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違憲審査制の体系|付随的違憲審査制と憲法判断の方法

付随的違憲審査制とは何かをわかりやすく解説。警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)、抽象的審査制との違い、法令違憲と適用違憲、合憲限定解釈、憲法判断回避の準則を体系的に整理します。

この記事のポイント

付随的違憲審査制(付随的審査制)とは、通常の裁判所が具体的な事件を裁判する際に、その前提問題として法令の合憲性を審査する制度をいう。 日本国憲法81条はこの付随的審査制を採用したと解されており、警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)がこれを確定させた。本記事では、「付随的違憲審査制とは何か」を定義から判例・あてはめ・答案の書き方まで、抽象的審査制との違いを軸に体系的に整理する。


付随的違憲審査制とは(定義)

ひとことでいうと

付随的違憲審査制とは、通常の裁判所が、具体的な訴訟事件を解決するのに必要な限度で、その前提問題として法律・命令・規則・処分等の合憲性を審査する制度をいう。 「付随的審査制」「付随的違憲審査制」「付随的審査」はいずれも同じ制度を指す呼び名である。

ポイントは次の3点に集約される。

  1. 審査の主体は「通常の裁判所」 — 憲法裁判所のような特別の機関ではなく、地裁・高裁・最高裁という普段から民事・刑事・行政の事件を扱っている裁判所が審査する。
  2. 審査の契機は「具体的な事件」 — 誰かの権利義務が現実に争われている事件(法律上の争訟)があって初めて、その解決のために憲法判断が行われる。
  3. 憲法判断は「前提問題」にすぎない — 違憲審査そのものが目的なのではなく、目の前の事件を解決するための一過程として、必要な限度で行われる。

この「具体的事件に付随して(=ついでに、その解決の前提として)審査する」という性格から、「付随的」審査制と呼ばれる。アメリカ合衆国で判例法上確立した方式であるため、アメリカ型の違憲審査制とも呼ばれる。

なぜ「付随的」なのか — 司法権との結びつき

付随的審査制の本質は、違憲審査権を司法権の作用の一部として位置づける点にある。

裁判所の本来の仕事は「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)を裁くことである。法律上の争訟とは、①当事者間の具体的な権利義務・法律関係の存否に関する紛争であって、②法律を適用することにより終局的に解決できるものをいう。裁判所がこの本来の仕事を行う過程で、適用すべき法令が憲法に違反していないかをチェックするのは、法を解釈・適用するという司法作用に当然に伴う権能である。

したがって付随的審査制では、「具体的事件の存在 → 司法権の発動 → その前提として違憲審査」という順序になる。事件を離れて法令だけを取り出して合憲性を論じることは、司法権の枠を超えるため許されない。ここが次に述べる抽象的審査制との決定的な違いである。

付随的審査制と抽象的審査制の違い

「付随的審査制とは」を理解するうえで欠かせないのが、対極にある抽象的審査制との対比である。

抽象的審査制とは、具体的事件を離れて、法令そのものの合憲性を専門の憲法裁判所が審査する制度をいう。ドイツ連邦憲法裁判所などが代表例であるためドイツ型とも呼ばれる。ここでは具体的な紛争がなくても、一定の請求権者(政府・議会の一定数の議員など)の申立てによって法令の合憲性そのものを争うことができる。

両者の違いを表で整理すると次のとおりである。

項目 付随的審査制(日本・アメリカ型) 抽象的審査制(ドイツ型) 審査の契機 具体的事件(法律上の争訟) 法令自体(具体的事件は不要) 審査主体 通常裁判所(地裁〜最高裁) 専門の憲法裁判所 訴訟の目的 事件の解決(憲法判断は前提問題) 法令の合憲性審査そのもの 判断の対象 事件解決に必要な範囲に限定 法令全体を客観的に審査 違憲判決の効力(典型) 個別的効力(当該事件限り)と理解されやすい 一般的効力(法令を一般的に無効化) 位置づけ 司法権の作用の一部 司法権とは別個の憲法保障作用 日本の採用 採用(81条) 不採用

