通なので、過去問を10通も書けば自然に身につく。型は知識ではなく作法なので、繰り返しの中で習得するのが効率的である。
Q2. 要件事実は民事実務基礎科目だけのものではないのですか
厳密な主張立証責任の振り分け(ブロックダイアグラム)は実務基礎科目で問われるが、「要件を立てて事実をあてはめる」という思考は論文民法でも全く同じである。論文民法では立証責任の細かい振り分けまでは要求されないことが多いものの、要件を漏れなく摘示してあてはめる力は両科目に共通する基礎力なので、要件事実の学習は論文対策としても有効である。
Q3. 請求権検索型で複数の構成を書くと時間が足りません
すべての構成を同じ密度で書く必要はない。明らかに成立しない構成は「○○請求も考えられるが、△△の要件を欠き認められない」と短く処理し、本命の構成に時間を割く。検索したことを示しつつメリハリをつけるのが、限られた時間での型の運用である。
Q4. 論点を落とすのが怖くて論点解説から書いてしまいます
論点は請求権の要件検討の中から必然的に立ち上がる。請求権から組み立てれば、必要な論点は自動的に検討対象に入り、不要な論点は除外される。論点を起点にすると「事案に関係のない論点」を書いてしまい、かえって減点される。型に従えば論点落としは構造的に防げると考えてよい。
Q5. 条文番号を覚えきれません。どこまで正確に書くべきですか
頻出条文(177条・709条・415条・555条・703条など)は番号まで正確に覚えるべきだが、マイナーな条文で記憶があいまいなときは無理に番号を書かず、「○○の規定により」と内容で示せばよい。誤った番号を書くほうが、番号を省くより印象が悪い。判例の年月日も同様で、不確実なら規範の内容だけを正確に述べる。
まとめ
民法論文の答案構成は、請求権検索型の手順に従い、「誰が・誰に・何を・どの条文に基づいて請求できるか」を体系的に検討することが基本である。請求権の優先順位(契約→事務管理→不当利得→不法行為→物権的請求権)に従って複数の法律構成を検討し、各要件の充足と抗弁・再抗弁の処理まで漏れなく論じることで、高得点の答案となる。条文を根拠として明示し、問題文の事実を丁寧にあてはめることが何より重要である。