教育を受ける権利と教育の自由|26条・23条の交錯
憲法26条の教育を受ける権利と23条の学問の自由の交錯を解説。教育権の所在、旭川学力テスト事件の判例法理、教科書検定の合憲性を整理します。
この記事のポイント
教育を受ける権利(憲法26条)は、子どもの学習権を中核とし、国家と国民(親・教師)のいずれが教育内容を決定する権能を有するかが争点となる。判例は旭川学力テスト事件で折衷的立場を採り、国にも教育内容への一定の介入権を認めつつ、その範囲を限定した。教科書検定の合憲性、義務教育の無償の範囲も試験頻出の論点である。
26条の規定と趣旨
条文の内容
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
― 日本国憲法 第26条第1項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
― 日本国憲法 第26条第2項
教育を受ける権利の法的性質
26条1項の権利は、以下の側面を持つ。
- 社会権的側面: 国に対して教育条件の整備を求める権利(教育施設の設置・教員の配置等)
- 自由権的側面: 国による教育内容への不当な介入を排除する権利
- 子どもの学習権: 子ども自身が教育を受けることによって人格を発展させる権利
判例は、子どもの学習権を26条の中核に位置づけている(旭川学力テスト事件)。
教育権の所在をめぐる対立
国家教育権説と国民教育権説
学説 内容 根拠 問題点 国家教育権説 教育内容の決定権は国(国会)にある 民主的正統性、教育の機会均等 教育への国家介入を広く認め、教育の自由が形骸化するおそれ 国民教育権説 教育内容の決定権は国民(親・教師)にある 子どもの学習権の充足、教師の教育の自由 教育の全国的水準の維持が困難になるおそれ旭川学力テスト事件(最大判昭51.5.21)の折衷説
全国一斉学力テストの実施が教育基本法10条(旧法)の「不当な支配」に当たるかが争われた。
最高裁は、国家教育権説と国民教育権説のいずれも極端かつ一方的であるとして排斥し、折衷的立場を採用した。
子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある者の責務に属するものとしてとらえられているのである
判例の立場は以下のように整理できる。
- 親: 子どもの教育の自由を有する(家庭教育、私学選択の自由等)
- 教師: 教授の自由を一定範囲で有する。ただし、普通教育においては完全な教授の自由は認められず、合理的な範囲での制約がある
- 国: 子どもの学習権を充足するため、必要かつ相当と認められる範囲において教育内容を決定する権能を有する
教師の教授の自由の範囲
大学教育と普通教育(初等中等教育)で教授の自由の範囲が異なる。
教育段階 教授の自由 根拠 大学 広く認められる 23条の学問の自由の保障 普通教育 一定の範囲に限定 児童生徒の批判能力の未成熟、全国的に一定水準の維持の必要性教科書検定の合憲性
家永教科書訴訟
家永三郎教授が著した高校日本史教科書に対する検定の合憲性が三次にわたって争われた。
第一次訴訟(最判平5.3.16) は、教科書検定が憲法21条2項の「検閲」に該当するかを判断し、教科書検定は一般的な発表を禁止するものではなく(不合格となっても一般書籍として出版可能)、検閲には当たらないとした。
第三次訴訟(最判平9.8.29) は、検定意見のうち一部について裁量権の逸脱を認め、国家賠償を認容した。
検定の合憲性の枠組み
教科書検定は以下の理由から合憲とされている。
- 教科書検定は教科書としての適格性を審査するものであり、一般的な発表を禁止するものではない
- 普通教育の目的に照らし、教育内容に一定の水準を確保する必要がある
- 児童生徒の発達段階に応じた教育内容の適切性を確保する必要がある
義務教育の無償
「無償」の範囲
26条2項後段は「義務教育は、これを無償とする」と規定するが、「無償」の範囲が問題となる。
- 授業料不徴収説(判例・通説): 無償とは授業料を徴収しないことを意味し、教科書代・学用品費等まで含むものではない
- 就学費全額無償説: 授業料のみならず教科書代・給食費等の就学に必要な一切の費用を無償とすべきとする見解
義務教育教科書費国庫負担請求事件(最大判昭39.2.26) は、26条2項の無償は授業料の不徴収を意味するとし、教科書代までは含まないとした。もっとも、教科書無償措置法(1963年)により、義務教育の教科書は事実上無償で配布されている。
よくある質問
Q1: 旭川学力テスト事件の結論はどうなりましたか
最高裁は、全国一斉学力テストの実施自体は「不当な支配」には当たらないとして合憲と判断した。ただし、教育行政の教育内容への介入は「必要かつ相当と認められる範囲」に限定されるとする一般論を示した点が重要である。
Q2: 教師に教科書を使わない自由はありますか
普通教育においては、教師の教授の自由は大学に比べて制限される。教科書の使用義務は学校教育法の定めるところであり、教師が独自の判断で教科書を使用しないことは認められない。ただし、教科書の範囲内での教授方法の工夫は教師の裁量に委ねられている。
Q3: 23条の学問の自由と26条の教育を受ける権利の関係は
23条は研究の自由・研究発表の自由・教授の自由を保障し、26条は教育を受ける権利を保障する。両者は教育の場面で交錯するが、大学における教授の自由は23条で直接保障されるのに対し、普通教育における教授の自由は26条の子どもの学習権との関係で制約を受ける。
Q4: 特別支援教育を受ける権利は26条で保障されますか
26条1項は「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障しており、障害のある子どもが適切な特別支援教育を受ける権利もこれに含まれると解される。教育の機会均等の理念から、障害の程度に応じた合理的配慮が求められる。
関連条文
学問の自由は、これを保障する。
― 日本国憲法 第23条
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
― 日本国憲法 第26条第1項
まとめ
教育を受ける権利(26条)は子どもの学習権を中核とし、教育権の所在については判例が折衷的立場をとる。旭川学力テスト事件は、国に「必要かつ相当と認められる範囲」での教育内容決定権を認めつつ、教師にも一定の教授の自由を認めた。教科書検定は検閲に当たらず合憲であり、義務教育の無償は授業料不徴収を意味する。