注意したいのは、「付随的か抽象的か」と「違憲判決の効力が個別的か一般的か」は論理的には別の問題だという点である。付随的審査制を採りながら一般的効力を認める制度設計も理論上はありうる。ただし日本では、付随的審査制を採ることと整合的に、後述の個別的効力説が通説とされている。

81条の文言と付随的審査制

日本国憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定める。

この条文の文言からは、付随的審査制か抽象的審査制かは一義的には決まらない。「一切の法律…が憲法に適合するかしないかを決定する権限」という表現を抽象的審査権まで含むと読む余地がないわけではないからである。そこで、81条が付随的審査制を採用したものであることを確定させたのが、次の警察予備隊違憲訴訟である。


警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)

事案

付随的審査制を採用したことを明らかにしたリーディングケースが警察予備隊違憲訴訟である。原告(当時の野党第一党であった日本社会党の代表者)が、警察予備隊(自衛隊の前身)の設置・維持に関する一切の行為が憲法9条に違反し無効であるとして、その無効確認を、具体的な事件を離れて直接最高裁判所に提訴した事案である。

つまり原告は、最高裁判所を抽象的審査を行う憲法裁判所として扱い、法令・国家行為そのものの合憲性審査を求めたわけである。

判旨

わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。

― 最高裁判所大法廷 昭和27年10月8日

最高裁は、具体的な争訟事件を前提としない抽象的な違憲審査の権限を否定し、訴えを却下した。

判例の読み方 — どこが重要か

この判例から押さえるべき論理の流れは次のとおりである。

  1. 裁判所に与えられているのは司法権である。
  2. 司法権が発動するには具体的な争訟事件が提起されることが必要である。
  3. したがって、具体的事件を離れて将来を予想し抽象的な判断を下す権限は、裁判所にはない。
  4. ゆえに、81条の違憲審査権も具体的事件を前提とする付随的なものとして行使される。

つまり「司法権の本質 → 具体的事件の必要性 → 抽象的審査の否定 → 付随的審査制の確定」という推論である。81条の文言解釈そのものから付随的審査制を導いたのではなく、司法権の性質から導いた点が答案でも重要になる。

関連して押さえるべき判例

  • 下級裁判所の違憲審査権:81条は最高裁を「終審裁判所」と定めるが、違憲審査権は最高裁だけでなく下級裁判所を含むすべての裁判所が行使できるとするのが通説・判例である(最大判昭25.2.1)。最高裁はあくまで終審として最終判断を示すにすぎず、違憲審査が最高裁の専権ではない点も付随的審査制の理解として重要である。

付随的審査制から導かれる帰結

付随的審査制を採るということは、単に「具体的事件が必要」というだけにとどまらず、違憲審査のあり方全体に多くの帰結をもたらす。受験上はこの「帰結」を体系的に押さえることが得点に直結する。

(1) 当事者適格・訴訟要件の重視

具体的事件が必要である以上、原告適格・訴えの利益・事件性といった訴訟要件を満たさない請求では、そもそも憲法判断の入口に立てない。警察予備隊訴訟が「却下」で終わったのも、本案(憲法9条違反かどうか)に入る前に、事件性の要件を欠いたためである。

(2) 憲法判断の必要性の限定

事件解決に必要な限度でしか憲法判断をしないため、後述の憲法判断回避の準則が働く。事件が憲法問題に触れずに解決できるなら、裁判所は憲法判断を差し控えるのが原則的な作法となる。

(3) 違憲判断の方法の限定

違憲とする場合も、事件解決に必要な範囲にとどめるべきだという発想から、法令違憲・適用違憲・処分違憲という段階的な選択肢が問題となる(後述)。

(4) 違憲判決の効力の限定

判断は当該事件の解決のためのものであるから、その効力も当該事件に限られるとする個別的効力説と親和的である(後述)。

このように「具体的事件 → 必要な限度 → 限定的な判断」という一貫した思考が、付随的審査制の答案を貫く背骨になる。


付随的審査制を支える基礎概念

付随的審査制を正確に理解するには、それを支える周辺概念をあわせて押さえておく必要がある。これらは別個の論点として単独で問われることもあるが、付随的審査制の「具体的事件が必要」という核心と直結している。

