刑法論文の答案構成パターン|犯罪論体系に沿った検討手順
刑法論文の答案構成パターンを解説。犯罪論体系(Tb→Rw→S)に沿った検討手順、行為者ごとの検討順序、共犯の検討方法、罪数処理まで整理します。
この記事のポイント
刑法の論文式試験では、犯罪論体系(構成要件該当性→違法性→有責性)に従って検討を進めることが答案の基本構造となる。行為者ごと・犯罪ごとに体系的な検討を行い、共犯関係の処理や罪数判断まで漏れなく論じる必要がある。本記事では、刑法論文の答案構成パターンを、検討手順・時間配分・論証の書き方とともに実践的に整理する。
犯罪論体系の基本構造
Tb→Rw→Sの検討順序
刑法の答案は、以下の三段階で犯罪の成否を検討する。
段階 記号 検討事項 構成要件該当性(Tatbestand) Tb 実行行為・結果・因果関係・故意/過失 違法性(Rechtswidrigkeit) Rw 正当防衛・緊急避難等の違法性阻却事由 有責性(Schuld) S 責任能力・故意(違法性の意識の可能性)・期待可能性検討の流れ
1. 構成要件該当性
(1) 客観的構成要件
- 主体(身分犯の場合)
- 実行行為
- 結果
- 因果関係(条件関係+相当因果関係/客観的帰属)
(2) 主観的構成要件
- 故意(認識・認容)
- 目的犯の場合は目的
- 過失犯の場合は注意義務違反
2. 違法性阻却事由
- 正当行為(35条)
- 正当防衛(36条)
- 緊急避難(37条)
3. 有責性
- 責任能力(39条・41条)
- 違法性の意識の可能性
- 期待可能性
行為者ごとの検討順序
基本原則:正犯→共犯の順序
複数の行為者が登場する事案では、原則として以下の順序で検討する。
- 正犯(直接実行した者) を先に検討する
- 共犯(教唆犯・幇助犯) は正犯の検討後に検討する
- 共同正犯 は、実行者の検討後に、他の関与者について共同正犯の成否を検討する
行為者の検討順序の決め方
基準 具体例 犯罪の重大性 殺人→傷害の順に検討 因果の流れ 時系列に沿って、先に行為した者から検討 正犯性の明確さ 直接正犯→間接正犯→共同正犯→教唆→幇助共犯の検討方法
共同正犯(60条)
1. 共同実行の意思(意思の連絡)
- 犯罪を共同して実行する旨の合意があるか
- 暗黙の意思連絡で足りるか
2. 共同実行の事実
- 実行行為の一部を分担したか
- 共謀共同正犯の場合:共謀+重要な役割
3. 正犯性の判断(共謀共同正犯の場合)
- 自己の犯罪として関与したか
- 動機・利益帰属・役割の重要性
教唆犯(61条)
1. 正犯の犯罪が成立すること(共犯の従属性)
2. 教唆行為:犯罪の実行を決意させたこと
3. 因果関係:教唆行為により正犯が犯罪を実行したこと
4. 教唆の故意
幇助犯(62条)
1. 正犯の犯罪が成立すること
2. 幇助行為:正犯の犯行を容易にしたこと
3. 因果関係:幇助行為が正犯の犯行を促進したこと
4. 幇助の故意
各論点の論証パターン
実行行為の認定
論証テンプレート(短縮版)
○○の行為は、△△罪(刑法○条)の実行行為に該当するか。△△罪の実行行為とは、(構成要件的行為の定義)をいう。本件において、(事実の摘示とあてはめ)であるから、実行行為に該当する。
因果関係
論証テンプレート(完全版)
次に、実行行為と結果との間に因果関係が認められるか。因果関係は、条件関係を前提に、行為の危険性が結果へと現実化したかどうかにより判断する(危険の現実化説)。本件では、(条件関係の認定)。そして、(行為の危険性の指摘)が(結果への現実化の経過)として現実化したものといえるから、因果関係が認められる。
論証テンプレート(短縮版)
条件関係は認められる。また、○○行為の危険性が△△の結果として現実化したものであるから、因果関係が認められる。
故意
論証テンプレート
