告訴事件と親告罪
告訴の意義と効果、親告罪の趣旨、告訴期間・告訴の取消し・告訴不可分の原則を体系的に解説。2017年性犯罪改正による非親告罪化も整理します。
この記事のポイント
- 告訴とは、犯罪の被害者等が捜査機関に対し犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示である(230条)
- 親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起できない犯罪であり、被害者の意思を尊重する趣旨に基づく
- 告訴には期間制限(235条)があり、告訴の取消し(237条)は公訴提起後には許されない
- 2017年刑法改正により、強制性交等罪(旧強姦罪)は非親告罪化された
告訴の意義
告訴とは
告訴とは、犯罪の被害者その他法律上告訴権を有する者が、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいう(230条〜)。
告訴・告発・被害届の区別
概念 主体 内容 効果 告訴(230条) 犯罪の被害者等 犯罪事実の申告+処罰を求める意思表示 親告罪では訴訟条件となる 告発(239条1項) 何人でも 犯罪事実の申告+処罰を求める意思表示 捜査の端緒。訴訟条件ではない 被害届 犯罪の被害者 犯罪被害の事実の届出 処罰を求める意思表示を含まない告訴権者
告訴権者 根拠条文 内容 被害者 230条 犯罪により害を被った者 被害者の法定代理人 231条1項 被害者が未成年者等の場合 被害者の親族 231条2項 被害者が死亡した場合 被害者の配偶者・直系親族・兄弟姉妹 232条 被害者の明示した意思に反しない限り告訴の効果
捜査の端緒
告訴は捜査の端緒の一つとなる。捜査機関は告訴を受理した場合、速やかに捜査を開始しなければならない。
訴訟条件(親告罪の場合)
親告罪においては、告訴は訴訟条件(公訴提起の要件)であり、告訴がなければ公訴を提起することができない。告訴なく公訴が提起された場合、判決で公訴棄却される(338条4号)。
捜査機関の義務
義務 内容 根拠条文 受理義務 告訴があった場合、捜査機関はこれを受理しなければならない 犯罪捜査規範63条 処理の通知義務 告訴事件について処分をしたときは、速やかに告訴人に通知しなければならない 260条 不起訴理由の告知義務 告訴事件について不起訴処分をしたときは、告訴人の請求があれば理由を告げなければならない 261条親告罪の趣旨
親告罪とは
親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪をいう。刑法その他の法律において個別に規定されている。
親告罪の趣旨
親告罪が定められる趣旨は、犯罪の類型により異なる。
趣旨 内容 該当する犯罪の例 被害者の意思の尊重 訴追により被害者のプライバシーが侵害される等の不利益を考慮し、被害者の意思に委ねる 名誉毀損罪(刑法232条1項)、侮辱罪 被害の軽微性 犯罪の被害が軽微であり、被害者が処罰を望まない場合には訴追しない 器物損壊罪(刑法264条)、過失傷害罪(刑法209条2項) 犯人と被害者の関係 親族間の犯罪等で、処罰が必ずしも適当でない場合 親族間の窃盗等(刑法244条2項)※親族相盗例主な親告罪
罪名 根拠条文 名誉毀損罪 刑法232条1項 侮辱罪 刑法232条1項 器物損壊罪 刑法264条 過失傷害罪 刑法209条2項 私用文書等毀棄罪 刑法264条 未成年者略取誘拐罪(営利目的等を除く) 刑法229条 信書開封罪 刑法135条告訴期間
原則(235条1項)
親告罪の告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない(235条1項)。
「犯人を知った日」の意義
「犯人を知った日」とは、犯人が誰であるかを知った日をいう。犯罪事実を知った日ではない。
- 判例(最決昭39.11.10): 犯人を知ったとは、犯人が何人であるかを確定的に知ったことをいい、犯人の住所・氏名等の詳細を知る必要はない
- 被害者が複数の場合: 各被害者ごとに犯人を知った日が起算される
告訴期間の例外
例外 内容 告訴期間のない親告罪 一部の親告罪については告訴期間の定めがない 天災等による障害 天災その他の事由により告訴期間内に告訴できなかった場合、障害の消滅した日から2週間以内に告訴できる(236条)告訴の取消し
告訴取消しの要件(237条)