法律上の争訟(裁判所法3条1項)

付随的審査制の出発点は「具体的事件」、すなわち法律上の争訟の存在である。法律上の争訟とは、①当事者間の具体的な権利義務・法律関係の存否に関する紛争であって、②法律を適用することによって終局的に解決できるもの、をいう。

この2要件のいずれかを欠くと、そもそも裁判所が審理判断する対象にならず、違憲審査の入口にも立てない。たとえば、単なる学問的・技術的な争いや、宗教上の教義の正否そのものを問うような争いは、②の「法律の適用による終局的解決」になじまないため法律上の争訟にあたらない。警察予備隊違憲訴訟も、当事者の具体的な権利義務をめぐる紛争を欠いていたため、本案に入ることなく却下された。

このように、付随的審査制では「法律上の争訟があるか」という入口の審査が、違憲審査の可否を左右する前提として常に意識される。

事件性の要件と原告適格・訴えの利益

具体的事件が必要だということは、訴訟法上は事件性(争訟性)の要件として現れる。具体的には、原告適格(その人が訴える資格をもつか)、訴えの利益(判決を得る現実の必要があるか)、紛争の成熟性(争いが裁判で解決すべき段階に熟しているか)といった要素が問題となる。

付随的審査制の下では、これらの要件を満たさない限り憲法判断には進めない。逆にいえば、原告がいかに重大な憲法問題を提起していても、事件性を欠けば裁判所はその憲法問題を判断できない。ここに、抽象的審査制であれば判断できたはずの問題が、付随的審査制では判断できない、という制度の限界が現れる。

客観訴訟と違憲審査

例外的に、具体的な権利義務の争いがなくても、法律が特に認めた場合には訴訟が許されることがある(いわゆる客観訴訟。住民訴訟や選挙訴訟など)。これらは法律上の争訟そのものではないが、法律が特別に出訴を認めたものである。客観訴訟の中で違憲の主張がされることもあり、たとえば議員定数不均衡をめぐる選挙訴訟は、選挙の効力を争う客観訴訟の形をとりつつ、その中で投票価値の平等という憲法問題が審査されてきた。

このことは、付随的審査制が「純粋に当事者の主観的権利の救済だけ」に閉じているわけではなく、法律の認める枠組みの中で一定の客観的な憲法保障機能も果たしうることを示している。ただしこれはあくまで法律が特別に認めた範囲での例外であり、原則が付随的審査制であることに変わりはない。


制度比較:もう一歩踏み込んで

付随的審査制のメリット・デメリット

観点 付随的審査制(日本) 長所 具体的事件に即した審査ができ、抽象論に陥りにくい/司法の謙抑が働き三権分立と調和的/現実に救済を要する者の保護に資する 短所 事件が起きるまで違憲の法令が放置されうる/事件性を欠くと重大な憲法問題でも判断できない/違憲判断が出るまで時間がかかりやすい

抽象的審査制のメリット・デメリット

観点 抽象的審査制(ドイツ型) 長所 事件を待たずに違憲の法令を早期に除去できる/法令を一般的に無効化でき法的安定に資する/憲法保障機能が強い 短所 抽象論に流れ、具体的妥当性を欠くおそれ/憲法裁判所が立法に強く介入し政治化しやすい/司法積極主義に傾きやすい

この比較は、「どちらが優れているか」を一義的に決めるものではない。付随的審査制は個人の権利救済を司法権の枠内で着実に行うことに重きを置き、抽象的審査制は憲法秩序の客観的保障を強力に行うことに重きを置く、という設計思想の違いとして理解するのがよい。