故意とは、犯罪事実の認識・認容をいう。本件で、甲は(認識の内容)を認識しており、故意が認められる。
正当防衛
論証テンプレート
甲の行為は正当防衛(36条1項)として違法性が阻却されないか。正当防衛の要件は、①急迫不正の侵害、②自己又は他人の権利を防衛するため、③やむを得ずにした行為であることである。
罪数処理
基本的な罪数の類型
類型 内容 処理 観念的競合(54条1項前段) 1個の行為が2個以上の罪名に触れる 最も重い刑で処断 牽連犯(54条1項後段) 犯罪の手段・結果の関係にある場合 最も重い刑で処断 併合罪(45条) 確定裁判を経ていない2個以上の罪 最も重い罪の刑に加重 包括一罪 構成要件的評価として1罪 1罪として処理 法条競合 複数の構成要件に該当するが1つに吸収 1罪として処理罪数処理の書き方
1. 各行為者について成立する犯罪を列挙
2. 罪数関係を検討
- 行為の個数の判定(1個の行為か複数の行為か)
- 観念的競合・牽連犯・併合罪の判断
3. 結論を示す
書き方の例
以上より、甲には殺人罪(199条)と銃砲刀剣類所持等取締法違反が成立し、両者は牽連犯(54条1項後段)として科刑上一罪となる。
答案構成のテンプレート
事案の整理
まず、問題文を読んで以下を整理する。
- 行為者の確認 — 誰が登場するか、それぞれの行為は何か
- 時系列の整理 — いつ・どこで・何をしたか
- 結果の確認 — どのような結果が生じたか
- 問題の所在 — どの論点が問われているか
答案の骨格
第1 甲の罪責
1 ○○罪の成否
(1) 構成要件該当性
ア 実行行為
イ 結果
ウ 因果関係
エ 故意
(2) 違法性阻却事由
(3) 有責性
2 △△罪の成否
(同様の検討)
3 罪数
→ 結論
第2 乙の罪責
1 甲の○○罪の共同正犯の成否
(1) 共同実行の意思
(2) 共同実行の事実(または共謀と正犯性)
2 罪数
→ 結論
時間配分の目安
2時間で1問の場合
工程 時間 内容 問題分析 15分 事案の整理・論点の抽出・検討順序の決定 答案構成 25分 各論点の検討順序・論証の骨格をメモ 執筆 70分 答案用紙に記述 見直し 10分 論理的整合性・条文番号・誤字脱字の確認時間配分のコツ
- 論点の軽重を判断する — 主要論点に厚く、マイナー論点は薄く
- 途中答案を絶対に避ける — 最後まで書き切ることを最優先する
- 書きすぎない — 論証は必要十分な長さにとどめ、あてはめに時間を割く
よくある失敗と対策
失敗1:体系的検討を怠る
- 症状 — 論点に飛びつき、Tb→Rw→Sの順序を無視する
- 対策 — 必ず構成要件該当性から検討を始め、体系に沿って検討する
失敗2:あてはめが不十分
- 症状 — 論証は書けるが、問題文の事実を使ったあてはめが薄い
- 対策 — 論証とあてはめの比率を1:1以上にすることを意識する
失敗3:共犯の検討漏れ
- 症状 — 正犯の検討で終わり、共犯関係の検討が抜ける
- 対策 — 行為者の関係図を答案構成時に作成し、漏れをなくす
失敗4:罪数処理の省略
- 症状 — 各犯罪の成否は検討するが、罪数関係の記述がない
- 対策 — 答案の最後に必ず罪数処理を記載する習慣をつける
失敗5:問いに答えていない
- 症状 — 「甲の罪責を論ぜよ」に対し、構成要件の解説に終始する
- 対策 — 常に「甲に○○罪が成立するか」という問いを意識し、結論を明示する
まとめ
刑法論文の答案構成は、犯罪論体系(Tb→Rw→S)に沿った体系的検討を基本とし、行為者ごと・犯罪ごとに漏れなく検討した上で、罪数処理まで論じることが求められる。論証は短縮版と完全版を使い分け、あてはめに重点を置くことで高評価の答案となる。時間配分では、答案構成に十分な時間を確保し、途中答案を避けることが最重要である。テンプレートを身につけつつ、過去問演習で実践力を養おう。