要件 内容 時期的制限 公訴の提起があるまでに取り消さなければならない(237条1項) 取消し後の再告訴禁止 告訴を取り消した者は、更に告訴をすることができない(237条2項)公訴提起後の告訴取消し
公訴提起後に告訴が取り消された場合でも、既に提起された公訴の効力には影響しない。告訴取消しの時期的制限(237条1項)は、この趣旨に基づく。
条件付告訴・取消しの可否
- 条件付告訴: 条件を付した告訴は、告訴としての効力を有しないと解されている
- 一部取消し: 告訴は犯罪事実全体について行われるものであり、一部のみの取消しは原則として認められない
告訴不可分の原則
主観的不可分
告訴不可分の原則(主観的不可分) とは、親告罪について、共犯者の一人に対して告訴又はその取消しがあった場合、その効力は他の共犯者にも及ぶという原則をいう(238条1項)。
場面 効果 共犯者Aに対する告訴 共犯者B・Cにも告訴の効果が及ぶ 共犯者Aに対する告訴の取消し 共犯者B・Cにも取消しの効果が及ぶ趣旨
- 被害者が特定の共犯者のみを処罰対象とし、他の共犯者を除外することは、公平性の観点から適当でない
- 犯罪事実は一つであり、告訴も犯罪事実全体について行われるべきである
客観的不可分
客観的不可分とは、一個の犯罪事実について告訴がなされた場合、その効力は犯罪事実の全体に及ぶという原則である。告訴は犯罪事実の一部についてのみ行うことはできない。
2017年性犯罪改正と非親告罪化
改正の概要
2017年(平成29年)の刑法改正により、以下の犯罪が非親告罪化された。
改正前 改正後 強姦罪(親告罪) 強制性交等罪(非親告罪) 強制わいせつ罪(親告罪) 強制わいせつ罪(非親告罪) 準強姦罪(親告罪) 準強制性交等罪(非親告罪) 準強制わいせつ罪(親告罪) 準強制わいせつ罪(非親告罪)非親告罪化の趣旨
- 被害者の負担軽減: 親告罪とすることで、告訴するか否かの判断を被害者に委ねることが、被害者に過度の負担を強いていた
- 処罰の確実性: 告訴がなければ処罰できないという制度が、性犯罪の処罰を不確実なものにしていた
- 被害者の意思の尊重: 非親告罪化しても、被害者の意思は捜査・訴追の過程で十分に尊重される
経過措置
改正法は2017年7月13日に施行され、施行前の行為についても適用される(附則2条2項)。ただし、施行前に告訴が取り消されている場合を除く。
告訴に関するその他の問題
告訴の方式
- 書面又は口頭: 告訴は書面又は口頭で行うことができる(241条1項)
- 口頭の場合: 検察官又は司法警察員は調書を作成しなければならない(241条2項)
- 代理人による告訴: 告訴権者の代理人が告訴を行うこともできる(240条)
告訴の受理と捜査
- 捜査機関は告訴を正当な理由なく拒否することはできない
- 告訴を受理した場合、速やかに捜査を開始し、必要な処分を行わなければならない
- 司法警察員が告訴を受理した場合、速やかに検察官に送致しなければならない(242条)
試験対策での位置づけ
告訴と親告罪は、刑事訴訟法の公訴分野における基本テーマであり、短答式試験で頻出する。
- 短答式試験: 告訴権者の範囲、告訴期間の計算、告訴不可分の原則、親告罪の具体例が出題される
- 論文式試験: 告訴の効力や訴訟条件としての位置づけが問われることがある。性犯罪の非親告罪化は近年の法改正として出題可能性がある
- 刑法との関連: 親告罪の具体的な罪名・条文は刑法の知識として必要
答案のポイント
- 告訴期間は「犯人を知った日」から6箇月であり、犯罪事実を知った日ではない点に注意
- 告訴不可分の原則は主観的不可分と客観的不可分を区別して理解する
- 告訴取消しは公訴提起前に限られ、取消し後の再告訴は禁止される点を正確に
関連判例
- 最決昭39.11.10: 「犯人を知った日」の意義
- 最決昭45.12.22: 告訴不可分の原則の適用
- 最決昭58.3.8: 告訴の有効性に関する判断
- 最決平17.12.6: 親告罪における告訴と訴訟条件
まとめ
告訴は、犯罪の被害者等が犯罪事実を申告し処罰を求める意思表示であり、親告罪においては訴訟条件として機能する。告訴権者は被害者のほか、法定代理人・親族等にも認められている。
告訴には6箇月の期間制限があり、告訴の取消しは公訴提起前に限られる。告訴不可分の原則により、共犯者の一人に対する告訴・取消しの効力は他の共犯者にも及ぶ。
2017年刑法改正による性犯罪の非親告罪化は、被害者の負担軽減と処罰の確実性の観点から行われた重要な法改正であり、告訴制度の趣旨を理解する上でも重要な意義を有する。告訴に関する諸規定を条文に即して正確に整理しておくことが求められる。