憲法判断の方法

付随的審査制の下で違憲という結論を出す場合、その「出し方」には段階がある。事件解決に必要な限度という発想から、より限定的な判断方法が望ましいと整理できる。

法令違憲・適用違憲・処分違憲

類型 内容 限定の度合い 法令違憲 法令の規定そのものを違憲と判断する もっとも広い(法令の規定自体を否定) 適用違憲 法令自体は合憲としつつ、当該事件への適用が違憲と判断する 中間的 処分違憲 法令の合憲性に立ち入らず、具体的処分のみを違憲と判断する もっとも限定的
  • 法令違憲は、法令の文言・規定そのものを違憲とする判断であり、影響範囲が最も大きい。代表例として尊属殺重罰規定違憲判決がしばしば挙げられる。
  • 適用違憲は、法令の文言自体は合憲であるとしても、それを当該事件に適用する限りで違憲とする判断である。猿払事件の第一審など、下級審で用いられた例が議論される。
  • 処分違憲は、そもそも法令の合憲性には立ち入らず、その法令に基づく具体的な処分・行為だけを違憲とする判断である。

付随的審査制の「必要な限度で」という発想からは、可能であれば法令そのものを違憲とするより、適用違憲・処分違憲といったより限定的な判断にとどめるのが望ましい方向と整合する。もっとも、規定そのものに違憲の瑕疵があり救済が困難な場合には、法令違憲とすべき場面もある。どの方法を選ぶかは、違憲の瑕疵が法令の文言に内在するのか、それとも運用・適用の段階で生じているのかを見極めて決めることになる。

合憲限定解釈

合憲限定解釈とは、法令の文言が一見すると違憲の疑いを生じさせる場合に、その適用範囲を限定的に解釈することで、法令を違憲とせずに合憲の枠内に収める手法をいう。法令違憲という強い判断を避けるための技法であり、付随的審査制・憲法判断回避の発想と連続している。

判例 内容 税関検査事件(最大判昭59.12.12) 関税定率法上の輸入規制対象である「風俗を害すべき書籍」等の文言を限定的に解釈した 広島市暴走族追放条例事件(最判平19.9.18) 文言上は広範に見える条例の規定を限定解釈し、合憲と判断した

合憲限定解釈には限界もある。解釈によって意味を限定するといっても、法文から離れた解釈は許されない(解釈の限界を超えると、裁判所が立法をしたのと変わらなくなる)。また、刑罰法規や表現の自由の規制では、何が処罰・規制されるのかが通常の判断能力を有する一般人にとって読み取れるものでなければならず、不明確な規定を解釈で救うことには慎重さが求められる。


憲法判断回避の準則

憲法判断回避とは

付随的審査制の下では、事件は必ずしも憲法問題に踏み込まなくても解決できることがある。そのような場合、裁判所は憲法判断を差し控えるべきだとする考え方を憲法判断回避の準則という。

ブランダイス・ルール

アメリカの判例(アシュワンダー判決におけるブランダイス裁判官の補足意見)に由来する一連のルールを総称してブランダイス・ルールと呼ぶ。その中核は、憲法問題に立ち入らなくても事件を解決できる場合には、憲法判断を回避すべきであるという準則である。

この準則は、付随的審査制(事件解決に必要な限度でのみ憲法判断をする)から自然に導かれる。司法の謙抑性・三権分立への配慮という根拠も挙げられる。

日本での適用と批判

判例 態度 恵庭事件(札幌地判昭42.3.29) 被告人の行為が法律の構成要件に該当しない(無罪)として、憲法問題(自衛隊の合憲性)には立ち入らずに事件を解決した 批判 重要な憲法問題について本来判断すべき場面で判断しないのは、かえって司法の責務の放棄ではないか、との批判がある

憲法判断回避は常に正しいわけではない。当事者にとって憲法問題こそが争いの核心であり、それを判断しなければ実質的な解決にならない場合や、同種の事件が繰り返され社会的に判断の必要性が高い場合には、あえて憲法判断に踏み込むべきだという議論もある。回避すべきか踏み込むべきかは、事件の性質・憲法問題の重要性・回避の可能性を総合して考えることになる。


違憲判決の効力

個別的効力説(通説)

ある法令が違憲と判断された場合、その効力はどこまで及ぶのか。これが違憲判決の効力の問題である。

個別的効力説は、違憲判決の効力は当該事件限りであり、違憲とされた法令を一般的・対世的に無効とするものではない、とする立場である。これが通説とされ、付随的審査制と整合的である。

論点 内容 法令の効力 違憲判決が出ても、その法令は形式的には法令集に存続し、自動的に廃止されるわけではない 国会の対応 違憲とされた法令の改廃は国会の権限であり、立法府が対応すべき事柄である 事実上の拘束力 もっとも、最高裁が違憲と判断した以上、その後の同種事件で国家機関は事実上これを尊重するため、結果として一般的効力に近い実効性をもつ

これに対し、違憲判決により法令は一般的に無効になるとする一般的効力説もある。個別的効力説に立つと「違憲とされた法令がなお存続する」という建前になるが、実務では最高裁の違憲判断は強く尊重され、立法による改廃や運用の是正につながるのが通常である。理論上の建前と運用上の実効性のギャップを意識しておくとよい。


答案での書き方・論証例

論述の基本構造

付随的審査制が問われる典型は、「裁判所は◯◯について違憲審査ができるか」「具体的事件を離れた法令の合憲性審査を求める訴えは適法か」といった形である。基本の流れは次のとおり。

  1. 制度の確認:日本の違憲審査制が付随的審査制であることを81条と判例から示す。
  2. 事件性の検討:具体的な法律上の争訟が存在するかを検討する。
  3. 憲法判断回避の検討:憲法問題に触れずに解決できないかを確認する。
  4. 判断方法の選択:違憲とする場合、法令違憲か適用違憲か処分違憲かを選ぶ。
  5. 効力の確認:必要に応じて違憲判決の効力(個別的効力説)に触れる。

論証例:付随的審査制であることの論述

憲法81条は、最高裁判所が一切の法律・命令・規則・処分の憲法適合性を決定する終審裁判所である旨を定める。もっとも、同条の文言からは付随的審査制か抽象的審査制かは一義的には定まらない。この点、裁判所に与えられているのは司法権であり、司法権の発動には具体的な争訟事件の存在が必要である。したがって、具体的事件を離れて法令の合憲性そのものを審査する抽象的審査権は裁判所には認められず、違憲審査権は具体的事件の解決に必要な限度で行使される(最大判昭27.10.8参照)。よって日本の違憲審査制は付随的審査制である。

論証例:抽象的審査を求める訴えの不適法

本件で原告は、具体的な権利義務の争いを離れ、法令そのものの違憲無効確認を求めている。しかし、前述のとおり日本は付随的審査制を採り、裁判所は具体的事件の解決の前提としてのみ違憲審査を行いうるにすぎない。本件には当事者間の具体的な権利義務に関する紛争が存在せず、法律上の争訟(裁判所法3条1項)を欠く。したがって本件訴えは不適法であり、却下を免れない。

加点ポイント

  • 81条の文言から直ちに付随的審査制を導くのではなく、「司法権の性質 → 具体的事件の必要性」という筋で論じると判例の理解が示せる。
  • 違憲とする結論を出す場合、なぜ法令違憲ではなく適用違憲・処分違憲なのか(あるいはその逆か)を、違憲の瑕疵が文言に内在するか運用にあるかで説明すると説得力が上がる。
  • 憲法判断回避は「常に回避が正しい」と書かず、回避の可否を事件の重要性とあわせて評価すると深みが出る。

失点しやすいポイント

  • 81条の文言を引いただけで「だから付随的審査制」と結論づけてしまう答案は、判例の論理(司法権の性質)を踏まえておらず評価が伸びにくい。
  • 「付随的審査制だから違憲判決は当然に個別的効力しかない」と一足飛びに書くと、両者が論理的には別問題であることを見落としているとみなされうる。整合性として個別的効力説が通説、という書き方が無難である。
  • 合憲限定解釈を万能の道具のように使い、法文から離れた限定をしてしまうと、解釈の限界を超えており不適切と評価される。
  • 違憲審査が「最高裁の専権」であるかのように書くのは誤り。下級裁判所も行使できる点を落とさない。

答案の型(テンプレート)

事件性が問題となる出題では、おおむね次の型で書くと安定する。

  1. 問題提起:本件で裁判所は当該違憲の主張を審査できるか。
  2. 規範:日本は付随的審査制を採用する(81条、最大判昭27.10.8)。違憲審査は具体的な法律上の争訟(裁判所法3条1項)の解決に必要な限度で行われる。
  3. あてはめ:本件に法律上の争訟(具体的権利義務の紛争+法適用による終局的解決)があるかを検討する。
  4. 結論:争訟性があれば本案で違憲審査に進み、なければ訴え不適法として却下する。

具体例・あてはめで理解する

例1:抽象的に法律の違憲を訴えたい

「ある法律が違憲だと思うから、裁判所にその法律を無効と宣言してほしい」——これは抽象的審査の請求であり、日本では認められない。自分の具体的な権利が現実に侵害される場面(たとえばその法律に基づいて処分を受けた、刑事訴追された等)が生じて初めて、その事件の中で違憲を主張できる。これが付随的審査制の実践的な意味である。

例2:刑事事件で適用法令の違憲を主張する

刑事被告人が、自分が起訴された根拠である罰則規定そのものが違憲だと主張する場合は、付随的審査制の典型場面である。具体的な刑事事件があり、その有罪・無罪を決める前提として罰則の合憲性が問題になるからである。ここで裁判所は、まず合憲限定解釈で救えないか、構成要件非該当で無罪にできないか(憲法判断回避)を検討し、それでも解決できなければ違憲審査に踏み込む。

例3:違憲判決が出た後の法令

最高裁がある規定を違憲と判断しても、その規定は法令集から自動的に消えるわけではない(個別的効力説)。しかし、その後の同種事件で裁判所・行政はこの違憲判断を事実上尊重し、立法府も改正で対応するのが通常である。「形式的には存続するが、実質的には機能しなくなる」という二面性を押さえておきたい。

例4:合憲限定解釈で救う場面

不明確にも見える規制の文言があり、そのまま広く適用すれば違憲の疑いが生じる場合を考える。裁判所は、いきなり法令違憲とするのではなく、まず文言を合憲の枠内に収まるよう限定的に解釈できないかを検討する(合憲限定解釈)。たとえば「風俗を害すべき」といった抽象的な文言を、処罰・規制の趣旨に照らして合理的な範囲に絞り込むことで、法令全体を違憲にせずに事件を解決する。これも「必要な限度でしか踏み込まない」という付随的審査制の発想の表れである。ただし、限定解釈してもなお規制範囲が一般人にとって不明確なままであれば、解釈による救済には限界がある。

例5:憲法判断を回避すべきか踏み込むべきか

被告人の行為がそもそも適用法令の構成要件にあたらず無罪になる場合、裁判所は無罪という結論で事件を解決でき、法令そのものの合憲性に立ち入る必要はない(恵庭事件の処理)。この場合は憲法判断回避が働く。もっとも、同種の重大な憲法問題が繰り返し争われ、社会的にも判断の必要性が高い場面では、あえて憲法判断に踏み込むべきだという議論もある。回避するか踏み込むかは、回避の可能性と憲法問題の重要性を天秤にかけて決めることになる。


よくある誤解

  • 誤解:「81条があるから日本は付随的審査制だと条文から直接わかる」
    → 81条の文言だけでは付随的か抽象的かは決まらない。司法権の性質と警察予備隊違憲訴訟によって付随的審査制であることが確定したと理解するのが正確である。

  • 誤解:「違憲審査は最高裁だけができる」
    → 違憲審査権は下級裁判所を含むすべての裁判所が行使できる。最高裁は「終審」として最終判断を示すにすぎない。

  • 誤解:「付随的審査制だから違憲判決は必ず個別的効力しかもたない」
    → 付随的審査制であることと違憲判決の効力(個別的か一般的か)は論理的には別問題である。日本では整合的に個別的効力説が通説とされているにすぎず、また実務上は最高裁の違憲判断が事実上広く尊重される。

  • 誤解:「憲法判断回避はいつでもすべき」
    → 回避が望ましい場面が多いものの、重要な憲法問題で判断を避けることには司法の責務放棄との批判もある。回避の可否は事件の重要性とあわせて判断される。


よくある質問(FAQ)

Q1. 付随的違憲審査制とは何ですか?

付随的違憲審査制(付随的審査制)とは、通常の裁判所が、具体的な訴訟事件を解決するのに必要な限度で、その前提問題として法令の合憲性を審査する制度です。違憲審査そのものが目的なのではなく、目の前の事件を解決するための一過程として憲法判断が行われる点が特徴で、アメリカ型とも呼ばれます。日本は憲法81条でこの付随的審査制を採用していると解されています。

Q2. 付随的審査制と抽象的審査制の違いは?

付随的審査制は、具体的な訴訟事件の解決に必要な限度で、前提問題として通常裁判所が法令の合憲性を審査する制度です(アメリカ型)。抽象的審査制は、具体的事件を離れて法令そのものの合憲性を専門の憲法裁判所が審査する制度です(ドイツ型)。日本は81条で付随的審査制を採用しています。違憲審査が司法権の作用の一部か、それとは別個の憲法保障作用かという位置づけの違いが根底にあります。

Q3. なぜ日本は付随的審査制だといえるのですか?

警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)で、最高裁が「具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して抽象的な判断を下す権限はない」と判示し、抽象的審査権を否定したためです。81条の文言ではなく、司法権の性質とこの判例によって付随的審査制であることが確定したと理解されています。

Q4. 最高裁以外の裁判所も違憲審査ができますか?

できます。81条は最高裁を「終審裁判所」と定めていますが、違憲審査権は下級裁判所を含むすべての裁判所が行使できるとするのが通説・判例です(最大判昭25.2.1)。最高裁はあくまで終審として最終的判断を示すにすぎません。

Q5. 法令違憲・適用違憲・処分違憲はどう使い分けますか?

法令違憲は法令の規定自体を違憲とする判断、適用違憲は法令自体は合憲としつつ当該事件への適用を違憲とする判断、処分違憲は法令の合憲性に立ち入らず具体的処分のみを違憲とする判断です。付随的審査制の下では事件解決に必要な限度で判断するため、違憲の瑕疵が運用・適用段階にとどまる場合は、可能な限り限定的な判断(処分違憲・適用違憲)にとどめる方向が憲法判断回避の準則と整合的です。

Q6. 憲法判断回避とブランダイス・ルールの関係は?

ブランダイス・ルールは、憲法問題に立ち入らなくても事件を解決できる場合には憲法判断を回避すべきとする準則を中核とする一連のルールの総称で、アメリカの判例に由来します。日本の憲法判断回避の準則は、このブランダイス・ルールの発想を受け継いだものであり、付随的審査制(事件解決に必要な限度でのみ判断する)から自然に導かれます。

Q7. 違憲判決が出ると、その法律はすぐに廃止されますか?

いいえ。個別的効力説(通説)によれば、違憲判決の効力は当該事件限りであり、法令を一般的に無効化したり自動的に廃止したりするものではありません。法令の改廃は国会の権限です。もっとも、最高裁の違憲判断は事実上強く尊重され、立法による改正や運用の是正につながるのが通常です。


まとめ

  • 付随的違憲審査制(付随的審査制)とは、通常の裁判所が具体的事件の解決に必要な限度で、前提問題として法令の合憲性を審査する制度(アメリカ型)。日本は81条で採用
  • 警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27.10.8)が、司法権の性質から抽象的審査権を否定し、付随的審査制を確定させた
  • 抽象的審査制(ドイツ型)は具体的事件を離れて憲法裁判所が法令を審査する制度で、日本は不採用
  • 違憲審査権は下級裁判所を含むすべての裁判所が行使できる(最大判昭25.2.1)。最高裁は終審
  • 違憲の出し方は法令違憲・適用違憲・処分違憲を区別し、事件解決に必要な限度で限定的に
  • 合憲限定解釈は法令を違憲とせず合憲の枠に収める手法(解釈の限界あり)
  • 憲法判断回避の準則はブランダイス・ルールに由来し、付随的審査制から導かれる
  • 違憲判決の効力は個別的効力説が通説(ただし事実上の尊重で実効性は高い)

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